上 下
71 / 128

人助けをなんとなく躊躇する

しおりを挟む
 猛威を振るった恐ろしいドラゴンは何処かに飛び去っていった。危機迫る展開から解き放たれて、惚けたように空を見上げていた。一息ついて辺りを見回す。とりあえずは一安心といったところだけれど、ドラゴン相手に戦っていた人間たちはボロボロの状態だった。

 「だ、大丈夫ですか?」

 近くにいた半裸のマッチョに声をかけた。マッチョは立ち上がりきれずに岩場に手をついたまま。まだ苦しそうに肩で息をしている。しかし……。駆け寄って手を差し伸べたりするのは、なんとなく気が引けた。むさ苦しいオヤジだし、剥き出しの上半身は汗でギラギラとベタつき泥まみれだったからだ。

 苦しそうだけど、動けるから大丈夫だろう……。

 わたしは、勝手な判断で自分の行動を納得しようとする。困っている人を前に、いざ行動を起こそうとすると躊躇してしまう自分。かつて通勤途中に、倒れている人を見つけた時もそうだった。急いでいるからと、なんとなく理由をつけて素通りした。でも気になって立ち止まり、振り返った。そして救急車を呼ぶべきかとか、モジモジしているうちに、別の誰かが駆け寄ってその人を助けていた。

 自分は何か決定的な感情が欠けているのだろうか。さっきはドラゴンに襲われているのを見て何も考えずに飛び出した。本能的な良心はきっとあるはずだ。だけどちょっとでも冷静に考える時間があると、なぜか思いとどまる。逃げる理由を探してしまう……。

「……た、助かった……。すまん……。何とか大丈夫だが、足をやられた……。それより、アレックスたちは……。 ! おお! 無事か!?」

 歪む表情から一転、驚いたような声をあげた半裸のマッチョ。

 マッチョの視線の先に目をやると、こちらに向かって手を振りながら歩いてくるツカサの姿があった。その後ろには、甲冑の剣士と弓矢の女性。何事も無かったかのように普通に歩いてくる。おそらくツカサが治癒魔法で治してあげたのだろう。

「ツカサ。この人もお願い」

 ツカサが戻って来たのをいいことに、当然の如く言い放った美亜。結局最後まで自分は手を出さないという姿勢を貫くのであった。一方で、その見た目の通り、美亜の執事であるかのように、こき使われる素直なツカサであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...