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ばいばい

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 ツカサを小動物にすれば、軽くて運びやすいことを思いついた。

「ツカサ。わたしが抱っこするから。元の姿に戻りなさい」

 しかし、そうは言ったものの、同時に疑問も感じた。いつの間にやら何故か、連れていかれることに対して積極的で、協力的な提案をしてしまった……。

 シュルッ。

 一瞬にしてツカサが、猫のような小動物に変化する。

「な、なんと!! 今のはなんだ!?」

 白髪紳士の声が若干裏返った。ツカサの変身に、ずいぶんと驚いたようだ。初めてその表情が変わるのを見た。

 と同時に上空から奇声のような叫び声。

「きゃあ! きゃわいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 歓喜の声を上げながら、空中にいたエメラルド色の髪の少女がすっ飛んできた。白い猫のような小動物になったツカサは、流石に殺気を感じたのか、慌てて逃げようとした。しかし、あっという間にエメラルド色の髪の少女にとっ捕まってしまった。

「ふわふわ~。あたいこの子抱っこしていく」

 エメラルド色の髪の少女は、ツカサをぎゅっと抱きしめて頬擦りしている。ツカサは迷惑そうに顔を顰め、手足を突っ張っている。

 ふと横を見ると、ツカサの変身を見た衝撃から立ち直った様子の白髪紳士がわたしの方を向いて立っていた。腰のあたりでわたしに向かって小さく手を広げている。上目遣いに見上げると、無言で見つめるその目と視線があってしまった。白髪紳士がどうしようとしているかは、言わずもがなだろう……。

「後ろからでお願いします……」

 そう言いながら、くるりと白髪紳士に背を向けた。なんか変なことをお願いしているような気になったが、流石に向き合うのは恥ずかしい。近くで見ると白髪紳士は結構イケメンだし、たいして無いけれど胸が気になったりもする。

 白髪紳士に抱きかかえられて、ふわりと空中に浮かんだ。いきなり高速でぶっ飛んでいくのかと思ったが、真上に向かって少しづつ上がっていく。わたしを抱えていることによるバランスの問題なのか、それとも飛ぶことの出来ないわたしに対する気遣いなのだろうか。

 ゆっくりと地上から離れていく。マンションの屋上が見える。その角に乗っかっている望遠鏡も。

 あ! この人たち、魔眼を探しているようなことを言っていた。それはきっと望遠鏡のことに違いない。もしかして望遠鏡を見せるか渡すかすれば、それで済む事だったんじゃないだろうか……。

 そうは思ったが、そんなことは今更だ。ツカサを抱いたエメラルド色の髪の少女は、既に遥か彼方にすっ飛んでいってしまった。

「み~あ~」

 声のする方を見ると、森の方から草原をマンションの方に向かって駆けてくるリンが見えた。

「どこいくの~?」

「知らない。ちょっと行ってくるね~」

 そう言いながら、リンに向かって手を振った。

「ばいば~い」

 可愛らしい声を上げながら、リンも同じように手を振っている。

 この時の美亜は、この先のことなど全く気にしていなかった。この先当分……、いやもしかしたら、二度とこの場所には戻って来れなくなる……。まさか、そんなことになるなんて、これっぽっちも考えていなかった。
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