33 / 128
快適すぎて目的を失う
しおりを挟む
この特にやることのない状況。じゃあ、何かやらなきゃいけないのか。何か生きるための目標とか目的とか作らなきゃならないのか。
そもそもかつての自分は何の為に働いていたのか。美亜は自分に問う。言ってしまえば、生きるため、生活の基盤を築くためだ。突き詰めればお金を稼ぐため。しかし、この世界でお金の必要性を感じない。生活の基盤は、魔法によって既に確保されてしまった。衣食住全てが満たされたことで十分に生きていける。
よって、目的を失った……。
それってどうなんだろう。生きるために目的を持つこと自体が間違っていたという事だろうか。そうなのかもしれない。
ただ生きる。
何のために生きるのか、とか考える必要なんてない。目的なんて持たずに、何かやりたいことがあれば、それをやればいい。だから、それまでは何もやる必要はないのかもしれない。
「う~ん。確かに何もやることはないわね……」
ボソリと呟きながら、紅茶をすする美亜。足を伸ばしてボーッと白い壁紙を眺める。傍には、これまたボーッとした青年が正座している。時々ティーカップに口をつけながら、何の感情をあらわにするでもなく、ただボーッと。
「その格好は、そのままでいいの?」
そう言いながら、ツカサに向かって顎をクイと上げる美亜。
「うん。なかなか便利なんだ」
両の手のひらを見つめながら頷くツカサ。あの時以来すっかりこの姿でいることが定着してしまったようだ。
大宴会で美亜に魔法をかけられ、姿を変えられた動物たち。彼らはその後、自分の意思で元の動物の姿に戻ることが出来た。更には、好きな時に人の姿になることも出来るようになった。美亜の魔法がそういうものだったのか、中途半端だったのか、どのような結果が正しいのかは分からない。そもそも、ここは異世界である。彼らは彼らなりの何らかの異世界的な能力を持っていた。だが、そんなことを美亜は知る由もない。例えば、美亜は大宴会で酔っ払って覚えていないが、彼らはもともと言葉を理解し、話していた。そんな異世界の動物たちに、美亜はこの世界の法則を無視した魔法をかけてしまった。もはや彼らはこの世界において、美亜以上に奇妙奇天烈な存在になってしまったと言わざるをえない。しかし、そんな状況を理解できるわけもない美亜たちであった。
「ふ~ん。まあいいわ、好きにすれば。何だか自由ね」
そう言いながら、ベッドに寄りかかり天井を見上げる美亜。
「ロデムって付けてもよかったかなぁ」
独り言のように、ボソリと呟く。
「ロデム?」
その言葉に反応したツカサが、復唱するように尋ねる。
「そうよ。変身して地を駆けるの」
ボーッと聞いているツカサを前に、美亜は夢想する。ツカサにまたがって野山を駆け巡る姿を……。しかし、サイズ的に本来のツカサは、柴犬よりちょっと小さいくらいの大きさだ。いくら13歳とはいえ美亜がまたがる姿には無理がある。ほぼ虐待に見えなくもない。ラオウやトキは、ライオンくらいの大きさがあった。そっちの方が現実的だし、ビジュアル的にも何だか映える気がする。今度お願いしてみよう……。
美亜はそんなことを考えている。ツカサは何を考えているか分からない。ポカポカと暖かい日差しが降り注ぐマンションの一室で、ボーッと紅茶をすする少女と青年。なんとも平和なひと時。
この世界に時間という概念があるのかどうだかわからないが、何事もなくのんびりと時は流れていく。美亜の存在がこの世界の支配者たちにまだ知られていない、この時点においては……。
そもそもかつての自分は何の為に働いていたのか。美亜は自分に問う。言ってしまえば、生きるため、生活の基盤を築くためだ。突き詰めればお金を稼ぐため。しかし、この世界でお金の必要性を感じない。生活の基盤は、魔法によって既に確保されてしまった。衣食住全てが満たされたことで十分に生きていける。
よって、目的を失った……。
それってどうなんだろう。生きるために目的を持つこと自体が間違っていたという事だろうか。そうなのかもしれない。
ただ生きる。
何のために生きるのか、とか考える必要なんてない。目的なんて持たずに、何かやりたいことがあれば、それをやればいい。だから、それまでは何もやる必要はないのかもしれない。
「う~ん。確かに何もやることはないわね……」
ボソリと呟きながら、紅茶をすする美亜。足を伸ばしてボーッと白い壁紙を眺める。傍には、これまたボーッとした青年が正座している。時々ティーカップに口をつけながら、何の感情をあらわにするでもなく、ただボーッと。
「その格好は、そのままでいいの?」
そう言いながら、ツカサに向かって顎をクイと上げる美亜。
「うん。なかなか便利なんだ」
両の手のひらを見つめながら頷くツカサ。あの時以来すっかりこの姿でいることが定着してしまったようだ。
大宴会で美亜に魔法をかけられ、姿を変えられた動物たち。彼らはその後、自分の意思で元の動物の姿に戻ることが出来た。更には、好きな時に人の姿になることも出来るようになった。美亜の魔法がそういうものだったのか、中途半端だったのか、どのような結果が正しいのかは分からない。そもそも、ここは異世界である。彼らは彼らなりの何らかの異世界的な能力を持っていた。だが、そんなことを美亜は知る由もない。例えば、美亜は大宴会で酔っ払って覚えていないが、彼らはもともと言葉を理解し、話していた。そんな異世界の動物たちに、美亜はこの世界の法則を無視した魔法をかけてしまった。もはや彼らはこの世界において、美亜以上に奇妙奇天烈な存在になってしまったと言わざるをえない。しかし、そんな状況を理解できるわけもない美亜たちであった。
「ふ~ん。まあいいわ、好きにすれば。何だか自由ね」
そう言いながら、ベッドに寄りかかり天井を見上げる美亜。
「ロデムって付けてもよかったかなぁ」
独り言のように、ボソリと呟く。
「ロデム?」
その言葉に反応したツカサが、復唱するように尋ねる。
「そうよ。変身して地を駆けるの」
ボーッと聞いているツカサを前に、美亜は夢想する。ツカサにまたがって野山を駆け巡る姿を……。しかし、サイズ的に本来のツカサは、柴犬よりちょっと小さいくらいの大きさだ。いくら13歳とはいえ美亜がまたがる姿には無理がある。ほぼ虐待に見えなくもない。ラオウやトキは、ライオンくらいの大きさがあった。そっちの方が現実的だし、ビジュアル的にも何だか映える気がする。今度お願いしてみよう……。
美亜はそんなことを考えている。ツカサは何を考えているか分からない。ポカポカと暖かい日差しが降り注ぐマンションの一室で、ボーッと紅茶をすする少女と青年。なんとも平和なひと時。
この世界に時間という概念があるのかどうだかわからないが、何事もなくのんびりと時は流れていく。美亜の存在がこの世界の支配者たちにまだ知られていない、この時点においては……。
10
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる