異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい

お開きにしましょう

　目の前に広がるものすごい数の空になったビールジョッキ。そんな光景をぼんやりと眺める美亜。視界と共にぐるぐると回る頭の中で考える。

　自分は酔っていない。あくまで冷静である。しかし、なにやらあいまいな部分もある。

　これ飲み放題だっけ？　会計誰がするんだっけ？　なんか、知らない人たちと随分盛り上がっちゃったみたいだけど、今何軒めだっけ？

　記憶を確認する為に、自分に問いかける。答えを探そうとするが、考えはまとまらない。そのうち何の質問だったかすら忘れていく。しかし本能的に安全装置が働いたのか、突然常識的な判断を思い立った。

　終電逃すとか最悪だし、前後不覚になる前に帰ろう。

　すでに十分に前後不覚だが、腐っても女子。まったく状況を理解していないものの、酔っぱらいにしてはマシな判断である。

「はあー。飲み過ぎました。わたし帰ります」

　一人勝手に場を閉め始めた美亜。ワイルドな男女たちは、まだがぶがぶとジョッキを傾けて騒いでいる。美亜の挙動を見ているのは、唯一金髪の美青年くらいである。

「すみません。じゃあ、会計は後日ってことで……」

　誰に言っているのか知らないが、ぺこぺこと頭を下げながら立ち上がる美亜。

「だいじょうぶ、だいじょうぶです。一人で帰れますから」

　そう呟きながら、ふらふらと草原を歩き始めた。いったい何処に向かうのか、月明りに照されたその影は、左右にゆらゆらと揺れている。

「……おうち……」

　遠くの方でつぶやいたその声を最後に、美亜は暗闇の中に消えていった。