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第520話 消させるもんか at 1996/3/22

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「みんな、いいか? 聞いて欲しいことがあるんだ――」


 中学二年生最後のLHRも無事終わり、誰が言い出すともなく僕らは『電算論理研究部』の部室へと集まっていた。その中には、室生の姿もある。どうやらロコが連れてきたようだ。


「……僕は、みんなに黙っていたことがある。でもそれをすべて話すことはできない。ごめん」


 ちょっと――! と慌てて室生の隣で立ち上がろうとしたロコだったが、僕は鋭い視線でそれを制し、わずかに首を振って再び座らせてしまう。ロコは苦々しい顔つきでそれに従った。


「水無月さん――ツッキーがいなくなったことは、もうみんな知っているよな? 僕は、ツッキーがこれからやろうとしていることを止めるためにこの時代に来たんだ――遠い未来から」





 し……ん――。
 長すぎる静寂のあと、咲都子が皮肉っぽく口を挟んできた。





「モリケンさぁ……あんた『』ってヤツ……じゃないよね? ほら、ラジオで言ってた」

「あー。伊集院ヒカルの、だったっけ? 僕、あれスキ」


 くすくす、と笑いが起きたが、僕は気にしないことにする。どのみち本当のこと、真実はみんなには伝えられない。ここにいる全員の『記憶』――いや『思い出』を削除なんてできない。


「そう思ってもらってもいいさ。でも、ツッキーを止めないといけない、っていうのは本当だ」

「ツ、ツッキーは一体何をしようとしてるんです?」

「時間を戻そうとしているんだ。に」


 ぷっ、と誰かがこらえきれずにふきだしたが、僕はクソ真面目な顔を崩さずにため息をつく。


「わかってるよ、馬鹿げた話だってことくらいね。でも、僕がそんなつまらない嘘をつくヤツに見えるか? ……ま、信じてくれなくてもいい。でも、ツッキーがやろうとしていることをよく考えてくれ。ただ一年前に戻るだけじゃない。僕らとの『思い出』も消えちまうんだぞ?」

「……、ですか? 古ノ森リーダー?」

「そう、すべて。……ハカセ、君と出会ったことも含めて。そんなの……止めないとダメだろ」

「――っ」


 五十嵐君は思わず止めてしまった息を思い出したかのように、ふぅーっと長い息を吐き漏らした。うつむいて丸メガネの位置を正すが、その表情はよく見えない。

 代わりに純美子が言う。


「それって……夏合宿のこととかもなの、ケンタ君? 西中まつりとか、運動会のことかも?」

「うん。僕らとツッキーが作ってきた『思い出』全部だ。あ……でも、勘違いはしないで欲しいんだ」

「?」


 それは、とても肝心なことだった。


「ツッキーは何も、みんなのことをキライになったワケじゃない、ってことさ」


 このなかで室生だけは知らないようだ。
 ロコが慌てて耳元で囁くように説明をしていた。


「みんなも知ってるだろ? ツッキーの抱えている病気のこと。ツッキーは怖がっているんだ。自分には『未来』がないんじゃないか、って。だから、先に進むのを恐れているんだ。……そりゃそうだよな、誰だって死にたくなんてない。でも……だからって、すべて忘れるなんて!」


 僕はみんなのココロに今のセリフが染みわたった頃合いを見計らってこう続けた。


「僕のたわごとは信じてくれなくたっていい。でも、ツッキーを止めるための手を貸して欲しいんだ。みんなのチカラを貸してくれ! ツッキーの……馬鹿げた選択を止めるために!!」





 すっ――と手が上がる。





 それは一番意外な仲間の手だった。
 ちゃきり――と丸メガネの位置を直してこうこたえる。


「僕は、古ノ森リーダーの言葉、すべてを信じます。事実は、時に空想をも凌駕しますから」

「ハカセ……! ようし、頼んだぜ!」


 そしてそれが呼び水となって、次々に手が挙がる。
 一番最後に手を挙げた室生が、ほら、と笑い、続けるようにとうなずいた。


「ははは……くそ……こんなハナシを信じてくれるなんて……! じゃあ、さっそく作戦だ!」


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