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第513話 残り二週――新しい週のはじまり at 1996/3/18
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残り二週――新しい週がはじまる。
「おーい。みなさん、お静かに。お静かに願いますよ――」
荻島センセイが教壇で、ぱん、ぱん、と柏手のように小気味いい音で両手を打ち鳴らした。
「これからね? 先週やった年度末テストの答案を返しますよ。じゃあ、出席番号順に――」
とたん、うへぇ、と教室内にはため息ともうめきともとれる声が充満する。
先週の僕は、どう控えめに言っても最悪のコンディションだった。
事実、年度末テストを受けたことは辛うじて覚えているものの、どの教科を、いつやったのか、まるで覚えていない。その原因はもちろん僕自身にあるし、それでじゅうぶん後悔もした。反省もしたし、あやうく一周目の人生よりもひどい『ココロ残り』をこしらえるところだった。
ふと、不安になって隣に目を向けると、大きな垂れ下がり気味の瞳と目が合った。
「大丈夫だよ?」
純美子は、にこり、と笑う。
「あたし、ちゃんと試験受けさせてもらってるから。もうちょっとであきらめそうだったけど」
「あ……。そ、その……。なんかごめん……」
「つーんだ。許してあげませーん。うふふふ」
どうやら僕とはすれ違いだったようだけれども、予定の時間より遅れて登校し、荻島センセイと相談してひとりきりで年度末試験を受けていたらしい。あらためてココロの奥が、ずきり、と痛くなったけれど、この痛みは忘れちゃいけないし、ずっと、ずうっと抱えていくべきだ。
「次、古ノ森。……ああ、もう呼ばれる前に、出席番号順に列作って並んどいてくださいねぇ」
慌てて立ち上がる。
小走りで駆け寄り、受け取ると、帰り際に小山田に呼び止められた。
「お、おい。キン――じゃなかった――モリケンよぅ?」
お、僕、どうやら無事ランクアップしたみたいだ。
小山田はそういうのに不慣れなのか、声を潜めているつもりながら、かなり大きい声で言う。
「なぁ、この前もらったアレなんだが……いつ使うんだ? ちっとも鳴りやしねぇじゃねえか」
「あー、アレのことね……」
そう頻繁に鳴り出してもらっては困る。わざわざ僕が、五十嵐君に頼み込んで『ふたつ』追加製作してもらったのは、僕らがピンチに陥った時の『保険』の意味をこめてなのだから。
「鳴らなきゃ鳴らないで、平穏無事、ってことだよ、ダッチ。そう神経質にならなくてもいい」
「そりゃあそうなんだろうけどよ――」
そう言って短髪の頭をぽりぽりかきながら、僕の視線の先に気づいたようで、小山田はちょっぴり恥ずかしそうに笑った。でも、うれしそうでもある。花丸もらった幼稚園児に似ていた。
「あいかわらずひでぇ点数だろ? でもよ? これでもちぃっとばかりはよくなったんだぜ?」
「勉強、がんばってるもんね――横山さんと一緒に」
「まぁな」
まるで口笛でも吹くかのようにくちびるをとがらせ、にやけそうな顔を引き締めている。
「美織は俺様と違って頭がいいんだぜ? 教え方もうめぇ。ありゃあ、いいセンセイになれる」
うんうん、じゃないだろ。
そこで僕は、つい、意地悪をしたくなってしまったのだ。
「センセイもそうだけど、横山さんのホントの夢って違うと思うけど……。ごにょごにょ……」
「はぁ!? ……な、何? ………………おまっ――お、おい! このっ!」
「ぼっ、暴力ハンターイ!! ね? 横山さん? ……って、わわわ、冗談だって、冗談っ!」
「おーい。みなさん、お静かに。お静かに願いますよ――」
荻島センセイが教壇で、ぱん、ぱん、と柏手のように小気味いい音で両手を打ち鳴らした。
「これからね? 先週やった年度末テストの答案を返しますよ。じゃあ、出席番号順に――」
とたん、うへぇ、と教室内にはため息ともうめきともとれる声が充満する。
先週の僕は、どう控えめに言っても最悪のコンディションだった。
事実、年度末テストを受けたことは辛うじて覚えているものの、どの教科を、いつやったのか、まるで覚えていない。その原因はもちろん僕自身にあるし、それでじゅうぶん後悔もした。反省もしたし、あやうく一周目の人生よりもひどい『ココロ残り』をこしらえるところだった。
ふと、不安になって隣に目を向けると、大きな垂れ下がり気味の瞳と目が合った。
「大丈夫だよ?」
純美子は、にこり、と笑う。
「あたし、ちゃんと試験受けさせてもらってるから。もうちょっとであきらめそうだったけど」
「あ……。そ、その……。なんかごめん……」
「つーんだ。許してあげませーん。うふふふ」
どうやら僕とはすれ違いだったようだけれども、予定の時間より遅れて登校し、荻島センセイと相談してひとりきりで年度末試験を受けていたらしい。あらためてココロの奥が、ずきり、と痛くなったけれど、この痛みは忘れちゃいけないし、ずっと、ずうっと抱えていくべきだ。
「次、古ノ森。……ああ、もう呼ばれる前に、出席番号順に列作って並んどいてくださいねぇ」
慌てて立ち上がる。
小走りで駆け寄り、受け取ると、帰り際に小山田に呼び止められた。
「お、おい。キン――じゃなかった――モリケンよぅ?」
お、僕、どうやら無事ランクアップしたみたいだ。
小山田はそういうのに不慣れなのか、声を潜めているつもりながら、かなり大きい声で言う。
「なぁ、この前もらったアレなんだが……いつ使うんだ? ちっとも鳴りやしねぇじゃねえか」
「あー、アレのことね……」
そう頻繁に鳴り出してもらっては困る。わざわざ僕が、五十嵐君に頼み込んで『ふたつ』追加製作してもらったのは、僕らがピンチに陥った時の『保険』の意味をこめてなのだから。
「鳴らなきゃ鳴らないで、平穏無事、ってことだよ、ダッチ。そう神経質にならなくてもいい」
「そりゃあそうなんだろうけどよ――」
そう言って短髪の頭をぽりぽりかきながら、僕の視線の先に気づいたようで、小山田はちょっぴり恥ずかしそうに笑った。でも、うれしそうでもある。花丸もらった幼稚園児に似ていた。
「あいかわらずひでぇ点数だろ? でもよ? これでもちぃっとばかりはよくなったんだぜ?」
「勉強、がんばってるもんね――横山さんと一緒に」
「まぁな」
まるで口笛でも吹くかのようにくちびるをとがらせ、にやけそうな顔を引き締めている。
「美織は俺様と違って頭がいいんだぜ? 教え方もうめぇ。ありゃあ、いいセンセイになれる」
うんうん、じゃないだろ。
そこで僕は、つい、意地悪をしたくなってしまったのだ。
「センセイもそうだけど、横山さんのホントの夢って違うと思うけど……。ごにょごにょ……」
「はぁ!? ……な、何? ………………おまっ――お、おい! このっ!」
「ぼっ、暴力ハンターイ!! ね? 横山さん? ……って、わわわ、冗談だって、冗談っ!」
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