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第488話 彼女と彼氏の心意気 at 1996/2/28
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「――ってなるワケですねー。……ロコちゃん、ここまではわかります?」
「うんうん。大丈夫だって、かえでちゃん。半分くらいはわかったようなカンジするから」
実に頼りないセリフに思わず乾いたあいまいな笑いで応じるしかない佐倉君だったが、それでもロコの学力は着実にアップしていた。去年五月からはじまった勉強会。あの頃に比べたら、実際に中間や期末のテストでの成績は目に見えて上がっている。僕はすっかり感心していた。
(自分の未来を変えたい、って、ロコの本気が伝わってくる。やっぱりすごいヤツだなぁ……)
一度はすべては無駄だと自暴自棄になっていたこともあったのだけれど、僕とムロの間に生じていた亀裂が修復され、また小学校の頃のような仲の良さを取り戻したことがきっかけになったようだ。初詣のバトル――まあ、一方的にやられただけだけど――は無駄じゃなかった。
そして、
「五十嵐君? ここなんだけど……どうもうまくいかないんだ。教えてもらってもいいかな?」
「もちろんですよ。あ……あとですね、差し支えなければ僕のことはハカセと呼んでください」
「え……。ああ、うん、わかった。よろしく頼むよ、ハカセ!」
月曜から今週いっぱいやる予定の全国模試のおさらい会のハナシを持ちかけると、ためらうことなく『僕もいいかな?』と言って嬉しそうに笑ったのは室生だった。まだ今回の参加が二回目だけれど、生まれ持ったぶっ壊れ系スキル『人たらし』のおかげで、引っ込み思案な『電算論理研究部』の部員たちもすっかり慣れたようだ。
ただし――である。
「え、えっとー……ム、ムロ? その問題ならさ、僕だって教えてあげられるんだけど……?」
「モリケンは嫌だ」
「なんでだよ!?」
「……なんか、負けた気がするからね」
にかっ――真っ白な歯を見せるムロ。
爽やかなとびきりの笑顔で言うセリフじゃないから、それ。
がーん! とわかりやすい表情を浮かべてまわりを見ると、みんながくすくす笑っていた。おいおい、そこは『ウチのリーダーはすごいんですから』的なエピソードをひっぱり出して、逆に室生を感心アンド改心させる流れじゃないのかよ。よりによって、純美子まで忍び笑いを漏らしているじゃないか。
(おいおい……気づいたら、部ごと全部乗っ取られてた、なんてNTRエンドは嫌だぞ……!)
ついついそんなことを考えちゃうところが、陰キャ特有のネガティブ思考。
ああ、やだやだ。
そんな僕に、ひと段落ついたらしい渋田が、うーん、と伸びをしながら言った。
「そういえば、モリケン? 例のヤツが現れたんだって? ノハラさんに付きまとってるヤツ」
僕は視線を投げてきたロコと室生と目を合わせてからこたえる。
「うん。そうなんだ。なんとか追い返したけど、結構面倒で厄介なヤツだったよ――大月大輔」
僕は、まずはじめにロコと、それから室生と相談した上で、『電算論理研究部』のメンバーにも情報共有することにしたのだった。なにしろ前回のタツヒコの騒動では、みんなの助けがなければ、僕はなすすべなく敗北していただろうからだ。あの時は含まれていなかったけれど、『ロコは必ず守る』という決意と覚悟を見せた彼氏である室生にも、ある程度の情報を共有して連携していく必要があると判断したのだ。
なにより、小学生の僕にとって『憧れ』の対象でもあった室生なら、という想いがあったからだ――そんな気恥ずかしいこと、口が裂けても伝える気はないけれど。
「でも……どうやらアイツが来ることはもうなさそうだよ。かといって油断もできないけれど」
「? ?」
僕のセリフに渋田はきょとんとした。無理もない。
だが、正直には話せない内容だ。
「こっちのハナシ。で……そういえばハカセから報告あるって聞いたけど?」
「ええ。現在、懇意にしている技術工作部に、例のトランシーバ―の追加製作を依頼中でして」
「さすがナイスタイミングだね、ハカセ。ちょうど頼もうと思ってたんだ。だけど、数が――」
「――二台、ですよね? リーダーがお望みの台数は?」
さすがだ――ハカセの名は伊達じゃない。
僕は、にやり、と笑ってうなずくのだった。
「うんうん。大丈夫だって、かえでちゃん。半分くらいはわかったようなカンジするから」
実に頼りないセリフに思わず乾いたあいまいな笑いで応じるしかない佐倉君だったが、それでもロコの学力は着実にアップしていた。去年五月からはじまった勉強会。あの頃に比べたら、実際に中間や期末のテストでの成績は目に見えて上がっている。僕はすっかり感心していた。
(自分の未来を変えたい、って、ロコの本気が伝わってくる。やっぱりすごいヤツだなぁ……)
一度はすべては無駄だと自暴自棄になっていたこともあったのだけれど、僕とムロの間に生じていた亀裂が修復され、また小学校の頃のような仲の良さを取り戻したことがきっかけになったようだ。初詣のバトル――まあ、一方的にやられただけだけど――は無駄じゃなかった。
そして、
「五十嵐君? ここなんだけど……どうもうまくいかないんだ。教えてもらってもいいかな?」
「もちろんですよ。あ……あとですね、差し支えなければ僕のことはハカセと呼んでください」
「え……。ああ、うん、わかった。よろしく頼むよ、ハカセ!」
月曜から今週いっぱいやる予定の全国模試のおさらい会のハナシを持ちかけると、ためらうことなく『僕もいいかな?』と言って嬉しそうに笑ったのは室生だった。まだ今回の参加が二回目だけれど、生まれ持ったぶっ壊れ系スキル『人たらし』のおかげで、引っ込み思案な『電算論理研究部』の部員たちもすっかり慣れたようだ。
ただし――である。
「え、えっとー……ム、ムロ? その問題ならさ、僕だって教えてあげられるんだけど……?」
「モリケンは嫌だ」
「なんでだよ!?」
「……なんか、負けた気がするからね」
にかっ――真っ白な歯を見せるムロ。
爽やかなとびきりの笑顔で言うセリフじゃないから、それ。
がーん! とわかりやすい表情を浮かべてまわりを見ると、みんながくすくす笑っていた。おいおい、そこは『ウチのリーダーはすごいんですから』的なエピソードをひっぱり出して、逆に室生を感心アンド改心させる流れじゃないのかよ。よりによって、純美子まで忍び笑いを漏らしているじゃないか。
(おいおい……気づいたら、部ごと全部乗っ取られてた、なんてNTRエンドは嫌だぞ……!)
ついついそんなことを考えちゃうところが、陰キャ特有のネガティブ思考。
ああ、やだやだ。
そんな僕に、ひと段落ついたらしい渋田が、うーん、と伸びをしながら言った。
「そういえば、モリケン? 例のヤツが現れたんだって? ノハラさんに付きまとってるヤツ」
僕は視線を投げてきたロコと室生と目を合わせてからこたえる。
「うん。そうなんだ。なんとか追い返したけど、結構面倒で厄介なヤツだったよ――大月大輔」
僕は、まずはじめにロコと、それから室生と相談した上で、『電算論理研究部』のメンバーにも情報共有することにしたのだった。なにしろ前回のタツヒコの騒動では、みんなの助けがなければ、僕はなすすべなく敗北していただろうからだ。あの時は含まれていなかったけれど、『ロコは必ず守る』という決意と覚悟を見せた彼氏である室生にも、ある程度の情報を共有して連携していく必要があると判断したのだ。
なにより、小学生の僕にとって『憧れ』の対象でもあった室生なら、という想いがあったからだ――そんな気恥ずかしいこと、口が裂けても伝える気はないけれど。
「でも……どうやらアイツが来ることはもうなさそうだよ。かといって油断もできないけれど」
「? ?」
僕のセリフに渋田はきょとんとした。無理もない。
だが、正直には話せない内容だ。
「こっちのハナシ。で……そういえばハカセから報告あるって聞いたけど?」
「ええ。現在、懇意にしている技術工作部に、例のトランシーバ―の追加製作を依頼中でして」
「さすがナイスタイミングだね、ハカセ。ちょうど頼もうと思ってたんだ。だけど、数が――」
「――二台、ですよね? リーダーがお望みの台数は?」
さすがだ――ハカセの名は伊達じゃない。
僕は、にやり、と笑ってうなずくのだった。
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