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第481話 ホワイト・サイレント・ナイト・アフター(?) at 1996/2/18
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「………………どうしてトドメ刺さなかったのよ?」
なんとか意地で、最後の一社をお参りしたあとのことだった。
さっきの一件以来、ずっと言葉を交わしていなかった僕らの、ひさびさのまともな会話がこれときた。さすがの僕も露骨に渋い表情を浮かべて、ちらり、とロコに視線を投げて諭す。
「おいおいおいおい……。そうカンタンに、人ひとりの命をどうこう言うんじゃありません」
「だって! アイツ、とんでもない男なのよ!?」
「あのな……。別にアイツの肩を持つつもりなんてこれっぽっちもないけどさ――」
そうだそうだ、と僕の右足首が、忘れかけていた鈍痛を嫌というほど思い出させてくれた。
が、
「まだこの時点では、アイツは無害なひとりの少年でしかないんだ。あ、い、いや、無害ってのは訂正しておく。おそらくストーカー行為もしてるし、僕は実際怪我もさせられたからね」
「だったら――!」
「それでも、だよ」
僕は重い長靴を引きずるようにして歩を進めた。
痛めた右足首にゴム長靴の重さはキツい。
「さっきも言ったけど、アイツもタツヒコと同じで、誰かに『代行者』として選ばれただけだ。まあ、いまだにその『誰か』が一体何者なのかはわかってないんだけどね……」
「また、それ」
ロコはわざとらしく長々とした溜息をはき漏らすと、僕の様子を見かねて下げていたビニール袋をひったくるように奪い取る。そうしてまだ中身の残っている保温ポットを取り出した。
「はぁ……。それだって、ケンタが勝手に想像力を働かせて妄想してるだけなんじゃないの? 誰かがそう教えてくれたってワケじゃないんでしょ? あたしは眉唾ものだと思うんだけど?」
「少なくともあのふたりは自分が『選ばれた』と言っていた。それに、自分が『代行者』である、ってことも認識していた。つまり、誰かに『今日からお前は代行者だ』って言われない限り、そんな厨二めいた発想、出てこないだろ? それも、ふたりともまったく同じ内容なんて」
「ま、そうかもしれないわね」
「……なんだよ、その言い方。引っかかるんだけど?」
「そ――そうじゃないかもしれない、でしょ?」
そういえばロコは昔から、得体の知れない怪しげなモノの話題はニガテだったっけ。
木によじ登ったり、下水口の中に探検に入ったり、塀の上を歩いたり、悪ガキ顔負けのクソ度胸を見せたかと思うと、急に小学生女子が大好物のおまじないや魔女占いが怖いとか言い出すし、突然ベランダで物音がしたら僕を代わりに見に行かせたりしたし、カミナリが鳴り出すと涙目になって抱きついてきたりしたものだ。でも、もう四〇だろ。克服しててもいい頃だろ。
「と・に・か・く。もうあたしはアイツに会いたくない。二度と」
「わかったよ……」
それは僕だって同じ気持ちだ。
ただ、僕らにとっていいニュースもある。
「でもさ? たぶん来たくっても、もう来れないと思うよ、アイツ」
「……どうしてよ?」
「アイツはね? 雪がないと自由に動けないらしいんだ。あの厄介なチカラを使うには、雪が絶対不可欠ってことみたいなんだよ。でも、たしか一九九五年までは、九年連続で暖冬だった」
当時話題になったハナシなのでいまだに覚えている。各地のスキー場は深刻な状況で、人工降雪でも対応できず、やむなく休業していたところも多かったという。しかし、この『暖冬異変』を境に、全国各地で『記録的暖冬』と呼ばれる冬が周期的に訪れるようになったのだった。
「とかいって、今年、一九九六年じゃん……」
「それでもさ。たしか二回くらいしか降ってない。今年だって、ようやく例年並みなんだから」
「ふうん」
あまり納得がいかない様子だったが、ロコは不精不精うなずいた。
「雪がなければ来れないなら……。でももし来たら、責任もってなんとかしてよね、ケンタ」
なんとか意地で、最後の一社をお参りしたあとのことだった。
さっきの一件以来、ずっと言葉を交わしていなかった僕らの、ひさびさのまともな会話がこれときた。さすがの僕も露骨に渋い表情を浮かべて、ちらり、とロコに視線を投げて諭す。
「おいおいおいおい……。そうカンタンに、人ひとりの命をどうこう言うんじゃありません」
「だって! アイツ、とんでもない男なのよ!?」
「あのな……。別にアイツの肩を持つつもりなんてこれっぽっちもないけどさ――」
そうだそうだ、と僕の右足首が、忘れかけていた鈍痛を嫌というほど思い出させてくれた。
が、
「まだこの時点では、アイツは無害なひとりの少年でしかないんだ。あ、い、いや、無害ってのは訂正しておく。おそらくストーカー行為もしてるし、僕は実際怪我もさせられたからね」
「だったら――!」
「それでも、だよ」
僕は重い長靴を引きずるようにして歩を進めた。
痛めた右足首にゴム長靴の重さはキツい。
「さっきも言ったけど、アイツもタツヒコと同じで、誰かに『代行者』として選ばれただけだ。まあ、いまだにその『誰か』が一体何者なのかはわかってないんだけどね……」
「また、それ」
ロコはわざとらしく長々とした溜息をはき漏らすと、僕の様子を見かねて下げていたビニール袋をひったくるように奪い取る。そうしてまだ中身の残っている保温ポットを取り出した。
「はぁ……。それだって、ケンタが勝手に想像力を働かせて妄想してるだけなんじゃないの? 誰かがそう教えてくれたってワケじゃないんでしょ? あたしは眉唾ものだと思うんだけど?」
「少なくともあのふたりは自分が『選ばれた』と言っていた。それに、自分が『代行者』である、ってことも認識していた。つまり、誰かに『今日からお前は代行者だ』って言われない限り、そんな厨二めいた発想、出てこないだろ? それも、ふたりともまったく同じ内容なんて」
「ま、そうかもしれないわね」
「……なんだよ、その言い方。引っかかるんだけど?」
「そ――そうじゃないかもしれない、でしょ?」
そういえばロコは昔から、得体の知れない怪しげなモノの話題はニガテだったっけ。
木によじ登ったり、下水口の中に探検に入ったり、塀の上を歩いたり、悪ガキ顔負けのクソ度胸を見せたかと思うと、急に小学生女子が大好物のおまじないや魔女占いが怖いとか言い出すし、突然ベランダで物音がしたら僕を代わりに見に行かせたりしたし、カミナリが鳴り出すと涙目になって抱きついてきたりしたものだ。でも、もう四〇だろ。克服しててもいい頃だろ。
「と・に・か・く。もうあたしはアイツに会いたくない。二度と」
「わかったよ……」
それは僕だって同じ気持ちだ。
ただ、僕らにとっていいニュースもある。
「でもさ? たぶん来たくっても、もう来れないと思うよ、アイツ」
「……どうしてよ?」
「アイツはね? 雪がないと自由に動けないらしいんだ。あの厄介なチカラを使うには、雪が絶対不可欠ってことみたいなんだよ。でも、たしか一九九五年までは、九年連続で暖冬だった」
当時話題になったハナシなのでいまだに覚えている。各地のスキー場は深刻な状況で、人工降雪でも対応できず、やむなく休業していたところも多かったという。しかし、この『暖冬異変』を境に、全国各地で『記録的暖冬』と呼ばれる冬が周期的に訪れるようになったのだった。
「とかいって、今年、一九九六年じゃん……」
「それでもさ。たしか二回くらいしか降ってない。今年だって、ようやく例年並みなんだから」
「ふうん」
あまり納得がいかない様子だったが、ロコは不精不精うなずいた。
「雪がなければ来れないなら……。でももし来たら、責任もってなんとかしてよね、ケンタ」
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