481 / 539
第479話 ホワイト・サイレント・ナイト(4) at 1996/2/18
しおりを挟む
(雪の中に身を隠すチカラを持っているヤツが、寒い、だって!? どういうことだ――!?)
彼――大月大輔の発したセリフに、僕は違和感を覚えた。
何もかも白一色で統一されたその姿。ぴったりと肌に張りついたようなロングスリーブシャツとスリムなジーンズ。スタンドカラージャケットもそうだ。ゴム手袋をはめたような独特の光沢とぬめりのある手指も、何もかもが白く、その細い筋肉質のカラダを際立たせていた。
逆に言えば、カラダの熱を留めるような仕組みは何ひとつなかった。
防寒具が暖かいのは、風や寒さを通さない生地であるということも重要だが、もっとも大切なのは、空気の層を作り、そこに温めた空気を保持する仕組みがあるかどうかだ。
だが、彼のようにすべてがしつらえたように細身の体型にぴっちりとフィットしてしまうと、肝心な空気の層を保持することができない。内部を暖めても、直接外気に熱が逃げてしまう。
(もしかして……アイツは、雪の外に出た方が寒さを感じる、ってことなのか? だから――)
もしここにハカセがいたのなら、呆れてこたえてもくれないだろう。
それでもなお、それが現実で、ここにある真実だ。
(チャンスなら何度もあったのに、全身をさらしたのは一度きりだ。なぜなら……寒いから!)
僕は不思議なほどその辿りついた結論に確信をもっていた。
どのみち、これ以上の時間稼ぎも、遅延行為もできそうになかったからでもある。
「……やってみるしかない、か」
なので僕は――ゆっくりと――地面の上に降り立った。
『ん? ようやく策はないとあきらめたのか? それとも……なにかまだ企んでいるのかい?』
「……どっちにしても、君に教える必要はないよね。わかってるくせに、わざわざ聞くなよ」
『ははは。それもそうだ。僕も、この僕も、これから何をするのか話すつもりはないからね』
余裕たっぷりのセリフに少しうんざりしながら、僕はひとつ長く息を吐き、ガードレールの上の雪を払いのけその上に腰掛けると、一番下のバーに足をかけた。それからビニール袋の中に手をさし入れ、さっきのと同じ柄のステンレスの保温ボトルを取り出した。蓋を開ける。
ほわり――温かな湯気が立ち昇った。
「さっきさ……君も見てたんだろ? ロコとさ、間接キスしちゃったよ。コップの、ここでね」
『……っ』
「あいつ、昔から甘い飲み物が好きでさ? で、僕が飲んでるのも欲しがるから、いっつもさ」
『……黙れ』
「小さい頃はさ? そういうのなんて気にしないから、ああ、これってフツーなんだな、って思ってたけどさ? さすがに中学生ともなると、そういうの、ついつい、気になっちゃうよね」
『黙れと言っている!』
「あいつさ? ウチの学校の、人気ナンバーワン美少女なんだぜ? でもさ? 僕にとってはそんなのカンケーなくって。だって、僕の前ではいまだにガサツで男勝りで、ナマイキでさ?」
『それ以上……しゃべるな……!』
「でもね……僕は、やっぱりあいつがスキなんだ。そして、やっぱりあいつも僕のことを――」
「やめろぉおおおおおおおおおお!」
――ざん!
直接空気をふるわせる大月大輔の悲痛な叫びが聞こえたその瞬間、僕の目の前に憤怒の青白い炎を瞳に宿した彼の研ぎ澄まされた今夜の三日月のような細いカラダが立ちふさがっていた。
「……やっぱり出てきたね、大月大輔――」
そして――僕は続けてこう告げる。
「ガードレール上の、僕のカラダまでは手が届かないもんな。それに、君の、その君の大事な愛しきヒロコを侮辱するヤツは直接ぶちのめしたいもんな。けどね……? それが君のミスだ」
次の瞬間――。
僕は保温ボトルの中身を、大月大輔めがけて一気にぶちまけた。
彼――大月大輔の発したセリフに、僕は違和感を覚えた。
何もかも白一色で統一されたその姿。ぴったりと肌に張りついたようなロングスリーブシャツとスリムなジーンズ。スタンドカラージャケットもそうだ。ゴム手袋をはめたような独特の光沢とぬめりのある手指も、何もかもが白く、その細い筋肉質のカラダを際立たせていた。
逆に言えば、カラダの熱を留めるような仕組みは何ひとつなかった。
防寒具が暖かいのは、風や寒さを通さない生地であるということも重要だが、もっとも大切なのは、空気の層を作り、そこに温めた空気を保持する仕組みがあるかどうかだ。
だが、彼のようにすべてがしつらえたように細身の体型にぴっちりとフィットしてしまうと、肝心な空気の層を保持することができない。内部を暖めても、直接外気に熱が逃げてしまう。
(もしかして……アイツは、雪の外に出た方が寒さを感じる、ってことなのか? だから――)
もしここにハカセがいたのなら、呆れてこたえてもくれないだろう。
それでもなお、それが現実で、ここにある真実だ。
(チャンスなら何度もあったのに、全身をさらしたのは一度きりだ。なぜなら……寒いから!)
僕は不思議なほどその辿りついた結論に確信をもっていた。
どのみち、これ以上の時間稼ぎも、遅延行為もできそうになかったからでもある。
「……やってみるしかない、か」
なので僕は――ゆっくりと――地面の上に降り立った。
『ん? ようやく策はないとあきらめたのか? それとも……なにかまだ企んでいるのかい?』
「……どっちにしても、君に教える必要はないよね。わかってるくせに、わざわざ聞くなよ」
『ははは。それもそうだ。僕も、この僕も、これから何をするのか話すつもりはないからね』
余裕たっぷりのセリフに少しうんざりしながら、僕はひとつ長く息を吐き、ガードレールの上の雪を払いのけその上に腰掛けると、一番下のバーに足をかけた。それからビニール袋の中に手をさし入れ、さっきのと同じ柄のステンレスの保温ボトルを取り出した。蓋を開ける。
ほわり――温かな湯気が立ち昇った。
「さっきさ……君も見てたんだろ? ロコとさ、間接キスしちゃったよ。コップの、ここでね」
『……っ』
「あいつ、昔から甘い飲み物が好きでさ? で、僕が飲んでるのも欲しがるから、いっつもさ」
『……黙れ』
「小さい頃はさ? そういうのなんて気にしないから、ああ、これってフツーなんだな、って思ってたけどさ? さすがに中学生ともなると、そういうの、ついつい、気になっちゃうよね」
『黙れと言っている!』
「あいつさ? ウチの学校の、人気ナンバーワン美少女なんだぜ? でもさ? 僕にとってはそんなのカンケーなくって。だって、僕の前ではいまだにガサツで男勝りで、ナマイキでさ?」
『それ以上……しゃべるな……!』
「でもね……僕は、やっぱりあいつがスキなんだ。そして、やっぱりあいつも僕のことを――」
「やめろぉおおおおおおおおおお!」
――ざん!
直接空気をふるわせる大月大輔の悲痛な叫びが聞こえたその瞬間、僕の目の前に憤怒の青白い炎を瞳に宿した彼の研ぎ澄まされた今夜の三日月のような細いカラダが立ちふさがっていた。
「……やっぱり出てきたね、大月大輔――」
そして――僕は続けてこう告げる。
「ガードレール上の、僕のカラダまでは手が届かないもんな。それに、君の、その君の大事な愛しきヒロコを侮辱するヤツは直接ぶちのめしたいもんな。けどね……? それが君のミスだ」
次の瞬間――。
僕は保温ボトルの中身を、大月大輔めがけて一気にぶちまけた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
「わたしの異世界転生先はここ?」と記憶喪失になったクラスの美少女がいってるんだが、いったいどうした!?
中靍 水雲
青春
「わたしを召喚したのはあなた?」って…雛祭さん!!どういうことだよ!?
「雛祭ちかな(ひなまつりちかな)」は、おれのクラスのまじめ女子。
対して、おれ「鯉幟大知(こいのぼりだいち)」はクラスのモブ。ラノベ好きなオタクだ。
おれと雛祭さんは、同じクラスでもからむことのない、別世界の住人だった。
あの日までは———。
それは、校舎裏で、掃除をしていた時だった。
雛祭さんが、突然現れ何かをいおうとした瞬間、足を滑らせ、転んでしまったのだ。
幸い無傷だったようだが、ようすがおかしい。
「雛祭さん、大丈夫?」
「———わたしの転生先、ここですか?」
雛祭さんのそばに、おれが昨日読んでいた異世界転生ラノベが落ちている。
これはいったいどういうことだ?
病院の検査の結果、雛祭さんは「一過性全健忘」ということらしい。
だがこれは、直前まで読んでいた本の影響がもろに出ているのか?
医者によると症状は、最低でも二十四時間以内に治るとのことなので、一安心。
と、思ったら。
数日経ってもちっとも治らないじゃない上に、自分を「異世界から転生きた人間」だと信じて疑わない。
どんどんおれに絡んでくるようになってきてるし。
いつになったら異世界転生記憶喪失は治るんだよ!?
表紙 ノーコピーライトガールさま
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる