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第471話 これ、あんたの分ね at 1996/2/17
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「……うーん。それ、ケンタから直接ムロに伝えた方がよくない?」
「そりゃそうなんだけど。タイミング悪かったみたいで、昨日つかまらなくってさ。頼むよ」
室生は同じクラスなわけだし、どこかで直接話す時間を作れるだろう、とカンタンに考えていたけれど、あの日はやけに室生のまわりが慌ただしくって、二人きりで話す時間なんて確保できなかったのだ。まあ、ロコと付き合おうが元々人気者だし、交友関係も学年問わず幅広い室生だからこんなこともある、とあきらめざるを得なかった僕だ。ロコは肩をすくめてみせた。
「あたしは別に構わないけどさ――あ、これ、ケンタの分のチョコね」
「お。サンキュー」
と、思わず受け取ってしまい、ん? と首を傾げる。
やけにラッピングはていねいだし、包装紙もキラキラしていて妙に女の子女の子している。おまけにピンク色のリボンには白の筆記体で『To you who love me the most in the world!』なんて文句が書かれていた。中身はきっと手作りチョコだろう。ロコはお菓子作りも得意だ。
「……お、おい。これ、いいのか? 僕がもらっても?」
「ん? ムロにはちゃんとしたのをあげたわよ? あ………………義理よ、義理だからねっ!」
「痛たたた! 叩くことはないだろうが、叩くことは!」
「クッションで叩かれたくらいで『バレンタインのヒーロー』のケンタ様がぴーぴー騒ぐな!」
「ううう。その呼び名、嫌なの知ってて言うなよ……」
「にしししー。いー気味」
からかいの笑みを浮かべたロコはそう言うと、とまどう僕の視線を避けるように、ぷいっ、とそっぽを向いてしまった。このチョコレートこそ、純美子に万が一見られでもしたら大事だ。
(いまだにロコが何考えてるのかわかんないんだよなぁ……。こういうことされたりもするし)
もちろん、僕が自意識過剰だ、という線も大いにある。
ただ、セツナとの連絡が途絶えてから、こうして毎週土曜日にふたりきりで過ごす時間が多くなって、あの頃には気づきもしていなかったロコのクセや学校では見せたことのない表情を見ることが増えて。そのくせ小さな頃と変わらない距離の近さが気になりはじめてしまって。
当たり前のように親不在のお互いの家にお邪魔しているけれど、よくよく考えたらいつもふたりっきりのワケで。例の絵の捜索や、リトライ終了時の元の時間への帰還方法探しは遅々として進んでいないというのに――いや、だからこそなのかもしれないけれど――ただなんとなくじゃれついているだけで時間が過ぎていってしまっているような気がしてしまうのだ。
(い、いかんいかん。こんなの、あのヤンデレ二人組にバレたら最後だぞ。まじめにやらねば)
僕は軽く頭を振って余計な妄想・邪念を消しとばしてからロコに言う。
「な、なあ? 例の絵があると思われる神社の件、ぜ、前回どこまでハナシ進んでたっけ?」
「忘れたの? ケンタの仮説で神奈中バスで行ける範囲ってことにして十五まで絞ったでしょ」
「そ! そうだったよな! いやなに、今のはロコがうっかり忘れちゃいないかと試したのさ」
「……へー。ソーナンダー」
マズい、あきらかに疑いのまなざしを向けられている。
ここは強引にハナシを進めるしかだ。
「けど、バレンタインやなんやで結局ロクに調べないうち二週間近く経った。これはよくない」
「……それで?」
「今日はもうじき夜だし、ウチもロコんちも親が帰ってくるだろ? 明日、時間空いてるか?」
「えっ……!? べ、別に……空いてる……けど」
「なんだよ、先約があるんなら無理しなくていいんだぜ? 明日は日曜だし、デートとかさ?」
「デ、デート!? ……あー、そっちね……予定はなし。どっちかっていうとあんたでしょ?」
「ん? 僕?」
「そーそー」
ロコはうなずきながらぬるくなった紅茶のカップで口元を隠した。
それからこう続ける。
「日曜日はスミとデートじゃないの? なんとかーって学校通ってて、迎えにいくんでしょ?」
「なんとかーって、お前な……声優養成所。明日はスミちゃんちで夜出かけるからなしなんだ」
「あら? スミにフラれたからあたしってワケね。ロコちゃん……かわいそう……ううう……」
「下手な小芝居すんな。一日で十五社全部自転車で走破できるヤツなんてロコくらいだろうし」
「だ、誰が体力バカのゴリラ女ですってぇ!?」
「い、言ってねぇ!? ……これから言おうと思ってたけ――おい馬鹿やめろこの前の二の舞」
「そりゃそうなんだけど。タイミング悪かったみたいで、昨日つかまらなくってさ。頼むよ」
室生は同じクラスなわけだし、どこかで直接話す時間を作れるだろう、とカンタンに考えていたけれど、あの日はやけに室生のまわりが慌ただしくって、二人きりで話す時間なんて確保できなかったのだ。まあ、ロコと付き合おうが元々人気者だし、交友関係も学年問わず幅広い室生だからこんなこともある、とあきらめざるを得なかった僕だ。ロコは肩をすくめてみせた。
「あたしは別に構わないけどさ――あ、これ、ケンタの分のチョコね」
「お。サンキュー」
と、思わず受け取ってしまい、ん? と首を傾げる。
やけにラッピングはていねいだし、包装紙もキラキラしていて妙に女の子女の子している。おまけにピンク色のリボンには白の筆記体で『To you who love me the most in the world!』なんて文句が書かれていた。中身はきっと手作りチョコだろう。ロコはお菓子作りも得意だ。
「……お、おい。これ、いいのか? 僕がもらっても?」
「ん? ムロにはちゃんとしたのをあげたわよ? あ………………義理よ、義理だからねっ!」
「痛たたた! 叩くことはないだろうが、叩くことは!」
「クッションで叩かれたくらいで『バレンタインのヒーロー』のケンタ様がぴーぴー騒ぐな!」
「ううう。その呼び名、嫌なの知ってて言うなよ……」
「にしししー。いー気味」
からかいの笑みを浮かべたロコはそう言うと、とまどう僕の視線を避けるように、ぷいっ、とそっぽを向いてしまった。このチョコレートこそ、純美子に万が一見られでもしたら大事だ。
(いまだにロコが何考えてるのかわかんないんだよなぁ……。こういうことされたりもするし)
もちろん、僕が自意識過剰だ、という線も大いにある。
ただ、セツナとの連絡が途絶えてから、こうして毎週土曜日にふたりきりで過ごす時間が多くなって、あの頃には気づきもしていなかったロコのクセや学校では見せたことのない表情を見ることが増えて。そのくせ小さな頃と変わらない距離の近さが気になりはじめてしまって。
当たり前のように親不在のお互いの家にお邪魔しているけれど、よくよく考えたらいつもふたりっきりのワケで。例の絵の捜索や、リトライ終了時の元の時間への帰還方法探しは遅々として進んでいないというのに――いや、だからこそなのかもしれないけれど――ただなんとなくじゃれついているだけで時間が過ぎていってしまっているような気がしてしまうのだ。
(い、いかんいかん。こんなの、あのヤンデレ二人組にバレたら最後だぞ。まじめにやらねば)
僕は軽く頭を振って余計な妄想・邪念を消しとばしてからロコに言う。
「な、なあ? 例の絵があると思われる神社の件、ぜ、前回どこまでハナシ進んでたっけ?」
「忘れたの? ケンタの仮説で神奈中バスで行ける範囲ってことにして十五まで絞ったでしょ」
「そ! そうだったよな! いやなに、今のはロコがうっかり忘れちゃいないかと試したのさ」
「……へー。ソーナンダー」
マズい、あきらかに疑いのまなざしを向けられている。
ここは強引にハナシを進めるしかだ。
「けど、バレンタインやなんやで結局ロクに調べないうち二週間近く経った。これはよくない」
「……それで?」
「今日はもうじき夜だし、ウチもロコんちも親が帰ってくるだろ? 明日、時間空いてるか?」
「えっ……!? べ、別に……空いてる……けど」
「なんだよ、先約があるんなら無理しなくていいんだぜ? 明日は日曜だし、デートとかさ?」
「デ、デート!? ……あー、そっちね……予定はなし。どっちかっていうとあんたでしょ?」
「ん? 僕?」
「そーそー」
ロコはうなずきながらぬるくなった紅茶のカップで口元を隠した。
それからこう続ける。
「日曜日はスミとデートじゃないの? なんとかーって学校通ってて、迎えにいくんでしょ?」
「なんとかーって、お前な……声優養成所。明日はスミちゃんちで夜出かけるからなしなんだ」
「あら? スミにフラれたからあたしってワケね。ロコちゃん……かわいそう……ううう……」
「下手な小芝居すんな。一日で十五社全部自転車で走破できるヤツなんてロコくらいだろうし」
「だ、誰が体力バカのゴリラ女ですってぇ!?」
「い、言ってねぇ!? ……これから言おうと思ってたけ――おい馬鹿やめろこの前の二の舞」
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