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第439話 ノーマ・ジーン at 1996/2/1
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「ぶ――無事だったんだね、コトセ! うーっ! よかったぁー!!」
「し――しーっ! 声が大きいって!」
人気のない廊下の端で、飛び跳ねるようにして喜んでいるロコを慌ててたしなめる僕である。
一応、ここに来るまでに、純美子と室生に対して、ちょっと……と断りを入れておいたものの、あまりロコに大騒ぎされてしまうといろんな意味でややこしいことになりかねない。まあすでにふたりには『?』と、けげんそうな顔をされちゃったわけだったりするけれども。
「静かにしろってば、もう!」
僕は人さし指を唇に当てたまま、まだきゃあきゃあ言って喜んでいるロコに釘を刺しておく。
「……言っただろ? コトセは僕に『琴世に話すな、聞かせるな』とも言ってたんだぜ?」
「そうだけどさ? それって、コトセなりの『ツッキーを巻き込まないように』っていう気づかいから出たひとことだったんじゃないの? ほ、ほら? あの、ノーマジーン、ってヤツ?」
「Boop-Oop-a-Doopでどうすんだよ……それを言うなら、老婆心な。だったらいいんだけどさ」
コイツ……ホントに高校受験大丈夫か?
しかし……同い年のヤツから『老婆』扱いされるのも、さぞフクザツな気分だろう。
「でも、無事なのはわかったけれど、自由が利かないみたいだったんだ。今までみたいにちょくちょく連絡しては来れないのかもしれない。それだと僕ら、ちょっと困るんだけどな……」
「え? なんでよ?」
「あのなぁ、お前……」
そろそろ意識してもいい頃なのに、どうやらロコは、なんにも考えていなかったらしい。
「元々この『リトライ』は一年間限定ってハナシだっただろ? もう今日から二月なんだぜ?」
「ふぅん……それで?」
「それで、じゃないだろ……」
わざとなのか、本気なのか、わからないところがある意味ロコらしいところでもある。溜息をつきつつ、仕方なく説明してやることにした。
「三月三十一日、僕らどうやって元の時間に戻るんだ? 知らないだろ? 僕だって知らない」
「あ……っ。………………で、でもさ? でもだよ?」
ようやく大事なことを思い出したらしいロコはこう続ける。
「――そもそもこの『リトライ』ってさ? コトセが起こしたわけじゃないんでしょ? だったらさ? もしかするとコトセも、元の時間に戻す方法なんて知らないんじゃないの? ね?」
「……そんなはずないだろ」
僕はあえてぶっきらぼうにそうこたえたのだが――たしかにロコの言うことにも一理あった。
何がきっかけか、何がそうさせたのかは知らないが、コトセは自分が『生まれた』経緯を知っていた。水無月さんの生にしがみつこうとする感情の塊、それが原形なのだと言っていた。
けれど、今までコトセの口から『リトライを引き起こす方法』は聞いたことがない。
はじめは『水無月さんの死』がきっかけだと思っていたのだけれど、コトセいわく、その『死』のあともカノジョは――カノジョたちは時間の流れの中で漂うように存在していたのだ。
そして運命の日である『一九九六年三月三十一日』が過ぎると、四月に戻っていたのである。
「と、ともかくだ――」
僕はあえてそれには深く触れずにロコに言う。
「今日の夜にでも時間を空けてくれ。コトセの言っていたメッセージの意味を考えたいんだ」
「うん。わかった。じゃあ、あたしんちでいいよね?」
「あー、いいよ。………………え!? 今なんて言った!?」
思わぬセリフに僕は動揺しまくりの声を出す。
ロコは困ったように笑いながらこうこたえた。
「あのさ……今日ウチ、あたししかいないんだよね……。だから、ちょうどいいかな、って」
「し――しーっ! 声が大きいって!」
人気のない廊下の端で、飛び跳ねるようにして喜んでいるロコを慌ててたしなめる僕である。
一応、ここに来るまでに、純美子と室生に対して、ちょっと……と断りを入れておいたものの、あまりロコに大騒ぎされてしまうといろんな意味でややこしいことになりかねない。まあすでにふたりには『?』と、けげんそうな顔をされちゃったわけだったりするけれども。
「静かにしろってば、もう!」
僕は人さし指を唇に当てたまま、まだきゃあきゃあ言って喜んでいるロコに釘を刺しておく。
「……言っただろ? コトセは僕に『琴世に話すな、聞かせるな』とも言ってたんだぜ?」
「そうだけどさ? それって、コトセなりの『ツッキーを巻き込まないように』っていう気づかいから出たひとことだったんじゃないの? ほ、ほら? あの、ノーマジーン、ってヤツ?」
「Boop-Oop-a-Doopでどうすんだよ……それを言うなら、老婆心な。だったらいいんだけどさ」
コイツ……ホントに高校受験大丈夫か?
しかし……同い年のヤツから『老婆』扱いされるのも、さぞフクザツな気分だろう。
「でも、無事なのはわかったけれど、自由が利かないみたいだったんだ。今までみたいにちょくちょく連絡しては来れないのかもしれない。それだと僕ら、ちょっと困るんだけどな……」
「え? なんでよ?」
「あのなぁ、お前……」
そろそろ意識してもいい頃なのに、どうやらロコは、なんにも考えていなかったらしい。
「元々この『リトライ』は一年間限定ってハナシだっただろ? もう今日から二月なんだぜ?」
「ふぅん……それで?」
「それで、じゃないだろ……」
わざとなのか、本気なのか、わからないところがある意味ロコらしいところでもある。溜息をつきつつ、仕方なく説明してやることにした。
「三月三十一日、僕らどうやって元の時間に戻るんだ? 知らないだろ? 僕だって知らない」
「あ……っ。………………で、でもさ? でもだよ?」
ようやく大事なことを思い出したらしいロコはこう続ける。
「――そもそもこの『リトライ』ってさ? コトセが起こしたわけじゃないんでしょ? だったらさ? もしかするとコトセも、元の時間に戻す方法なんて知らないんじゃないの? ね?」
「……そんなはずないだろ」
僕はあえてぶっきらぼうにそうこたえたのだが――たしかにロコの言うことにも一理あった。
何がきっかけか、何がそうさせたのかは知らないが、コトセは自分が『生まれた』経緯を知っていた。水無月さんの生にしがみつこうとする感情の塊、それが原形なのだと言っていた。
けれど、今までコトセの口から『リトライを引き起こす方法』は聞いたことがない。
はじめは『水無月さんの死』がきっかけだと思っていたのだけれど、コトセいわく、その『死』のあともカノジョは――カノジョたちは時間の流れの中で漂うように存在していたのだ。
そして運命の日である『一九九六年三月三十一日』が過ぎると、四月に戻っていたのである。
「と、ともかくだ――」
僕はあえてそれには深く触れずにロコに言う。
「今日の夜にでも時間を空けてくれ。コトセの言っていたメッセージの意味を考えたいんだ」
「うん。わかった。じゃあ、あたしんちでいいよね?」
「あー、いいよ。………………え!? 今なんて言った!?」
思わぬセリフに僕は動揺しまくりの声を出す。
ロコは困ったように笑いながらこうこたえた。
「あのさ……今日ウチ、あたししかいないんだよね……。だから、ちょうどいいかな、って」
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