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第435話 僕には夢がない at 1996/1/22
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また新しい週がはじまる。
「おはよ! ケンタ君!」
「おはよう、スミちゃん。いつもにまして元気いっぱいだね? 何かあったの?」
気づけばもう、一月も終わりだ。荻センの『三学期なんて意外と早いですよ?』というセリフを耳にしたのがつい昨日のようなのに、あと一週間ちょいで二月に入るなんて信じられない。
そんな冬の寒い朝のことだった。
純美子は僕の問いかけに、しまった! というわかりやすい表情で真っ赤になった。
「は、はぇ? えー……と、特にいつもと変わりなんてないんですけど!?」
「なんでちょっとキレ気味なのさ……」
学業のかたわら真面目に通っている声優学校で、何か特別な出来事でもあったのかと想像していたのだけれど、そういうわけではないらしい。指導する先生の薦めで十月に受けたオーディションには残念ながら合格できなかったものの、その後もちょくちょくオーディションのハナシがもらえるんだー! と言っていたっけ。そりゃそうだよな、未来の人気声優だもん。
そうじゃないとすると……なんかあったっけ?
ない知恵を絞り、僕が、うーん、うーん、とうなっていると、上機嫌な純美子のところに咲都子が近寄ってくるなり、さらり、とこう告げた。
「おっすー。ねえねえ、スミ? 今年は気合入れてバレンタインの準備するって言ってたけど」
「わ――わーわー! わーわーわーわー!! ああああっち行って話さない、サトちゃん!?」
スミマセン。全部聴こえてました……。
なるほど、そういうことか。って、まだバレンタインデーまでは三週間もあるんだけど、もしかしてカカオの木を育てるところからはじめる気なのかな……逆に日数が足りなくなるか。
そんなところに奴はやってきたのだった。
「おっはよー、モリケン! 僕、チョコレートが好きなシブチンだよ!」
「……ずいぶん個性的な自己紹介だな。っていうか、もう一個は確保してるんだからいいだろ」
「夢がないなー、モリケンはー」
やれやれ、と軽く肩をすくめるポーズをしながら首を振る渋田。殴りたい。
「自分の好感度をはかる大事なイベントだよ? もしかしたら、叶わぬ恋にせめて一矢報いようと、この大事な大事な日に一大決心している女の子とかがいるかもしれないじゃんか?」
「いないと思うんだが……」
渋田・咲都子の熟年喧嘩ップルの評判は、ウチのクラスはもちろんのこと同学年で知らない者はいないし、下手をすれば上級生・下級生にまで広く知れ渡っているということを、どうやらコイツはまるで自覚していないらしい。
それに、どちらかというと女子から人気があるのは咲都子の方だ。さすがは未来の大人気男装レイヤーというべきか、男前度もイケメン具合も、身長ですら渋田が勝てるポイントはない。
「そ・れ・に。わっかんないよー? モリケンのところにだって、来るかもしんないしさー?」
「ないない! ないだろ、常識的に考えて」
「なんで言い切れるのさ?」
「だってだな……? 僕は元々人付き合いが悪い方だし、他のクラスに知り合いなんていない」
「知り合いだから渡す、ってモンでもないじゃんか」
「それは……そうなんだろうけど……。でもだな……」
え? ありえるのか? と変な想像をしてしまい、急に落ち着かない気持ちになった僕は、純美子と咲都子が連れ立って消えていった教室の前のドアに視線を送りながら口ごもる。
「や、やっぱりないよ。そんなこと。ありえないって」
「まったく……ホント、夢がないなー、モリケンはー」
悪かったな、とふてくされつつ、僕はなんとなく、ロコは今年、室生にどんな手作りチョコをあげるのかな、とぼんやりした頭で考えていたのだった。
「おはよ! ケンタ君!」
「おはよう、スミちゃん。いつもにまして元気いっぱいだね? 何かあったの?」
気づけばもう、一月も終わりだ。荻センの『三学期なんて意外と早いですよ?』というセリフを耳にしたのがつい昨日のようなのに、あと一週間ちょいで二月に入るなんて信じられない。
そんな冬の寒い朝のことだった。
純美子は僕の問いかけに、しまった! というわかりやすい表情で真っ赤になった。
「は、はぇ? えー……と、特にいつもと変わりなんてないんですけど!?」
「なんでちょっとキレ気味なのさ……」
学業のかたわら真面目に通っている声優学校で、何か特別な出来事でもあったのかと想像していたのだけれど、そういうわけではないらしい。指導する先生の薦めで十月に受けたオーディションには残念ながら合格できなかったものの、その後もちょくちょくオーディションのハナシがもらえるんだー! と言っていたっけ。そりゃそうだよな、未来の人気声優だもん。
そうじゃないとすると……なんかあったっけ?
ない知恵を絞り、僕が、うーん、うーん、とうなっていると、上機嫌な純美子のところに咲都子が近寄ってくるなり、さらり、とこう告げた。
「おっすー。ねえねえ、スミ? 今年は気合入れてバレンタインの準備するって言ってたけど」
「わ――わーわー! わーわーわーわー!! ああああっち行って話さない、サトちゃん!?」
スミマセン。全部聴こえてました……。
なるほど、そういうことか。って、まだバレンタインデーまでは三週間もあるんだけど、もしかしてカカオの木を育てるところからはじめる気なのかな……逆に日数が足りなくなるか。
そんなところに奴はやってきたのだった。
「おっはよー、モリケン! 僕、チョコレートが好きなシブチンだよ!」
「……ずいぶん個性的な自己紹介だな。っていうか、もう一個は確保してるんだからいいだろ」
「夢がないなー、モリケンはー」
やれやれ、と軽く肩をすくめるポーズをしながら首を振る渋田。殴りたい。
「自分の好感度をはかる大事なイベントだよ? もしかしたら、叶わぬ恋にせめて一矢報いようと、この大事な大事な日に一大決心している女の子とかがいるかもしれないじゃんか?」
「いないと思うんだが……」
渋田・咲都子の熟年喧嘩ップルの評判は、ウチのクラスはもちろんのこと同学年で知らない者はいないし、下手をすれば上級生・下級生にまで広く知れ渡っているということを、どうやらコイツはまるで自覚していないらしい。
それに、どちらかというと女子から人気があるのは咲都子の方だ。さすがは未来の大人気男装レイヤーというべきか、男前度もイケメン具合も、身長ですら渋田が勝てるポイントはない。
「そ・れ・に。わっかんないよー? モリケンのところにだって、来るかもしんないしさー?」
「ないない! ないだろ、常識的に考えて」
「なんで言い切れるのさ?」
「だってだな……? 僕は元々人付き合いが悪い方だし、他のクラスに知り合いなんていない」
「知り合いだから渡す、ってモンでもないじゃんか」
「それは……そうなんだろうけど……。でもだな……」
え? ありえるのか? と変な想像をしてしまい、急に落ち着かない気持ちになった僕は、純美子と咲都子が連れ立って消えていった教室の前のドアに視線を送りながら口ごもる。
「や、やっぱりないよ。そんなこと。ありえないって」
「まったく……ホント、夢がないなー、モリケンはー」
悪かったな、とふてくされつつ、僕はなんとなく、ロコは今年、室生にどんな手作りチョコをあげるのかな、とぼんやりした頭で考えていたのだった。
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