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第426話 追跡者(1) at 1996/1/12
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(運よくバスが二台続けて来てくれて助かった……僕に流れが向いてる)
二十六年経った今でもその汚名が返上されることのない渋滞ルート、それが『町田街道』だ。
『町田街道』とは、起点となる東京都八王子市東浅川町の『町田街道入口』交差点から、町田の中心部を通って、町田市鶴間の『町田市辻』交差点までを結ぶ道路の通称である。
言いかえれば、国道20号から国道246号までを結ぶルートであって、県境となる境川を挟んで並行に伸びている国道16号同様、周辺地域の人々には欠かせない重要なルートだ。
ただしその利便性とは裏腹に、二車線化などの拡張工事が思うように進まず、一日中を通して渋滞が発生していることでも知られている。おまけに路線バスの主要なルートでもあり、特定の時間帯には大幅にダイヤが乱れる。結果、二台連続で到着、ということが多々起こるのだ。
(どこで降りるつもりなんだろう? しかも、このバスは境川団地ルートだ。神社なんて……)
降りたことをのんびり確認していたら、僕が降り損ねてしまう。なので、空席があるのにも関わらず、バス前方の位置をキープしてしっかりと観察を続ける。運転手がかなり嫌そうだ。
しばらくのろのろ運転が続き、僕の神経もずっと張り詰めたままだった。
そして――。
(結局終点まで降りなかったな……もしかして、電車でさらに移動するのか? 可能性は――)
なくはなかったが、幸運にもというか、笙パパは、小田急線の改札口の前を通り過ぎていく。
僕らははなから町田の中だけで考えていたのだが、たしかに電車を使って移動する可能性もあったわけだ。それが否定されただけでも、たかが中学生の身分と財力の僕にはありがたい。
(……よし。財布にあんまり余裕なかったからなぁ……これなら追えるぞ――)
同じく、ベデストリアンデッキでつながれたJR横浜線の改札の前も、笙パパは素通りしていった。現在の時刻がちょうど帰宅ラッシュのはじまりということもあって、二重の意味で助かったものの、背の高い笙パパに対して、まだ成長期の途中の僕には雑踏はあまり優しくない。
「……」
と――。
サラリーマンたちをかわすのに必死の僕の目に、笙パパがあたりを見回している姿が映った。
(誰かを待っている……?)
が、次の瞬間――と、と、と。
(くそ……っ! イキナリ歩くスピードを上げた!? ヤバい……っ! 巻かれてたまるか!)
何かを察知したのか、笙パパはさっきまでとは比べものにならないほどの歩幅と速度で、JR駅改札前から裏手にある下り階段目指して進んで行く。と、と、と、と駆け下りていく。さすがに僕も、これには驚き、見つかる可能性を度外視して混雑したコンコースを駆けだした。
「――っ!」
「す、すいませ――!」
どん、どん、とぶつかり、そのたびに腹立ちまぎれの怒声が耳をかすめた。が、ここで見失ってしまっては元も子もない。ハンパなお詫びだけをその場に残して、恥も外聞も捨てて走る。ここでむやみに騒ぎに発展でもしたら、すぐ下にある交番から警官がやってくるだろう。そろそろ時間的にも未成年どころか十八歳にも満たない僕にとっては面倒な時間帯になってしまう。
――だだだだだん!
「やっと――っ! く……そ……っ! どっちに……どこに行ったんだ……?」
ねんざする一歩手前まで速度を上げて降りてきたものの、笙パパの姿は消えてしまっていた。まだ途切れ途切れの息をつなぎ、右へ――左へ――また右へ――と視線を動かす僕に。
「やぁ……たしか……古ノ森、健太君……だったね? 誰かお探しかい……? それとも――」
二十六年経った今でもその汚名が返上されることのない渋滞ルート、それが『町田街道』だ。
『町田街道』とは、起点となる東京都八王子市東浅川町の『町田街道入口』交差点から、町田の中心部を通って、町田市鶴間の『町田市辻』交差点までを結ぶ道路の通称である。
言いかえれば、国道20号から国道246号までを結ぶルートであって、県境となる境川を挟んで並行に伸びている国道16号同様、周辺地域の人々には欠かせない重要なルートだ。
ただしその利便性とは裏腹に、二車線化などの拡張工事が思うように進まず、一日中を通して渋滞が発生していることでも知られている。おまけに路線バスの主要なルートでもあり、特定の時間帯には大幅にダイヤが乱れる。結果、二台連続で到着、ということが多々起こるのだ。
(どこで降りるつもりなんだろう? しかも、このバスは境川団地ルートだ。神社なんて……)
降りたことをのんびり確認していたら、僕が降り損ねてしまう。なので、空席があるのにも関わらず、バス前方の位置をキープしてしっかりと観察を続ける。運転手がかなり嫌そうだ。
しばらくのろのろ運転が続き、僕の神経もずっと張り詰めたままだった。
そして――。
(結局終点まで降りなかったな……もしかして、電車でさらに移動するのか? 可能性は――)
なくはなかったが、幸運にもというか、笙パパは、小田急線の改札口の前を通り過ぎていく。
僕らははなから町田の中だけで考えていたのだが、たしかに電車を使って移動する可能性もあったわけだ。それが否定されただけでも、たかが中学生の身分と財力の僕にはありがたい。
(……よし。財布にあんまり余裕なかったからなぁ……これなら追えるぞ――)
同じく、ベデストリアンデッキでつながれたJR横浜線の改札の前も、笙パパは素通りしていった。現在の時刻がちょうど帰宅ラッシュのはじまりということもあって、二重の意味で助かったものの、背の高い笙パパに対して、まだ成長期の途中の僕には雑踏はあまり優しくない。
「……」
と――。
サラリーマンたちをかわすのに必死の僕の目に、笙パパがあたりを見回している姿が映った。
(誰かを待っている……?)
が、次の瞬間――と、と、と。
(くそ……っ! イキナリ歩くスピードを上げた!? ヤバい……っ! 巻かれてたまるか!)
何かを察知したのか、笙パパはさっきまでとは比べものにならないほどの歩幅と速度で、JR駅改札前から裏手にある下り階段目指して進んで行く。と、と、と、と駆け下りていく。さすがに僕も、これには驚き、見つかる可能性を度外視して混雑したコンコースを駆けだした。
「――っ!」
「す、すいませ――!」
どん、どん、とぶつかり、そのたびに腹立ちまぎれの怒声が耳をかすめた。が、ここで見失ってしまっては元も子もない。ハンパなお詫びだけをその場に残して、恥も外聞も捨てて走る。ここでむやみに騒ぎに発展でもしたら、すぐ下にある交番から警官がやってくるだろう。そろそろ時間的にも未成年どころか十八歳にも満たない僕にとっては面倒な時間帯になってしまう。
――だだだだだん!
「やっと――っ! く……そ……っ! どっちに……どこに行ったんだ……?」
ねんざする一歩手前まで速度を上げて降りてきたものの、笙パパの姿は消えてしまっていた。まだ途切れ途切れの息をつなぎ、右へ――左へ――また右へ――と視線を動かす僕に。
「やぁ……たしか……古ノ森、健太君……だったね? 誰かお探しかい……? それとも――」
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