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第415話 初詣(1) at 1996/1/1
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「あ――あけましておめでとうございます、スミちゃん」
「こちらこそ、あけましておめでとうございます、ケンタ君! 今年もよろしくね」
木曽根商店街の中央にある円形花壇のベンチで待っていた僕の前に現れた純美子を見たとたん、思わず言葉に詰まってしまった。
というのも、純美子が色あでやかな振袖を着ていたからだ。真珠のような光沢を放つ白雪をベースに、足元に近づくにつれ、真っ赤な寒椿が咲き乱れている。そんな古風なガラを濃紺の帯がすっと引き締めていた。これにも大振りな椿が金糸であしらわれている。足元はブーツだ。
「そ、そんなに見ないで……は、恥ずかしいから……ね?」
「いいじゃん。とってもよく似合ってるもん。嫌でも見とれちゃうよ」
「………………もう。意地悪なんだから」
「ホ、ホントのことしか言ってないってば」
聞けば、この前『楽しみにしててね!』と言ったものの、振袖を着る予定はなかったんだそうだ。たまたま純美子の母親の郷里である北海道の実家に帰った折、誕生日プレゼントを渡し損ねていたから、と祖母から贈られたものらしい。この振袖に、大正浪漫を思わせる黒い編み上げブーツを合わせたのは叔母からのアドバイスで、おかげで古風ながらもモダンな印象だ。
とはいえ、足元の自由がいつも以上に利かず、少し慎重によちよちと歩く姿がかわいらしい。
「あっ! あのね、ケ、ケンタ君!?」
「ん?」
しばらく歩いていると、突然純美子が大きめのボリュームで声をかけた。
「ふっ、振袖って、みっ、未婚の人しか着れないんだって! だ、だから! 純美子も今のうちにたくさん着ておきなさい、っておばあちゃんから言われて……。そ、それで……今日……」
「――!? さ、さすがにそれは……き、気が早くない、かな?」
「わっ! わからないでしょ!? その先……あのう……あたしとケンタ君が……あぅう……」
なぜだか僕らは妙に真っ赤になりながら、菅原神社への道をいつもよりゆっくり歩いていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しばらくバス通りに沿って歩いていくと、少しずつ、少しずつ、脇道から僕たちと同じく初詣に出かけるカップルや家族の姿が合流して増えてきた。とっさに僕は手を伸ばし、純美子の手をしっかりと握る。
あ――。
と声が漏れたが、今振り返ったら僕も真っ赤になりそうなので、しっかりと前を向き、車道側に立ちながら純美子の歩くスペースを確保してあげた。この付近、非常に歩道が狭いのだ。
苦心してSPのごとき鋭い(つもりの)眼光を周囲に放ち牽制ながら進んで行くと、ようやっと信号と交番のある、菅原神社の交差点まで辿り着くことができた――の、だが。
「わぁ、すごい人出だね……!」
「なんたって、このへん一帯を牛耳るえらーい氏神様だからね。受験前の人もいるだろうし」
着いた時刻が元旦にしてはまだ早い午前八時だったこともあって、これでも空いている方なのだろうが、目の前に立つ朱塗りの鳥居から社殿まで続く長い参拝客の列がすでにできあがっていたのだ。思わず顔を見合わせて苦笑する僕ら。
と、その時だった。
「……あれ? モリケンたちも来てたのか。途中、ぜんぜん気づかなかったな」
「え……? あ……ム、ムロとロコも……」
背後から声をかけられて振り返ると、そこには室生とロコの姿があったのだ。まさか、新年早々、ふたりに出くわすとは思ってもいなかったので、僕のココロはたちまち動揺してしまう。
「じゃ、仲良く四人でお参りするとしようか。もちろん構わないよね、モリケン?」
「こちらこそ、あけましておめでとうございます、ケンタ君! 今年もよろしくね」
木曽根商店街の中央にある円形花壇のベンチで待っていた僕の前に現れた純美子を見たとたん、思わず言葉に詰まってしまった。
というのも、純美子が色あでやかな振袖を着ていたからだ。真珠のような光沢を放つ白雪をベースに、足元に近づくにつれ、真っ赤な寒椿が咲き乱れている。そんな古風なガラを濃紺の帯がすっと引き締めていた。これにも大振りな椿が金糸であしらわれている。足元はブーツだ。
「そ、そんなに見ないで……は、恥ずかしいから……ね?」
「いいじゃん。とってもよく似合ってるもん。嫌でも見とれちゃうよ」
「………………もう。意地悪なんだから」
「ホ、ホントのことしか言ってないってば」
聞けば、この前『楽しみにしててね!』と言ったものの、振袖を着る予定はなかったんだそうだ。たまたま純美子の母親の郷里である北海道の実家に帰った折、誕生日プレゼントを渡し損ねていたから、と祖母から贈られたものらしい。この振袖に、大正浪漫を思わせる黒い編み上げブーツを合わせたのは叔母からのアドバイスで、おかげで古風ながらもモダンな印象だ。
とはいえ、足元の自由がいつも以上に利かず、少し慎重によちよちと歩く姿がかわいらしい。
「あっ! あのね、ケ、ケンタ君!?」
「ん?」
しばらく歩いていると、突然純美子が大きめのボリュームで声をかけた。
「ふっ、振袖って、みっ、未婚の人しか着れないんだって! だ、だから! 純美子も今のうちにたくさん着ておきなさい、っておばあちゃんから言われて……。そ、それで……今日……」
「――!? さ、さすがにそれは……き、気が早くない、かな?」
「わっ! わからないでしょ!? その先……あのう……あたしとケンタ君が……あぅう……」
なぜだか僕らは妙に真っ赤になりながら、菅原神社への道をいつもよりゆっくり歩いていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しばらくバス通りに沿って歩いていくと、少しずつ、少しずつ、脇道から僕たちと同じく初詣に出かけるカップルや家族の姿が合流して増えてきた。とっさに僕は手を伸ばし、純美子の手をしっかりと握る。
あ――。
と声が漏れたが、今振り返ったら僕も真っ赤になりそうなので、しっかりと前を向き、車道側に立ちながら純美子の歩くスペースを確保してあげた。この付近、非常に歩道が狭いのだ。
苦心してSPのごとき鋭い(つもりの)眼光を周囲に放ち牽制ながら進んで行くと、ようやっと信号と交番のある、菅原神社の交差点まで辿り着くことができた――の、だが。
「わぁ、すごい人出だね……!」
「なんたって、このへん一帯を牛耳るえらーい氏神様だからね。受験前の人もいるだろうし」
着いた時刻が元旦にしてはまだ早い午前八時だったこともあって、これでも空いている方なのだろうが、目の前に立つ朱塗りの鳥居から社殿まで続く長い参拝客の列がすでにできあがっていたのだ。思わず顔を見合わせて苦笑する僕ら。
と、その時だった。
「……あれ? モリケンたちも来てたのか。途中、ぜんぜん気づかなかったな」
「え……? あ……ム、ムロとロコも……」
背後から声をかけられて振り返ると、そこには室生とロコの姿があったのだ。まさか、新年早々、ふたりに出くわすとは思ってもいなかったので、僕のココロはたちまち動揺してしまう。
「じゃ、仲良く四人でお参りするとしようか。もちろん構わないよね、モリケン?」
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