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第407話 変わらなかった、から at 1995/12/23
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「……それって?」
「それはスミから聞いたんでしょ? 同じハナシしてもしようがないじゃん。いいでしょ?」
ロコは、むすり、と口をへの字に曲げてそっぽを向く。
でもそれは、怒っているというより、ガラにもなく照れているようにみえた。
「じゃ、じゃあ、ロ、ロコは僕のことを……」
「あぁああああ! うっさいなぁ、もう! 『スキ』よ! 『スキ』だったのよ! 悪い!?」
ぎゅっ、と心臓を掴まれたような苦しさと愛しさが僕のココロをごちゃぐちゃにする。
が――。
………………だった?
たしかにロコはそう言った。
「だった、って……? 今は……違う?」
「……」
ロコは僕の問いから逃げるように視線をそらし、背中を向けてしまう。そして、僕の方を振り返らずに、僕の今浮かべている表情をみないように、こう告げた。
「あの頃はそうだった、ってハナシでしょ? 今は――違う。そう、違うわ」
たった今、ついさっきのやりとりが幻だったかのような平坦で堅い口調だった。
「二十六年も経てば、人間、誰だって変わるんだ。昔のままじゃいられないんだ――そう自分だって言ってたじゃない? そうでしょ、ケンタ? 違う?」
「それは……たしかにあの時は言ったけども! それはフットサル勝負でのハナシであって!」
「あたしにとっては違わない。同じことだよ」
「でも……っ! 恋とか愛とかってそういうんじゃ――!」
「じゃあ……ケンタにとって酷な、嫌なハナシをしてあげるよ」
ロコはようやく振り返る。
その顔に笑みはなかった。
「あたしはケンタの未来を知ってる。それは、未来のケンタは、仕事に追われて疲れ果てて、身内の不幸をきっかけにココロを病んで、もうじき自動退職待ちの無職予備軍、ってことを」
さすがに他人の口から飛び出すにはあまりにも鋭利なナイフが無慈悲につきたてられる。それでも真実だ。たしかにロコが言ったとおりの下り坂の途中でしがみついているだけの人生だ。
「いくら『スキ』だったからって、そんな未来をあたしは望んでない。支えてあげらんない。自分の未来だけで精いっぱい。今より幸せになりたい。それは言わなくたってわかるでしょ?」
「ぼ、僕の未来だって変わるかもしれないだろ!」
「……そうね。変わるんじゃない?」
「だったら――!」
僕のすがりつくようなセリフを、ロコは大きな溜息たったひとつで遮った。
未来を知っているからなんだ! 僕が恋や愛に支えられていたら、運命のダイスはこんな目を出さなかったかもしれない! よし、こうなったら――!
その矢先、ロコは唐突にまだベランダの鉄柵にしがみついている僕の胸元を両手でつかんだ。
そして、あらん限りのチカラをこめて、こう叫んだのだ。
「で も 、 変 わ ら な か っ た じ ゃ ん !」
ロコの瞳に見る間に涙が溢れた。
誰もが憧れる学年トップの美少女はぼろぼろと泣いていた。
「アンタのスミが『スキ』って気持ちは、四〇歳になったって少しも変わらなかったじゃん! ずっと……ずっと『スキ』だったんじゃん! この世の中にはね、決して変わらないものだってあるんだ! あたしのことなんて、一度だって思い出したこと、ないじゃん! 違う!?」
僕は――こたえられなかった――何ひとつ。
そんな僕を噛み殺すようにロコは強引なキスをして――そして僕のカラダを、どん、と押す。
「それはスミから聞いたんでしょ? 同じハナシしてもしようがないじゃん。いいでしょ?」
ロコは、むすり、と口をへの字に曲げてそっぽを向く。
でもそれは、怒っているというより、ガラにもなく照れているようにみえた。
「じゃ、じゃあ、ロ、ロコは僕のことを……」
「あぁああああ! うっさいなぁ、もう! 『スキ』よ! 『スキ』だったのよ! 悪い!?」
ぎゅっ、と心臓を掴まれたような苦しさと愛しさが僕のココロをごちゃぐちゃにする。
が――。
………………だった?
たしかにロコはそう言った。
「だった、って……? 今は……違う?」
「……」
ロコは僕の問いから逃げるように視線をそらし、背中を向けてしまう。そして、僕の方を振り返らずに、僕の今浮かべている表情をみないように、こう告げた。
「あの頃はそうだった、ってハナシでしょ? 今は――違う。そう、違うわ」
たった今、ついさっきのやりとりが幻だったかのような平坦で堅い口調だった。
「二十六年も経てば、人間、誰だって変わるんだ。昔のままじゃいられないんだ――そう自分だって言ってたじゃない? そうでしょ、ケンタ? 違う?」
「それは……たしかにあの時は言ったけども! それはフットサル勝負でのハナシであって!」
「あたしにとっては違わない。同じことだよ」
「でも……っ! 恋とか愛とかってそういうんじゃ――!」
「じゃあ……ケンタにとって酷な、嫌なハナシをしてあげるよ」
ロコはようやく振り返る。
その顔に笑みはなかった。
「あたしはケンタの未来を知ってる。それは、未来のケンタは、仕事に追われて疲れ果てて、身内の不幸をきっかけにココロを病んで、もうじき自動退職待ちの無職予備軍、ってことを」
さすがに他人の口から飛び出すにはあまりにも鋭利なナイフが無慈悲につきたてられる。それでも真実だ。たしかにロコが言ったとおりの下り坂の途中でしがみついているだけの人生だ。
「いくら『スキ』だったからって、そんな未来をあたしは望んでない。支えてあげらんない。自分の未来だけで精いっぱい。今より幸せになりたい。それは言わなくたってわかるでしょ?」
「ぼ、僕の未来だって変わるかもしれないだろ!」
「……そうね。変わるんじゃない?」
「だったら――!」
僕のすがりつくようなセリフを、ロコは大きな溜息たったひとつで遮った。
未来を知っているからなんだ! 僕が恋や愛に支えられていたら、運命のダイスはこんな目を出さなかったかもしれない! よし、こうなったら――!
その矢先、ロコは唐突にまだベランダの鉄柵にしがみついている僕の胸元を両手でつかんだ。
そして、あらん限りのチカラをこめて、こう叫んだのだ。
「で も 、 変 わ ら な か っ た じ ゃ ん !」
ロコの瞳に見る間に涙が溢れた。
誰もが憧れる学年トップの美少女はぼろぼろと泣いていた。
「アンタのスミが『スキ』って気持ちは、四〇歳になったって少しも変わらなかったじゃん! ずっと……ずっと『スキ』だったんじゃん! この世の中にはね、決して変わらないものだってあるんだ! あたしのことなんて、一度だって思い出したこと、ないじゃん! 違う!?」
僕は――こたえられなかった――何ひとつ。
そんな僕を噛み殺すようにロコは強引なキスをして――そして僕のカラダを、どん、と押す。
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