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第394話 古ノ森健太はひとり空回る。 at 1995/12/23
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「はーっ。すっきりしたー。……ん? どうしたの、ケンタ君?」
「あは、あははは……。だよね、うん。トイレ我慢してたらカラダに悪いもんね、うんうん」
びっくりしたよ、もう。
イキナリとんでもないことがはじまるかと思った……。
そりゃそうだよね、まだ中学生だもんね、考え過ぎだよね。
その調子でフクザツそうな顔をしていたら、純美子が頬を赤らめながら、ぷく、とふくれた。
「おトイレの音、聴いたりして……ないでしょうね?」
「き、聴いてません、聴いてません! ちゃんと耳塞いでましたし!」
「冗談だってば。うふふふ。変なケンタ君だねー」
ただでさえ緊張しまくりなのに、そんな意味不明な冗談ブチこまれても対応できないってば。
意を決して純美子を親父・お袋不在の我が家に招いて、二人っきりのクリスマスイブを過ごそうと思ったまではいいけれど。よくよく考えてみたら、二人ともまだ中学生の、それもたかだか二年生なわけで。いいフンイキではあるけれども、そんなえっちな展開は期待する方が間違ってる。
なんだけど。
「ねぇ、ケンタ君?」
「な、なに、スミちゃん?」
すると純美子は、白いもこもこのハイネックを指先に引っかけ、中を覗いてから、つられて視線を向けた僕を叱るように悪戯っぽい目で笑いかけてきた。それから、上目遣いでこう言う。
「あたし……先にお風呂に入りたいな……。それからでも……いいでしょ?」
「い……いいでしょ、って……! ススススミちゃん、この後何する気ぃ!?」
「?」
とたんにきょとんとした顔つきになる純美子。
「今日は、二人でごろごろしながらお話しするの。いつもできないハナシとか、二人だけのハナシとか。それと……だ、誰にも言えないようなハナシとか。だから……お風呂、入ろ?」
「だ、だよね! びっくりしたぁー」
「な、なんか……今日のケンタ君、ちょっと変だよ? 大丈夫?」
変だろうけども!
そりゃあね! こっちだっていろいろ期待しまくりで、とにかく落ち着かなくって、純美子のセリフのひとつひとつ、仕草のひとつひとつに神経質なんだってば!
とも言えず、あははは……とごまかし笑いを浮かべて風呂場へ歩を進める僕。
さて、団地族にはお馴染みかもしれないけれど、木曽根のような歴史の古い団地では、いまだに風呂場スペースだけしかないのをご存知だろうか。
いわゆるユニットバスではなく、コンクリート打ちっぱなしに近いスペースだけがあって、そこに居住者が風呂釜と浴槽を購入して設置しなければならないのである。僕は子どもの頃からこの風呂が嫌いだった。
水はけが悪く、入浴する前には洗い場にスノコを敷いてやらないといろいろ不衛生だった。自動で湯を溜める機能なんてないので、ガス栓を開いて点火し、お湯の蛇口をめいっぱい捻る――同時に真水もほどほどに入れておかないと熱くてとてもじゃないが入れない。シャワーは湯を沸かしながら使うことになるので、経済的な面から我が家では禁止されていた。
なにより、鏡がない。すぐ脇の洗面所にはあるけれど、なにせトイレも含めたらかなりの空間面積だ。就職する寸前まで実家暮らしだった僕は、ヒゲをそるたびに面倒で仕方なかった。
おまけに冬場は寒いし、仕切り用のシャワーカーテンを開けてしまえばトイレも丸見えだ。脱衣スペースなんて気の利いたものはない。あるにはあるけれど、猫のひたいより狭いだろう。
とは言うものの、同じ団地族の純美子の家のものと大差はないに違いない。
でも僕は、やっぱり恥ずかしくて嫌だったのだ。
しゅぼっ――きゅ、きゅ――ど、ど、ど、ど、ど。
カランからイキオイよく熱湯がほとばしり出る。あとは湯が溜まるまで待つだけだ。安堵から、ほっ、とひそかに息を吐き漏らし、わずかに開いた小さな内倒し窓から漆黒の闇を見て――はっ、と息をのんだ。
(え………………!? 雪が……降ってる……だと!? そんな……馬鹿なことって……!!)
「あは、あははは……。だよね、うん。トイレ我慢してたらカラダに悪いもんね、うんうん」
びっくりしたよ、もう。
イキナリとんでもないことがはじまるかと思った……。
そりゃそうだよね、まだ中学生だもんね、考え過ぎだよね。
その調子でフクザツそうな顔をしていたら、純美子が頬を赤らめながら、ぷく、とふくれた。
「おトイレの音、聴いたりして……ないでしょうね?」
「き、聴いてません、聴いてません! ちゃんと耳塞いでましたし!」
「冗談だってば。うふふふ。変なケンタ君だねー」
ただでさえ緊張しまくりなのに、そんな意味不明な冗談ブチこまれても対応できないってば。
意を決して純美子を親父・お袋不在の我が家に招いて、二人っきりのクリスマスイブを過ごそうと思ったまではいいけれど。よくよく考えてみたら、二人ともまだ中学生の、それもたかだか二年生なわけで。いいフンイキではあるけれども、そんなえっちな展開は期待する方が間違ってる。
なんだけど。
「ねぇ、ケンタ君?」
「な、なに、スミちゃん?」
すると純美子は、白いもこもこのハイネックを指先に引っかけ、中を覗いてから、つられて視線を向けた僕を叱るように悪戯っぽい目で笑いかけてきた。それから、上目遣いでこう言う。
「あたし……先にお風呂に入りたいな……。それからでも……いいでしょ?」
「い……いいでしょ、って……! ススススミちゃん、この後何する気ぃ!?」
「?」
とたんにきょとんとした顔つきになる純美子。
「今日は、二人でごろごろしながらお話しするの。いつもできないハナシとか、二人だけのハナシとか。それと……だ、誰にも言えないようなハナシとか。だから……お風呂、入ろ?」
「だ、だよね! びっくりしたぁー」
「な、なんか……今日のケンタ君、ちょっと変だよ? 大丈夫?」
変だろうけども!
そりゃあね! こっちだっていろいろ期待しまくりで、とにかく落ち着かなくって、純美子のセリフのひとつひとつ、仕草のひとつひとつに神経質なんだってば!
とも言えず、あははは……とごまかし笑いを浮かべて風呂場へ歩を進める僕。
さて、団地族にはお馴染みかもしれないけれど、木曽根のような歴史の古い団地では、いまだに風呂場スペースだけしかないのをご存知だろうか。
いわゆるユニットバスではなく、コンクリート打ちっぱなしに近いスペースだけがあって、そこに居住者が風呂釜と浴槽を購入して設置しなければならないのである。僕は子どもの頃からこの風呂が嫌いだった。
水はけが悪く、入浴する前には洗い場にスノコを敷いてやらないといろいろ不衛生だった。自動で湯を溜める機能なんてないので、ガス栓を開いて点火し、お湯の蛇口をめいっぱい捻る――同時に真水もほどほどに入れておかないと熱くてとてもじゃないが入れない。シャワーは湯を沸かしながら使うことになるので、経済的な面から我が家では禁止されていた。
なにより、鏡がない。すぐ脇の洗面所にはあるけれど、なにせトイレも含めたらかなりの空間面積だ。就職する寸前まで実家暮らしだった僕は、ヒゲをそるたびに面倒で仕方なかった。
おまけに冬場は寒いし、仕切り用のシャワーカーテンを開けてしまえばトイレも丸見えだ。脱衣スペースなんて気の利いたものはない。あるにはあるけれど、猫のひたいより狭いだろう。
とは言うものの、同じ団地族の純美子の家のものと大差はないに違いない。
でも僕は、やっぱり恥ずかしくて嫌だったのだ。
しゅぼっ――きゅ、きゅ――ど、ど、ど、ど、ど。
カランからイキオイよく熱湯がほとばしり出る。あとは湯が溜まるまで待つだけだ。安堵から、ほっ、とひそかに息を吐き漏らし、わずかに開いた小さな内倒し窓から漆黒の闇を見て――はっ、と息をのんだ。
(え………………!? 雪が……降ってる……だと!? そんな……馬鹿なことって……!!)
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