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第380話 ゆがんだ世界 at 1995/12/16
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『……おーい!』
昨日のハナシなのに。
まだ、ひりひり、する。
『……もしもーし!』
はぁ……。
週明けの学校が、気が重い。
『うーっ……プ、プロント?』
「どうして急にイタリア語なんだよ、コトセ?」
別に聞いていなかったわけじゃない。
聴こえてはいた。
ただ、返事をするのもおっくうだっただけだ。
そんな重くけだるい気分だったのだ。
『ははぁん、なぜイタリア語なのか、だと!? それはな……単なる気分だよ、古ノ森少年!』
「少年、って……お前は、大仰で尊大で芝居がかった口調なだけで、僕らと同い年だろうが!」
『そう言われれば、たしかにそうじゃったわ! ククク……!』
この『のじゃロリ』、だんだんと会話を重ねるたびに、そのユニークさと――元来の『風変わりな』という意味で、だ――、ひねくれ者で一筋縄ではいかない厄介な性格ながらも他人思いで優しい奴なのだと気づかされる。まったく、ずいぶんと気をつかわせてしまったようだ。
「……ごめんな、さっきのハナシの続きをしようか、コトセ」
『うむ。よかろうて』
そこで僕はもう一度頭の中を整理してからこうしゃべりかけた。
「つまり、だ。コトセが知りうる限り、学校内での『ロコへのいじめ』の事実は、あとかたもなく消え去ってしまった、と。そういうことなんだな? でも、ならどうしてコトセは――?」
『すぐにもこたえてやりたいところだがな……。先に二、三訂正をさせてもらおうとしようか』
こほん、とひとつ咳払いをして、コトセは先を続けた。
『まずだ。……正確を期すならば、「ロコに対するいじめ」の事実はきれいさっぱり消えてしまった、というわけではないのだよ。シンプルに表現するのであれば、「いじめがあった」という結果だけが消えてしまった、というわけだな。どこかで聞いたようなハナシだがね――』
「水無月さん――コトセたちの時と同じ、というわけか……」
『そうだ。……つまり、そこに至るまでのプロセスは「事実」として残っている。文化祭の舞台での一件や、あの乱暴者とエセ二枚目とお前の抗争の件、そして、それに付随したお前と弓之助のスパイごっこや、あのハレンチな盗撮写真なんかもだ。なんとも雑なやり方だが――』
「ひどいな……大丈夫なのか、そんな場当たり的なやり方で?」
『恐らくは』
大丈夫だろうよ、ダメに決まっているだろう――どちらともとれる言い回しをコトセはする。
『その上で、だ。……なぜ私が強制リセットから除外されたのかは、それは恐らく、私が琴世の「リトライアイテム」であり、その場にいなかったからであり、「リトライ者」だからだ』
「なるほど……。なら、ロコもとまどっている頃だろうな、きっと」
『恐らくそうであろうよ。ずいぶんと気にはかけていたからな』
僕らは今回の件で、幸か不幸か、多くのことを学びとることになった。
それは『リトライ者』以外のニンゲンに対し、未来の事象を話すこと、僕らが未来から来た『リトライ者』であると打ち明けることは、多大なる危険を伴うってことだ。
あまり考えたくはないことだったが、場合によっては、ひょっとすると『桃月天音』というひとりの少女の存在すべてが消えてしまっていたのかもしれない。ぞっとしないハナシだ。
「……そうだ! 『アレ』の件はどうなってる? 何か進展はあったのかい?」
不意に頭をよぎり、そう尋ねてみると、コトセは急にトーンを落としてこうこたえた。
『ああ、あったとも。それを話したくて、こうして「会議」に呼び出したのだからな――』
昨日のハナシなのに。
まだ、ひりひり、する。
『……もしもーし!』
はぁ……。
週明けの学校が、気が重い。
『うーっ……プ、プロント?』
「どうして急にイタリア語なんだよ、コトセ?」
別に聞いていなかったわけじゃない。
聴こえてはいた。
ただ、返事をするのもおっくうだっただけだ。
そんな重くけだるい気分だったのだ。
『ははぁん、なぜイタリア語なのか、だと!? それはな……単なる気分だよ、古ノ森少年!』
「少年、って……お前は、大仰で尊大で芝居がかった口調なだけで、僕らと同い年だろうが!」
『そう言われれば、たしかにそうじゃったわ! ククク……!』
この『のじゃロリ』、だんだんと会話を重ねるたびに、そのユニークさと――元来の『風変わりな』という意味で、だ――、ひねくれ者で一筋縄ではいかない厄介な性格ながらも他人思いで優しい奴なのだと気づかされる。まったく、ずいぶんと気をつかわせてしまったようだ。
「……ごめんな、さっきのハナシの続きをしようか、コトセ」
『うむ。よかろうて』
そこで僕はもう一度頭の中を整理してからこうしゃべりかけた。
「つまり、だ。コトセが知りうる限り、学校内での『ロコへのいじめ』の事実は、あとかたもなく消え去ってしまった、と。そういうことなんだな? でも、ならどうしてコトセは――?」
『すぐにもこたえてやりたいところだがな……。先に二、三訂正をさせてもらおうとしようか』
こほん、とひとつ咳払いをして、コトセは先を続けた。
『まずだ。……正確を期すならば、「ロコに対するいじめ」の事実はきれいさっぱり消えてしまった、というわけではないのだよ。シンプルに表現するのであれば、「いじめがあった」という結果だけが消えてしまった、というわけだな。どこかで聞いたようなハナシだがね――』
「水無月さん――コトセたちの時と同じ、というわけか……」
『そうだ。……つまり、そこに至るまでのプロセスは「事実」として残っている。文化祭の舞台での一件や、あの乱暴者とエセ二枚目とお前の抗争の件、そして、それに付随したお前と弓之助のスパイごっこや、あのハレンチな盗撮写真なんかもだ。なんとも雑なやり方だが――』
「ひどいな……大丈夫なのか、そんな場当たり的なやり方で?」
『恐らくは』
大丈夫だろうよ、ダメに決まっているだろう――どちらともとれる言い回しをコトセはする。
『その上で、だ。……なぜ私が強制リセットから除外されたのかは、それは恐らく、私が琴世の「リトライアイテム」であり、その場にいなかったからであり、「リトライ者」だからだ』
「なるほど……。なら、ロコもとまどっている頃だろうな、きっと」
『恐らくそうであろうよ。ずいぶんと気にはかけていたからな』
僕らは今回の件で、幸か不幸か、多くのことを学びとることになった。
それは『リトライ者』以外のニンゲンに対し、未来の事象を話すこと、僕らが未来から来た『リトライ者』であると打ち明けることは、多大なる危険を伴うってことだ。
あまり考えたくはないことだったが、場合によっては、ひょっとすると『桃月天音』というひとりの少女の存在すべてが消えてしまっていたのかもしれない。ぞっとしないハナシだ。
「……そうだ! 『アレ』の件はどうなってる? 何か進展はあったのかい?」
不意に頭をよぎり、そう尋ねてみると、コトセは急にトーンを落としてこうこたえた。
『ああ、あったとも。それを話したくて、こうして「会議」に呼び出したのだからな――』
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