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第375話 汚れ役は底辺男子に適した職業(4) at 1995/12/15
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「あの子――上ノ原広子は、室生秀一が好きなんです。それに、室生君も広子のことが――」
かすかなつぶやきを繰り返し、耳をふさいで嫌々をするように首を振り続ける桃月。
「――でも、ホントはあんな子なのに……何も知らない室生君が可哀想……そう思いませんか? まあ、細かい言い回しは多少間違っているかもしれないけれど、そんなような囁きだ」
「そんなこと……!」
「――先生たちの前ではいい子をよそおって優等生ぶっちゃってますけど、それは自分に有利になるからです。そのためならチクリや密告も平気でするんです。昔からの友だちでさえも」
「違う……あたしは……!」
「そうそう、広子が更衣室で何かを見つけたみたいですよ? こんなものが学校中に広まったら、あの人、さぞかし困るでしょうね。いい気味――広子が笑っていた、そんなことも交えて」
「そんなの……嘘よ……嘘……!」
僕のセリフは、ほとんどハッタリだ。
だが、おおむねこんな筋書きでもなければ、あの『品行方正』で通っている境屋センパイが、進んでロコの悪名を広めるようなウワサなんて流すはずがない、そう推理したのだ。内容は、広まっているウワサから逆算すれば、きっとこんなことを言ったに違いない、そう考えたのだ。
そして残念ながら――僕のセリフは、そう外れたモノではなかったらしい。
桃月は自らの行いを悔いるように、何度も何度も首を振って、過去の行いを否定し続ける。
「副部長の境屋センパイが……ロコに少しだけ、意地悪になってくれるだけでよかったのに!」
「……さっきも言ったとおりだよ、桃月。あの人は追い詰められていたんだ」
でも、桃月が否定しているのは、きっと計算外の事態が起きてしまったことであって、自分のあやまちを戒めるところまでは至っていない。それが余計に僕をいらだたせていた。
「それにあの人は、自分の愛する誰かを救うためなら、一切の手段を選ばないだろう。正義の裁きは必ず行われるはず……そういう信念の持ち主だ。部活の仲間、親友、そして想い人……」
役職付きの自分たちが抜けた後の体操部の後輩たちの身を案じ、親友である大河内センパイのあとを継ぐにふさわしいリーダーを選び抜き、たとえ自分の恋が実らずとも想い人にはせめて幸せになって欲しいと切に願う。そのためなら刺し違えようとも戦い続ける、そんな志だ。
「まさか、あれほどのイキオイでロコの悪いウワサが学校中に広まるだなんて、夢にも思っていなかったんだろうな、桃月は。同情するよ。……ああ、でも『西中まつり』での仕返しができて、少しうれしかったんじゃないか? せっかくのセンターでの舞台だったんだもんな?」
「――っ」
「………………そう、だったの?」
僕の言葉に、思わず苦いものを噛み潰してしまったかのような渋い顔を浮かべた桃月に、はじめてロコが言葉を発して問いかけた。だが、桃月はそれにこたえることができない。
そこにとまどいの表情を隠せないロコが、言い訳のように言葉をつないだ。
「だって……あれは山崎センセイの意向で――」
「知ってるわよ、それくらいっ!」
桃月は、悲痛な叫びを上げた。
「あたしだって! そんなこと、わかってるわよ! わかってた!」
ぐじ、と目元を乱暴にこすって溢れ出る涙をぬぐいながら、少し抑えたトーンで言葉を継ぐ。
「――わかってた……はずだったのに……! ロコが悪いんじゃない、そんなことわかってるはずだったのに……! でもっ! あたしにとっては大事な舞台だったの! なのに――!」
「モモ……」
「ロコ、全っ然うれしくなさそうなんだもの! あたし、どんなにうれしかったかわかる!? いつも『二番目』で、誰かの『一番目』になれない子の気持ちなんて、わからないでしょ!?」
「………………ごめん」
とたん、桃月の表情が鬼女のごとく険しく激しく怒りをはらんだ。
「謝らないで! 謝るな! まるでロコの方がはるかに上みたいじゃん! あたしより――!」
かすかなつぶやきを繰り返し、耳をふさいで嫌々をするように首を振り続ける桃月。
「――でも、ホントはあんな子なのに……何も知らない室生君が可哀想……そう思いませんか? まあ、細かい言い回しは多少間違っているかもしれないけれど、そんなような囁きだ」
「そんなこと……!」
「――先生たちの前ではいい子をよそおって優等生ぶっちゃってますけど、それは自分に有利になるからです。そのためならチクリや密告も平気でするんです。昔からの友だちでさえも」
「違う……あたしは……!」
「そうそう、広子が更衣室で何かを見つけたみたいですよ? こんなものが学校中に広まったら、あの人、さぞかし困るでしょうね。いい気味――広子が笑っていた、そんなことも交えて」
「そんなの……嘘よ……嘘……!」
僕のセリフは、ほとんどハッタリだ。
だが、おおむねこんな筋書きでもなければ、あの『品行方正』で通っている境屋センパイが、進んでロコの悪名を広めるようなウワサなんて流すはずがない、そう推理したのだ。内容は、広まっているウワサから逆算すれば、きっとこんなことを言ったに違いない、そう考えたのだ。
そして残念ながら――僕のセリフは、そう外れたモノではなかったらしい。
桃月は自らの行いを悔いるように、何度も何度も首を振って、過去の行いを否定し続ける。
「副部長の境屋センパイが……ロコに少しだけ、意地悪になってくれるだけでよかったのに!」
「……さっきも言ったとおりだよ、桃月。あの人は追い詰められていたんだ」
でも、桃月が否定しているのは、きっと計算外の事態が起きてしまったことであって、自分のあやまちを戒めるところまでは至っていない。それが余計に僕をいらだたせていた。
「それにあの人は、自分の愛する誰かを救うためなら、一切の手段を選ばないだろう。正義の裁きは必ず行われるはず……そういう信念の持ち主だ。部活の仲間、親友、そして想い人……」
役職付きの自分たちが抜けた後の体操部の後輩たちの身を案じ、親友である大河内センパイのあとを継ぐにふさわしいリーダーを選び抜き、たとえ自分の恋が実らずとも想い人にはせめて幸せになって欲しいと切に願う。そのためなら刺し違えようとも戦い続ける、そんな志だ。
「まさか、あれほどのイキオイでロコの悪いウワサが学校中に広まるだなんて、夢にも思っていなかったんだろうな、桃月は。同情するよ。……ああ、でも『西中まつり』での仕返しができて、少しうれしかったんじゃないか? せっかくのセンターでの舞台だったんだもんな?」
「――っ」
「………………そう、だったの?」
僕の言葉に、思わず苦いものを噛み潰してしまったかのような渋い顔を浮かべた桃月に、はじめてロコが言葉を発して問いかけた。だが、桃月はそれにこたえることができない。
そこにとまどいの表情を隠せないロコが、言い訳のように言葉をつないだ。
「だって……あれは山崎センセイの意向で――」
「知ってるわよ、それくらいっ!」
桃月は、悲痛な叫びを上げた。
「あたしだって! そんなこと、わかってるわよ! わかってた!」
ぐじ、と目元を乱暴にこすって溢れ出る涙をぬぐいながら、少し抑えたトーンで言葉を継ぐ。
「――わかってた……はずだったのに……! ロコが悪いんじゃない、そんなことわかってるはずだったのに……! でもっ! あたしにとっては大事な舞台だったの! なのに――!」
「モモ……」
「ロコ、全っ然うれしくなさそうなんだもの! あたし、どんなにうれしかったかわかる!? いつも『二番目』で、誰かの『一番目』になれない子の気持ちなんて、わからないでしょ!?」
「………………ごめん」
とたん、桃月の表情が鬼女のごとく険しく激しく怒りをはらんだ。
「謝らないで! 謝るな! まるでロコの方がはるかに上みたいじゃん! あたしより――!」
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