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第373話 汚れ役は底辺男子に適した職業(2) at 1995/12/15
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「ど……どういうことなの……これは……!?」
境屋センパイはすっかり慌て驚いてしまい、室内にいる僕とロコと、ドアを開けたきり動くことができなくなってしまった少女の姿を見比べながら、誰に問いかけるでもなく言った。
「……ま、ともかく、です」
僕は境屋センパイの慌てように構いもせず、わざとそっけなく言い放つ。
「今後はしないと誓ってください。いいですね? ……もうあなたの不安は解消されますから」
「そ――それはどういう……?」
「あなたがその耳で聞いたとおりです。もうあなたを脅すニンゲンはいません。いいですね?」
「で、でも――」
「いいですね? 僕だって、彼にこんなことを話したくはないんです。……わかりますよね?」
僕のセリフのニュアンスに、境屋センパイは敏感に反応した。とたんに顔面が青白くなる。
「わ、わかったわ……もう、しませんから……」
「……それでいいんです。では、ごきげんよう」
そうして、境屋センパイは心配そうな顔つきのまま、何度も何度も僕の方を振り返りながら、ドアの前で凍りついたまま動こうとしない少女の脇をすり抜けるようにして去っていった。
「さて――と」
僕は視線を手前に戻して、固い表情で床の一点を見つめている少女に向けて声をかけた。
「遠慮しないで入ってくれよ――桃月。少しだけ――ほんの少しだけ、君と話しをしたいんだ」
「………………どうして?」
「え?」
「どうして、わかったの?」
「そうだね――」
僕はブレザーの内ポケットから、いつものスマホ――ではなく、少し厚みのある茶封筒を取り出し、中に入っていた数十枚の光沢のある紙束を取り出した。そして、扇状に広げる。
「この中に写っていたのは、体操部員たちの着替えの隠し撮り写真だった。でも、桃月は中身が何なのか知らなかったんだよな? で、たまたま残っていたフィルムで、自撮りをしてみた」
僕はトランプカードのプレイヤーのように、左右に大きく広げた写真の中から、一枚を取り出し、それが切り札――ジョーカーであるかのごとく、桃月に向けて突きつける。
「どうしてわかったかって? この、どこかの誰かさんのきまぐれと悪戯ゴコロで隠し撮りされた刺激的な写真たちの中で、桃月の写真だけが、撮られるための目的で撮られた写真だったからさ。とびきりきれいに、とびきりかわいく、とびきりセクシーに。……そうなんだろう?」
「そ、そんなの……他の誰かに頼んだのかもしんないじゃん……」
「かもね」
すでに桃月は『どうして、わかった』と自ら認めてしまっている。
だから、僕の言葉を否定しようとも無駄な行為だ。
しかし僕は、その写真の一部を指で差し、こう言葉を付け加えた。
「でも、もしそうなら、どうして桃月の右手は写っていない? これだけ、自分が一番魅力的に見える写真を撮るっていうのに。……それは、右手でカメラのシャッターを押したからさ。そして、この写真の被写体までの距離は、一般的な中学生女子の腕の長さとほぼ同じなんだ」
他にも、撮影された場所が、この一枚だけ境屋センパイの棚の位置からではなく、桃月の使っているロッカーの位置だということが割り出せている。ただ――それはもういいだろう。
「現像とプリントに出して、できあがった写真を見た時は相当驚いたんだろうな、桃月も。まさかこんなモノが写っていただなんて……まさに盗撮写真だ。でも……そこで君はこう思った」
「……」
「こんなもの、同じ体操部員以外に撮れるわけがない写真だって。そして、いつも一緒に着替えをして、身に着けている下着やロッカーの場所まで知っている君になら、誰が写っていないかはすぐわかったはずだ。となると……その写っていない『誰か』のしわざに違いない、とね」
境屋センパイはすっかり慌て驚いてしまい、室内にいる僕とロコと、ドアを開けたきり動くことができなくなってしまった少女の姿を見比べながら、誰に問いかけるでもなく言った。
「……ま、ともかく、です」
僕は境屋センパイの慌てように構いもせず、わざとそっけなく言い放つ。
「今後はしないと誓ってください。いいですね? ……もうあなたの不安は解消されますから」
「そ――それはどういう……?」
「あなたがその耳で聞いたとおりです。もうあなたを脅すニンゲンはいません。いいですね?」
「で、でも――」
「いいですね? 僕だって、彼にこんなことを話したくはないんです。……わかりますよね?」
僕のセリフのニュアンスに、境屋センパイは敏感に反応した。とたんに顔面が青白くなる。
「わ、わかったわ……もう、しませんから……」
「……それでいいんです。では、ごきげんよう」
そうして、境屋センパイは心配そうな顔つきのまま、何度も何度も僕の方を振り返りながら、ドアの前で凍りついたまま動こうとしない少女の脇をすり抜けるようにして去っていった。
「さて――と」
僕は視線を手前に戻して、固い表情で床の一点を見つめている少女に向けて声をかけた。
「遠慮しないで入ってくれよ――桃月。少しだけ――ほんの少しだけ、君と話しをしたいんだ」
「………………どうして?」
「え?」
「どうして、わかったの?」
「そうだね――」
僕はブレザーの内ポケットから、いつものスマホ――ではなく、少し厚みのある茶封筒を取り出し、中に入っていた数十枚の光沢のある紙束を取り出した。そして、扇状に広げる。
「この中に写っていたのは、体操部員たちの着替えの隠し撮り写真だった。でも、桃月は中身が何なのか知らなかったんだよな? で、たまたま残っていたフィルムで、自撮りをしてみた」
僕はトランプカードのプレイヤーのように、左右に大きく広げた写真の中から、一枚を取り出し、それが切り札――ジョーカーであるかのごとく、桃月に向けて突きつける。
「どうしてわかったかって? この、どこかの誰かさんのきまぐれと悪戯ゴコロで隠し撮りされた刺激的な写真たちの中で、桃月の写真だけが、撮られるための目的で撮られた写真だったからさ。とびきりきれいに、とびきりかわいく、とびきりセクシーに。……そうなんだろう?」
「そ、そんなの……他の誰かに頼んだのかもしんないじゃん……」
「かもね」
すでに桃月は『どうして、わかった』と自ら認めてしまっている。
だから、僕の言葉を否定しようとも無駄な行為だ。
しかし僕は、その写真の一部を指で差し、こう言葉を付け加えた。
「でも、もしそうなら、どうして桃月の右手は写っていない? これだけ、自分が一番魅力的に見える写真を撮るっていうのに。……それは、右手でカメラのシャッターを押したからさ。そして、この写真の被写体までの距離は、一般的な中学生女子の腕の長さとほぼ同じなんだ」
他にも、撮影された場所が、この一枚だけ境屋センパイの棚の位置からではなく、桃月の使っているロッカーの位置だということが割り出せている。ただ――それはもういいだろう。
「現像とプリントに出して、できあがった写真を見た時は相当驚いたんだろうな、桃月も。まさかこんなモノが写っていただなんて……まさに盗撮写真だ。でも……そこで君はこう思った」
「……」
「こんなもの、同じ体操部員以外に撮れるわけがない写真だって。そして、いつも一緒に着替えをして、身に着けている下着やロッカーの場所まで知っている君になら、誰が写っていないかはすぐわかったはずだ。となると……その写っていない『誰か』のしわざに違いない、とね」
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