上 下
375 / 539

第373話 汚れ役は底辺男子に適した職業(2) at 1995/12/15

しおりを挟む
「ど……どういうことなの……これは……!?」


 境屋センパイはすっかり慌て驚いてしまい、室内にいる僕とロコと、ドアを開けたきり動くことができなくなってしまった少女の姿を見比べながら、誰に問いかけるでもなく言った。


「……ま、ともかく、です」


 僕は境屋センパイの慌てように構いもせず、わざとそっけなく言い放つ。


「今後はしないと誓ってください。いいですね? ……もうあなたの不安は解消されますから」

「そ――それはどういう……?」

「あなたがその耳で聞いたとおりです。もうあなたを脅すニンゲンはいません。いいですね?」

「で、でも――」

「いいですね? 僕だって、にこんなことを話したくはないんです。……わかりますよね?」


 僕のセリフのニュアンスに、境屋センパイは敏感に反応した。とたんに顔面が青白くなる。


「わ、わかったわ……もう、しませんから……」

「……それでいいんです。では、ごきげんよう」


 そうして、境屋センパイは心配そうな顔つきのまま、何度も何度も僕の方を振り返りながら、ドアの前で凍りついたまま動こうとしない少女の脇をすり抜けるようにして去っていった。


「さて――と」


 僕は視線を手前に戻して、固い表情で床の一点を見つめている少女に向けて声をかけた。


「遠慮しないで入ってくれよ――桃月。少しだけ――ほんの少しだけ、君と話しをしたいんだ」

「………………どうして?」

「え?」

「どうして、わかったの?」

「そうだね――」


 僕はブレザーの内ポケットから、いつものスマホ――ではなく、少し厚みのある茶封筒を取り出し、中に入っていた数十枚の光沢のある紙束を取り出した。そして、扇状に広げる。


「この中に写っていたのは、体操部員たちの着替えの隠し撮り写真だった。でも、桃月は中身が何なのか知らなかったんだよな? で、たまたま残っていたフィルムで、自撮りをしてみた」


 僕はトランプカードのプレイヤーのように、左右に大きく広げた写真の中から、一枚を取り出し、それが切り札――ジョーカーであるかのごとく、桃月に向けて突きつける。


「どうしてわかったかって? この、どこかの誰かさんのきまぐれと悪戯ゴコロで隠し撮りされた刺激的な写真たちの中で、桃月の写真だけが、撮られるための目的で撮られた写真だったからさ。とびきりきれいに、とびきりかわいく、とびきりセクシーに。……そうなんだろう?」

「そ、そんなの……他の誰かに頼んだのかもしんないじゃん……」

「かもね」


 すでに桃月は『どうして、わかった』と自ら認めてしまっている。
 だから、僕の言葉を否定しようとも無駄な行為だ。

 しかし僕は、その写真の一部を指で差し、こう言葉を付け加えた。


「でも、もしそうなら、どうして桃月の右手は写っていない? これだけ、自分が一番魅力的に見える写真を撮るっていうのに。……それは、右手でカメラのシャッターを押したからさ。そして、この写真の被写体までの距離は、一般的な中学生女子の腕の長さとほぼ同じなんだ」


 他にも、撮影された場所が、この一枚だけ境屋センパイの棚の位置からではなく、桃月の使っているロッカーの位置だということが割り出せている。ただ――それはもういいだろう。


「現像とプリントに出して、できあがった写真を見た時は相当驚いたんだろうな、桃月も。まさかこんなモノが写っていただなんて……まさに盗撮写真だ。でも……そこで君はこう思った」

「……」

「こんなもの、同じ体操部員以外に撮れるわけがない写真だって。そして、いつも一緒に着替えをして、身に着けている下着やロッカーの場所まで知っている君になら、誰が写っていないかはすぐわかったはずだ。となると……その写っていない『誰か』のしわざに違いない、とね」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...