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第372話 汚れ役は底辺男子に適した職業(1) at 1995/12/15
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また、新しい週がはじまり――そして終わろうとしていた。
大きく開放的な窓から西日の差す女子更衣室の中は、オレンジ色に染まっている。
何もかも。
「――!?」
その誰もいなくなったドアを開けた少女は、そこにいた『先客』を見つけ、蒼白になった。
「やっぱり……あなたでしたのね……!? 上ノ原さんッ!」
「…………なんのハナシですか? 境屋センパイ?」
「こんな……こんなやり方でわたくしを脅して呼びつけて……! ひ、卑怯じゃない……!?」
「……だから。なんのハナシをしているか、あたしにはさっぱり――」
「――そこまで」
そこに遅れて現れたのは、僕だ。怒りに打ち震えて金切り声をあげる境屋センパイと、新たな乱入者である僕にとがった視線を向けるロコを両手で制して、僕はゆっくりと言葉を続ける。
「ここにセンパイを呼びつけたのは僕ですから。そして……カノジョは脅迫者じゃありません」
それから僕は、ナイフのように研ぎ澄まされた視線の主を見て、かすかな溜息をついた。
「まさか……ロコまで来るとは思ってなかったよ。本当に。どうしてここがわかったんだ?」
「……」
ロコはこたえない。
ただ、かわらず僕を刺し貫くような鋭い目で睨んでいた。
「ともかくです。境屋センパイにメッセージを送っていたのは僕です。理由はわかりますね?」
「……っ!」
「ロコ――上ノ原広子の、よからぬウワサを流していたのはあなたですね? 違いますか?」
「そんなの……っ! どこに証拠が……っ!」
「ではなぜ、僕の送った『ウワサの出所はつきとめた』というメッセージを見てここに来たんですか? センパイがその『出所』でないのなら、ここに来る必要はなかったはずですよね?」
「そ、それは――!」
赦しを乞うように差し出された手を一瞥して、僕はカノジョの言葉を代弁してやった。
「『しかたがなかった』、きっとセンパイは、そう仰りたいんでしょう。なぜなら、自分が預かっていたはずのカメラを紛失してしまい、その中身までが公に晒されてしまったんですから」
「――っ!?」
「おや、驚かれたようですね?」
「どうして……アレがわたくしの物だったとわかったの……!?」
「それは、撮影された位置、ですよ」
「位置?」
「たまたま僕は、校内に出回っている写真をすべて入手することができました。なので、それぞれの写真が、女子更衣室内の『どこから撮られたものなのか』をデータ化してみたんです」
僕は、あの『流出写真』のすべてについて、一体どの位置から撮影されたものなのかを特定するために、五十嵐君と水無月さんのチカラを借りて完成した女子更衣室の35分の1スケールの精巧なミニチュアセットを使って、一枚一枚撮影された位置をマッピングしていったのだ。
もちろん、女子更衣室を使用するのは体操部だけではない。けれど、カノジョたちが使う時には必ず、誰がどの棚を使うのかが決まっている。これは、クチコミと『観察』から明らかだ。
そして、悪意のあるなしは別にして、相手に許可なく隠し撮りをする気であれば、着替えをするわずかな時間だけであちこち動きながら全員を撮影するのはあからさまに不審だし、ほぼ不可能だろう。となれば、特定の位置から撮影されたものに違いない、と考えたのだ。
しかし、三次元的な位置特定にはかなりの時間と労力を要した。仮に僕が、未来からスマホを携えてこなかったら、とても検証なんてできなかった。同じように見える、同じように写る場所をシミュレートするためには、スマホのコンパクトかつ高性能なカメラが必須だったのだ。
「そうやってすべての位置を特定していった結果、撮影された位置は、代々部長と副部長が使う決まりになっている棚なのだということが割り出せたんですよ。……ただし、一枚を除いて」
そして――。
その一枚に写っていた遅れて現れた少女が、女子更衣室のドアを開けたのだった。
大きく開放的な窓から西日の差す女子更衣室の中は、オレンジ色に染まっている。
何もかも。
「――!?」
その誰もいなくなったドアを開けた少女は、そこにいた『先客』を見つけ、蒼白になった。
「やっぱり……あなたでしたのね……!? 上ノ原さんッ!」
「…………なんのハナシですか? 境屋センパイ?」
「こんな……こんなやり方でわたくしを脅して呼びつけて……! ひ、卑怯じゃない……!?」
「……だから。なんのハナシをしているか、あたしにはさっぱり――」
「――そこまで」
そこに遅れて現れたのは、僕だ。怒りに打ち震えて金切り声をあげる境屋センパイと、新たな乱入者である僕にとがった視線を向けるロコを両手で制して、僕はゆっくりと言葉を続ける。
「ここにセンパイを呼びつけたのは僕ですから。そして……カノジョは脅迫者じゃありません」
それから僕は、ナイフのように研ぎ澄まされた視線の主を見て、かすかな溜息をついた。
「まさか……ロコまで来るとは思ってなかったよ。本当に。どうしてここがわかったんだ?」
「……」
ロコはこたえない。
ただ、かわらず僕を刺し貫くような鋭い目で睨んでいた。
「ともかくです。境屋センパイにメッセージを送っていたのは僕です。理由はわかりますね?」
「……っ!」
「ロコ――上ノ原広子の、よからぬウワサを流していたのはあなたですね? 違いますか?」
「そんなの……っ! どこに証拠が……っ!」
「ではなぜ、僕の送った『ウワサの出所はつきとめた』というメッセージを見てここに来たんですか? センパイがその『出所』でないのなら、ここに来る必要はなかったはずですよね?」
「そ、それは――!」
赦しを乞うように差し出された手を一瞥して、僕はカノジョの言葉を代弁してやった。
「『しかたがなかった』、きっとセンパイは、そう仰りたいんでしょう。なぜなら、自分が預かっていたはずのカメラを紛失してしまい、その中身までが公に晒されてしまったんですから」
「――っ!?」
「おや、驚かれたようですね?」
「どうして……アレがわたくしの物だったとわかったの……!?」
「それは、撮影された位置、ですよ」
「位置?」
「たまたま僕は、校内に出回っている写真をすべて入手することができました。なので、それぞれの写真が、女子更衣室内の『どこから撮られたものなのか』をデータ化してみたんです」
僕は、あの『流出写真』のすべてについて、一体どの位置から撮影されたものなのかを特定するために、五十嵐君と水無月さんのチカラを借りて完成した女子更衣室の35分の1スケールの精巧なミニチュアセットを使って、一枚一枚撮影された位置をマッピングしていったのだ。
もちろん、女子更衣室を使用するのは体操部だけではない。けれど、カノジョたちが使う時には必ず、誰がどの棚を使うのかが決まっている。これは、クチコミと『観察』から明らかだ。
そして、悪意のあるなしは別にして、相手に許可なく隠し撮りをする気であれば、着替えをするわずかな時間だけであちこち動きながら全員を撮影するのはあからさまに不審だし、ほぼ不可能だろう。となれば、特定の位置から撮影されたものに違いない、と考えたのだ。
しかし、三次元的な位置特定にはかなりの時間と労力を要した。仮に僕が、未来からスマホを携えてこなかったら、とても検証なんてできなかった。同じように見える、同じように写る場所をシミュレートするためには、スマホのコンパクトかつ高性能なカメラが必須だったのだ。
「そうやってすべての位置を特定していった結果、撮影された位置は、代々部長と副部長が使う決まりになっている棚なのだということが割り出せたんですよ。……ただし、一枚を除いて」
そして――。
その一枚に写っていた遅れて現れた少女が、女子更衣室のドアを開けたのだった。
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