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第345話 スパイ大作戦(2) at 1995/11/22
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「と、ところでさ――」
ロコを含めた体操部員四人の姿が舞台袖の通路まで消えてから、僕は五十嵐君にたずねた。
「あの小型マイクロフォン、作ったのって、ホントにツッキーなの?」
「もちろんです。……それがなにか?」
当然のように答える五十嵐君の表情は、元々変化に乏しいこともあるのだけれど、今回はそれにも増してわかりづらかった。こと水無月さんのこととなると、必要以上に熱の入ってしまう五十嵐君なので、えー! うっそだー! 的な煽り発言と取られてしまうと後が非常に怖い。
「い、いやね? 中学生のやる電子工作の域を軽く超えてるなぁ、って思っちゃって。フツーのサイズの物を作るのだって相当技術が必要なんだろうけど、あんなに小さい物となるとさ?」
「そのあたりは、ぼ、僕のアドバイスも役に立ったようですよ」
「そっかー。二人は趣味が合うみたいでよかったね。うんうん」
まだ五十嵐君は、水無月さんと二人だけで過ごしている時間のことについて話すのはニガテらしく、怒ったような顔つきをしてほんのり頬を赤らめる。と言っても、同じ『電算論理研究部』に所属する仲間の僕らにしかわからないレベルで、だけれど。なんだか初々しいなあ。
――ザザッ。
唐突に、その小型マイクロフォンへと繋がっているコードの先の、これまた少し小さめのスピーカー越しに雑音が届いた。瞬間的に五十嵐君はいつも以上に背筋を伸ばして身構える。
「……室内への侵入を確認しました」
とたん、五十嵐君はスピーカーのボリュームをゼロにすると、あらかじめ挿しておいたイヤホンを自分用と僕用にわけて、ひとつを僕に手渡した。身振りでたずね返すと、うなずかれる。
「万が一にでも、第三者に聞かせるわけにはいきませんので。それに、こちらを通した方が音の細部まで聞き漏らさずに拾えるのですよ。……問題ないですか?」
「大丈夫。ちゃんと聴こえてる」
僕の耳には、ちょうど向かい側にある部活用の女子更衣室の中の音が、思いがけず鮮明に響いていた――いや、むしろ、居心地が悪いくらいに静かだということが伝わる程度に。
『話って……なんですか?』
間違いない。
ロコの声だ。
なぜだかずいぶんとひさしぶりに聞いた気がして、場違いにも口元に笑みが浮いていた。
『……いくつかあるわ。まずは……体操部の次期部長について』
……誰の声だ?
と思っていると、隣の五十嵐君が手元のメモを鉛筆でこつこつ突き、声の主が『大河内聡美』センパイだと教えてくれた。五十嵐君は見たこともない文字でしきりにメモを取っている。
『……気になる?』
『いえ、別に……』
『あたしと副部長である典子は、次期部長はずっと上ノ原さんにお願いしようと思っていたの』
再び五十嵐君がメモを突く。
こつこつ――『典子→境屋典子』――ふむ、副部長は『境屋典子』センパイってわけか。
『あ、あのっ! あ、あたし………………部長なんてできません』
『あら? ご心配にはおよばなくってよ? もう別の方にお願いすると決めましたので』
もう一度、こつこつ――どうやら副部長さんは、この声の人らしい。
にしても、ずいぶん嫌味で皮肉っぽい喋り方する人だ。
『指名する前でよかったですわ。部長会に出席したあとでは弾劾した時に恥をさらしますから』
『………………それ、どういう意味ですか?』
ロコの声に、露骨に怒りの感情が混じっている。
それを一笑するように副部長はこう続けるのだった。
『だって。あんなゲスであさましいことをしでかすような方には……とてもとてもお任せできませんもの。ねえ? そうでしょう?』
ロコを含めた体操部員四人の姿が舞台袖の通路まで消えてから、僕は五十嵐君にたずねた。
「あの小型マイクロフォン、作ったのって、ホントにツッキーなの?」
「もちろんです。……それがなにか?」
当然のように答える五十嵐君の表情は、元々変化に乏しいこともあるのだけれど、今回はそれにも増してわかりづらかった。こと水無月さんのこととなると、必要以上に熱の入ってしまう五十嵐君なので、えー! うっそだー! 的な煽り発言と取られてしまうと後が非常に怖い。
「い、いやね? 中学生のやる電子工作の域を軽く超えてるなぁ、って思っちゃって。フツーのサイズの物を作るのだって相当技術が必要なんだろうけど、あんなに小さい物となるとさ?」
「そのあたりは、ぼ、僕のアドバイスも役に立ったようですよ」
「そっかー。二人は趣味が合うみたいでよかったね。うんうん」
まだ五十嵐君は、水無月さんと二人だけで過ごしている時間のことについて話すのはニガテらしく、怒ったような顔つきをしてほんのり頬を赤らめる。と言っても、同じ『電算論理研究部』に所属する仲間の僕らにしかわからないレベルで、だけれど。なんだか初々しいなあ。
――ザザッ。
唐突に、その小型マイクロフォンへと繋がっているコードの先の、これまた少し小さめのスピーカー越しに雑音が届いた。瞬間的に五十嵐君はいつも以上に背筋を伸ばして身構える。
「……室内への侵入を確認しました」
とたん、五十嵐君はスピーカーのボリュームをゼロにすると、あらかじめ挿しておいたイヤホンを自分用と僕用にわけて、ひとつを僕に手渡した。身振りでたずね返すと、うなずかれる。
「万が一にでも、第三者に聞かせるわけにはいきませんので。それに、こちらを通した方が音の細部まで聞き漏らさずに拾えるのですよ。……問題ないですか?」
「大丈夫。ちゃんと聴こえてる」
僕の耳には、ちょうど向かい側にある部活用の女子更衣室の中の音が、思いがけず鮮明に響いていた――いや、むしろ、居心地が悪いくらいに静かだということが伝わる程度に。
『話って……なんですか?』
間違いない。
ロコの声だ。
なぜだかずいぶんとひさしぶりに聞いた気がして、場違いにも口元に笑みが浮いていた。
『……いくつかあるわ。まずは……体操部の次期部長について』
……誰の声だ?
と思っていると、隣の五十嵐君が手元のメモを鉛筆でこつこつ突き、声の主が『大河内聡美』センパイだと教えてくれた。五十嵐君は見たこともない文字でしきりにメモを取っている。
『……気になる?』
『いえ、別に……』
『あたしと副部長である典子は、次期部長はずっと上ノ原さんにお願いしようと思っていたの』
再び五十嵐君がメモを突く。
こつこつ――『典子→境屋典子』――ふむ、副部長は『境屋典子』センパイってわけか。
『あ、あのっ! あ、あたし………………部長なんてできません』
『あら? ご心配にはおよばなくってよ? もう別の方にお願いすると決めましたので』
もう一度、こつこつ――どうやら副部長さんは、この声の人らしい。
にしても、ずいぶん嫌味で皮肉っぽい喋り方する人だ。
『指名する前でよかったですわ。部長会に出席したあとでは弾劾した時に恥をさらしますから』
『………………それ、どういう意味ですか?』
ロコの声に、露骨に怒りの感情が混じっている。
それを一笑するように副部長はこう続けるのだった。
『だって。あんなゲスであさましいことをしでかすような方には……とてもとてもお任せできませんもの。ねえ? そうでしょう?』
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