上 下
333 / 539

第332話 球技大会・最終戦(6) at 1995/11/10

しおりを挟む
(早めにパスを回して、前線の援護をしないと……!)


 小山田のスローインを受けた僕は、ゆっくりとしたペースで相手陣地へとドリブルで侵入していく。が、ここでも相手チームの変化に驚かされていた。


(マン・ツー・マン・ディフェンス!? いや、フォア・チェックか!? 連戦だってのに!)


 相手チームの選手が、ボールがハーフラインを超えたとたんに積極的にプレッシャーをかけてきたのだ。通常であればそれは、負けているチームが相手のパス回しによる時間稼ぎを防ぐ戦法だ。ただこの戦術にも、もちろんデメリットはある。前線の選手の運動量とその負担が大きいのだ。

 だが、三〇分休憩しただけで連戦となった二年一組の動きは、決して衰えてはいなかった。


(前半はクラブ生のMFと部員のDFとGKを温存して、後半にぶつけてきたのか……!)


 なかでも驚くべきなのは、タツヒコの無尽蔵なスタミナと技術力だ。伊達にクラブ・テストに合格していない、ということだろう。身体能力が高く、なにより動きが変則的で読みづらい。


「トロトロやってねぇで詰めろよぅ! その根暗野郎は大したことねぇからなぁ!」

「く――っ!」


 僕は敵に取り囲まれる前にマークの外れている室生に低めの弾道でパスを出す。

 が、今度は室生があっという間に取り囲まれてしまった。
 僕の時より人数が多い。


(ムロもキヨも、もちろんダッチにもマークが付いてる!?)

(その上、ボールを持ったとたんに、チェックとプレッシャーが厳しくなるみたいだぞ……!)


 囲まれるのを嫌ってパス出しを焦れば、コースが中途半端になり相手にカットされてしまう。そのルーズなボールを舌なめずりして待ち構えているのがタツヒコ、という仕掛けらしい。


(って言っても……それをみんなに説明したところで対策なんてできないじゃないか……)


 タネがわかれば防げる、というものではない。だからこそ『戦術』なのである。


「ヘ、ヘイ! モリケン! 頼む!」

「う、うん!」


 室生が逃げ道を失う前に、僕はわずかに空いたマークのスキマをまで動いて、かろうじて通り向けたパスを受け取った。室生にまとわりついていたマークが一人、二人と離れていき、今度は別の選手が僕の方へと近づいてくる。


「……」


 下手ではないが、運動は得意な方でも、とりわけサッカーが上手というわけでもなさそうである。



 ――待てよ?
 そこで僕の脳裏に、ひとつの刹那の閃きが駆け抜けた。



(よく考えて見れば、中学でサッカー部、とか言っても、せいぜい三年間練習しただけだろ?)

(その点、僕が会社でフットサル・サークルに参加していたのは、六年間にもなるんだぞ……?)

(それに、この時代のサッカー少年が見たこともない『未来のテクニック』も持っているんだ)


 フォーメーションや戦術といったチームとしての『全体』の戦い方に加え、ボールリフトやトラップ、ドリブルやシュートといった個人としての『個』の戦い方もまた昔と今とでは違う。


(何もやらないで負けるくらいなら、そのわずかな可能性にかけてみるか……よぉしっ!)


 チャンスは一度きりだ。

 タツヒコの想定を越える技術力を一度でも見せてしまえば、僕もまた、マーク対象になってしまうだろう。その前に、ただ一度きりで、最大限の結果を出さなければならない。


「……」
「……」


 僕は、頼れるチームメイトたちの顔をひとつずつ見つめてから、うん、とうなずき前へ進む――。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...