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第313話 球技大会・一日目 at 1995/11/8

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 どん、どどん――。
 校舎裏から学校行事恒例の三段花火が打ち上げられ、立ち並ぶ団地の隅々まで鳴り響いた。


「いいか、てめぇら――?」


 サッカーで出場する選手たちを集めた小山田は、一人一人の目を覗き込むようにして言う。


「俺様たちのチームが目指すのはずばり優勝だ。それ以外は認めねえ。そのためにはよ、チーム全員が一丸となって、チカラを合わせて真剣にプレイしないといけねえよな? あぁん!?」


 そりゃそうだ。

 おっしゃるとおりそりゃそうなんだけど、こうも高圧的で、ぴりついた緊張感が漂ってちゃあ、できるプレイもまともにできやしないと思うんだけど。

 なので、おずおずと手を挙げる。


「なんだ? ナプキン王子? なんか文句でもあんのかよ!?」

「も、文句とかじゃないよ! たださ……リラックスして楽しくやろうって、ね?」

「はン! だらだらやってて、いいプレイができるってんなら見せてみろや!」

「い、いやいやいや! だらだらとリラックスってのは違――はぁ、まあやりますってば」


 言っている小山田自身が一番緊張して固くなっている気がする。やはり小山田にとって『負ける』ということは、フツーの人間以上の何か特殊な感情を招くものののようだ。僕は続けてこう言った。


「なんたってウチのクラスには、サッカー部キャプテンのがいるんだ! これ以上頼もしいツー・トップはいないよね? ね? 大丈夫、後ろの守りは僕らに任せてくれよ」

「ダ、ダッチだと……てめ――っ!」

「カ、カエルって……この野郎っ!」

「そ、そう怒るなってば! 前にも言ったろ? あだ名は友好の証だって! 馬鹿にしてるわけじゃないんだってば! プレイ中にも、みんなが気軽に呼べないと、パスも出せないだろ?」


 今にも掴みかかられそうなところを両手を掲げた降参のポーズで抗弁すると、小山田と吉川は視線を交わし、渋々うなずいてみせる。仕方ねぇ、そう言っているような顔つきだ。


「……まあ、勝手にしろよ。ただ、これだけは全員に言っておくぞ? いいか、よく聞けよ?」


 小山田は、全員に、と口にしながらも、僕の顔を真っ正面から見据えて言い放つ。


「俺様は、てめえらを信用してねぇ。だから、点取ろうだとか余計なことは考えるなよ? 勝つために必要なゴールなら、俺様とカエルできっちり決めてきてやる。だから、守りに徹しろ」

「一点でも取られたら、どうなるかわかってるよねぇー? んー?」

「……いや――取られんのは仕方ねえ。シロート集団なんだからよ」


 言うが早いか、ねちっこく手近な生徒にからみはじめた吉川だったが、続く小山田のひとことで、んっ、と呻いたかと思うと慌てて振り返り、愛想笑いをふりまきながらこう言った。


「い、いやいやいや! 取られてもいいとか――!?」

「それ以上、俺様たちが点取りゃあいい。それだけのカンタンなハナシだ。違うか、カエル?」

「ま、まあ、そうだけどねぇ……」

「おい、ナプキン王子?」


 僕? と思わず自分を指さして聞き返してしまった。
 すると、小山田は横柄にうなずく。


「守りは任せろ、だの、ずいぶんと大層な口利いてたよな? ならよ、てめぇがをやれ」

「い、いやいやいや……。あ、あの……僕も一応、シロートの部類に入ると思うんだけど……」

「……この前体育の授業中に、たっぷり見させてもらった。こんなかで一番マシなのは……てめぇだった」


 意外だった。

 他人にはまったく興味がない、俺様野郎だと思っていたのに。でも、一番意外だと思っているのは、案外小山田自身なのかもしれない。どうにもぎこちない口調だった。


「信用したわけじゃねえからな、勘違いするなよ? 吐いたツバはてめぇで呑め、ってことだ」

「はぁ……ま、二人は前で忙しいわけだし、後ろの面倒までは見れないよね……引き受けたよ」


 やれやれ、と首を振りながらこたえると、なんとなく周囲の空気が安堵感に包まれた。さすがに強制的にサッカーをやらされた上に、試合中ずっと罵声を浴びせられるのは嫌なのだろう。


「よし。なら、全員手を出せ……目指せ、優勝だ! ファイッ――!」


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