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第234話 『西中まつり』アフター(3) at 1995/9/15
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「やったね、ケンタ君! ダントツ一位だって! 凄い、凄いよ! やっぱりケンタ君だね!」
「い、いや、僕じゃないよ。みんなのおかげだって」
もう陽は山の向こうへと沈み、僕らのいる校庭には闇が忍び込んでいた。
その中央に格子状に組まれた丸太についに火がともされ、僕らの笑顔を明々と照らし出す。それを陰キャの定位置である校庭の端っこから眺めつつ、渋田は隣にいる僕に尋ねてきた。
「でもさ? あれで良かったの、モリケン?」
「ん? ……ああ、室生たち男子テニス部の一勝、って結果のこと? まあ……仕方ないよね」
結局、お客さんたちの不評を買いまくった小山田たちサッカー部は、勝利の座を辞退せざるを得なかった。もしも吉川をはじめとするサッカー部の荒っぽい部員たちが小山田と一緒に来ていたら、事情は少し違っていたかもしれない。が、小山田は不義理なことができない性格だ。
『くそっ!! そんな醜態さらして、一位です、なんて言えるわけねえだろうが! くそっ!』
『けど……僕ら「電算論理研究部」の集客数は、三位どまりだったんだよね?』
全部活中三位、というだけで、僕らはとんでもなく驚いていたのだ。
ただ、サッカー部・八〇人に対し、電算論理研究部・四十八人――数にかなり開きがあった。
『なら、僕らも一位を名乗るわけにはいかないよ。満足度一位だってびっくりしたくらいだし』
『ふーん……そっか』
室生はちょっぴり残念そうな顔でうなずいた。それからもう一度手元の紙をじっくりと読みこむと、真っ白な歯をみせて僕らに爽やかなとびきりの笑顔をみせてこう言ったのだ。
『なら、ちょうどいい。集客数、満足度ともに二位の部活があるんだけど……聞きたいかい?』
その後の、僕らの浮かべた表情ときたら。
仲間――ロコの処遇がかかってるわけで、やっぱり不謹慎なんだろうけれど……笑える。
「あ、あれって、もしかして室生クンの計算だったんですかね……」
「いやいやいや、佐倉君! ムロはそんなつまんない小細工はしない男だよ。なあ、ロコ?」
「え――あ……うん」
昔のよしみで、佐倉君の隣に立っていたロコにハナシを振るが、どこか上の空な様子だった。
「うん。そう。……あいつは、いつだって公平で、絶対ズルなんてしない。相手が誰でも、ね」
「――? まあ、そういうことだ。それにしても――」
僕は遠くの方に見えるキャンプファイヤーのあかりを見つめて自嘲気味な笑みを浮かべた。
「後夜祭、ってさ、意外と参加者が多いんだなぁ。あの頃の僕は、全然気づかなかった……」
「幽霊部員の帰宅組だったし、キョーミない、ってすぐ帰っちゃってたじゃん、ケンタって」
「ま、まあ確かにおっしゃるとおりなんだけどね」
見事に一本とられた僕は言い返す言葉もなく頭をぽりぽりと掻くよりない。
――と。
一歩前に踏み出したロコが、そっぽを向きながら左手をぷらぷらさせて僕に差し出してきた。
「ほら、手」
「手? ……これはなんの合図だ? おい、もしかして怪我でもしたのか?」
「ち、違うっつーの! ほら、ほら! あ、あたしの手、さっさと握れって言ってんのっ!!」
「な、なんでだよ……。僕、柔道とか相撲とか、そういう荒っぽいの苦手って知ってるじゃん」
「ちーがーうー! フォ………………フォークダンスに、決まってる……じゃんか」
「は――はぁあああああ!?」
よく考えてもみれば、キャンプファイヤー――というか、巨大な焚火を囲んで楽しくおしゃべりして終わり、なのだったら、わざわざ『後夜祭』だなんて大仰な名前で呼ぶはずもない。むしろ、思春期真っ盛りの中学二年生の男女にとっては、こっちの方がメインイベントなのだ。
「で、でも、だな――?」
瞬時に察した僕は振り返って純美子を見たが――むしろ楽しそうにうなずいている。
「ほら! スミからも許可もらったからさ! ど真ん中まで行って踊っちゃおうよ、ケンタ!」
「い、いや、僕じゃないよ。みんなのおかげだって」
もう陽は山の向こうへと沈み、僕らのいる校庭には闇が忍び込んでいた。
その中央に格子状に組まれた丸太についに火がともされ、僕らの笑顔を明々と照らし出す。それを陰キャの定位置である校庭の端っこから眺めつつ、渋田は隣にいる僕に尋ねてきた。
「でもさ? あれで良かったの、モリケン?」
「ん? ……ああ、室生たち男子テニス部の一勝、って結果のこと? まあ……仕方ないよね」
結局、お客さんたちの不評を買いまくった小山田たちサッカー部は、勝利の座を辞退せざるを得なかった。もしも吉川をはじめとするサッカー部の荒っぽい部員たちが小山田と一緒に来ていたら、事情は少し違っていたかもしれない。が、小山田は不義理なことができない性格だ。
『くそっ!! そんな醜態さらして、一位です、なんて言えるわけねえだろうが! くそっ!』
『けど……僕ら「電算論理研究部」の集客数は、三位どまりだったんだよね?』
全部活中三位、というだけで、僕らはとんでもなく驚いていたのだ。
ただ、サッカー部・八〇人に対し、電算論理研究部・四十八人――数にかなり開きがあった。
『なら、僕らも一位を名乗るわけにはいかないよ。満足度一位だってびっくりしたくらいだし』
『ふーん……そっか』
室生はちょっぴり残念そうな顔でうなずいた。それからもう一度手元の紙をじっくりと読みこむと、真っ白な歯をみせて僕らに爽やかなとびきりの笑顔をみせてこう言ったのだ。
『なら、ちょうどいい。集客数、満足度ともに二位の部活があるんだけど……聞きたいかい?』
その後の、僕らの浮かべた表情ときたら。
仲間――ロコの処遇がかかってるわけで、やっぱり不謹慎なんだろうけれど……笑える。
「あ、あれって、もしかして室生クンの計算だったんですかね……」
「いやいやいや、佐倉君! ムロはそんなつまんない小細工はしない男だよ。なあ、ロコ?」
「え――あ……うん」
昔のよしみで、佐倉君の隣に立っていたロコにハナシを振るが、どこか上の空な様子だった。
「うん。そう。……あいつは、いつだって公平で、絶対ズルなんてしない。相手が誰でも、ね」
「――? まあ、そういうことだ。それにしても――」
僕は遠くの方に見えるキャンプファイヤーのあかりを見つめて自嘲気味な笑みを浮かべた。
「後夜祭、ってさ、意外と参加者が多いんだなぁ。あの頃の僕は、全然気づかなかった……」
「幽霊部員の帰宅組だったし、キョーミない、ってすぐ帰っちゃってたじゃん、ケンタって」
「ま、まあ確かにおっしゃるとおりなんだけどね」
見事に一本とられた僕は言い返す言葉もなく頭をぽりぽりと掻くよりない。
――と。
一歩前に踏み出したロコが、そっぽを向きながら左手をぷらぷらさせて僕に差し出してきた。
「ほら、手」
「手? ……これはなんの合図だ? おい、もしかして怪我でもしたのか?」
「ち、違うっつーの! ほら、ほら! あ、あたしの手、さっさと握れって言ってんのっ!!」
「な、なんでだよ……。僕、柔道とか相撲とか、そういう荒っぽいの苦手って知ってるじゃん」
「ちーがーうー! フォ………………フォークダンスに、決まってる……じゃんか」
「は――はぁあああああ!?」
よく考えてもみれば、キャンプファイヤー――というか、巨大な焚火を囲んで楽しくおしゃべりして終わり、なのだったら、わざわざ『後夜祭』だなんて大仰な名前で呼ぶはずもない。むしろ、思春期真っ盛りの中学二年生の男女にとっては、こっちの方がメインイベントなのだ。
「で、でも、だな――?」
瞬時に察した僕は振り返って純美子を見たが――むしろ楽しそうにうなずいている。
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