上 下
233 / 539

第232話 『西中まつり』アフター(1) at 1995/9/15

しおりを挟む
 きーんこーんかーんこーん――。


 時刻は一五:三〇。
 ついに『西中まつり』の終わりを告げるチャイムが校内中に響き渡った。


「みなさま、本日のご来場、まことにありがとうございましたー!」


 あちこちのスピーカーから流れる下校案内の曲は、ドボルザーク作曲、『新世界から』より『遠き山に日は落ちて』だ。次第に音量を増していくメロディに負けじと、僕ら『電算論理研究部』の全部員は、家路に着くお客さんたちに大きな声で感謝の言葉を述べ、頭を下げる。


「ははは! お客様のお見送りとは、実に感心感心! あたしたちも思いがけず楽しめたぞ!」

「あ! せりさん! しのぶさん! 今日は……本当にありがとうございました!」

「いやあ、大したことしてないッスよ、僕たちは。あは、あははは……」


 佐倉家の『やればできる子』長女せりさんと『とてもじゃないけどできそうにない子』次女しのぶさんの後ろには……どよん、とした負のオーラを背負ったボーイッシュな美少女の姿が。


「もーぅ! ひっどいですひどいですぅー、古ノ森リーダー!」


 あ、やっぱ怒ってる……よねー?

 そう、見た目は美少女、ココロは漢。遺伝子的にも立派な男の子! の佐倉かえで君だ。いつぞやの時と同じ、改造済みのハレンチ軍服みたいなアイドル衣装は『葉桜ふぅ』仕様である。


「た、たしかにぃ!? 何でもやる覚悟があります! って言いましたよ? でもでもぉ!?」

「かえでちゃん――いや、ふぅちゃん! すっごく良かったよ! ……って、ぐぶほぉっ!?」

「良かったよ(サムズアップ)じゃないでしょ、ド馬鹿。はいはい、こっちで座ってようねー」


 ぐったりした襟首をつままれ、ずるずる……と引きずられていく渋田。なんという握力か。しかしというか、おかげでというか、佐倉君も怒るタイミングを逸してしまったらしい。


「ま、まあ、お役に立てたのであれば……いいんですけど……ぶつぶつ……」

「とっても助かったよ、佐倉君! あれがなければ、あんなにお客さんを集めることなんてできなかったからね! マニアの間では、前のゲリラライブの件がウワサになってるらしいから」


 そう言って佐倉君の肩に腕を回して、労うように、ぽんぽん、と叩く僕。けれど、佐倉君はまだ『葉桜ふぅ』のアイドル衣装のままなわけで。いい匂いはもちろんのこと、間近で見る完成されたメイクと膨らんだ胸に思わず目がいき、どきどきして思わず顔が赤くなってしまう。


「は……はずかしいですよぅ……」

「……ケーンーターくーんー!?」

「……はっ!? 僕は一体何を!」


 ずびしっ! ずびしっ! と脇腹めがけて幾度も繰り出される純美子の細くて白い、鋭くとがった突きに呻きをあげながら僕は逃げ回る。とてもついさっきまで王女だったとは思えない。


「仲間というのは良いものですね」

「うん。た、楽しかった……ね?」


 逃亡中に、ちら、と視線を向ければ、五十嵐君と水無月さんが笑顔でうなずきあっていた。彼らのその表情を見れただけでも、充分やった甲斐があった、と僕は満足できただろう。

 そこで、


「はいはい! まだ『西中まつり』は終わってないよー? 浮かれてないで、さあ、さあ!」


 柏手を打つように手を叩いて注意を集めたロコは、困ったように笑いながらそう言った。僕は足を止め――背中に純美子がぶつかった――げんなりした声を出す。


「ええー……。い、いや、わかってるよ。片づけが残ってる、っていうんだろ? それは――」

「違うってば」


 だが、ロコは呆れた顔付きであっさりと首を振った。


「後夜祭、って知らないの!? 片づけした後は、キャンプファイヤーで盛り上がるんじゃない。これだから陰キャは、もー!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...