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第228話 『西中まつり』(15) at 1995/9/15
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「くそっ! 一体どうなってやがるんだよ!? おい、そこの一年! なんで客が来ねえ!?」
「いっ! そ、そんなこと言われても……!」
突如閑散としはじめた校庭で、サッカー部のキャプテン、小山田は腹立ち紛れに吐き捨てた。
「俺はおめぇらに命令しておいたよな!? 後輩とか友だちとか、ヒマそうな奴はありったけ呼んで来い、って! なんで誰も来てねえんだよ!? おかしいじゃねえか! あぁん!?」
「よ、呼びました! 呼びました……けど……」
不幸にも小山田の怒りの標的にされてしまったその一年生は、助けを求めるように周りをきょろきょろと慌ただしく見回してから、怒りで顔を真っ赤に染めた小山田にこうこたえる。
「てか、なんかおかしくないッスか? ウチだけじゃなく、校庭で出し物やってるとこ、全部客がいなくなってますよ!? ほ、ほら! 見てください――って!!」
「………………何?」
小山田は胸倉を掴み引き寄せたその手をわずかにゆるめると、ナイフのように鋭くとがった眼でゆっくりと校庭の端から端までを観察する――確かにこいつの言うとおりかもしれない。
だが。
一箇所だけ異常なほどにぎわっている場所が目に入った。
幾重にも人の輪ができている。
(あ、あそこは――くそっ、あの野郎、何か仕掛けやがったな!?)
「おい! 俺はちょっと出かけてくる! その間に、あと五〇人集めておけよ! いいな!?」
そんな無茶な――消え入りそうな泣き言を背に、小山田は目指す場所へと怒りを連れて歩いていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふぅちゃーん! 写真一枚、お願いしまーす! こっちー! こっち目線くださーい!」
「でゅふでゅふ。まさか、こんなところでまた葉桜氏に会えるとは思わなかったですぞ……」
「なんか、キモいカメコのファンまで来てるじゃん……。っていうことは、マジのアイドル?」
「お、俺、さっき、目、合っちゃったよ! マジかわいい!」
ようやくたどり着いたそこは、昇降口脇に集まった人々の興奮と熱気でむせ返るようだった。生徒たちだけではない。誰かの父母か、ただの通りすがりか。小山田は苦々しげに舌打ちする。
「ち――っ」
テレビや雑誌に出ているアイドルはあまり好きではない。特にあの布面積の少ない衣装を見ると妙にイラつくし、ココロがざわざわしてたまらない。笑顔も嘘っぽいし、歌も下手糞だ。
どうにかかきわけて中にいる連中を追っ払おうとするも、輪の中に入り込むことすらできない。手近な奴から一発二発殴りつけてやろうかと、凶暴な感情の首輪に手をかけた矢先――。
「あれー、ダッチじゃん? こんなとこで何してんのー? もしかして……サボりって奴ー?」
「モ――モモか。ちげーよ、サボってるわけじゃねー。あと、ちげーからな? 俺ぁ、アイドルなんざ興味ねーし」
正直に言って、小山田徹はこの目の前にいる桃月天音という少女がニガテだった。
同い年のくせに、妙にオトナびて見えるかと思ったら、急に子どもっぽく見えたりもする。
こっちが考えていることは全部お見通しのようにも見えるし、まるで気づかない風でもある。
そして、なにより。
「なーにー? アイドルに興味なかったら、なんでここにいるのー? ねー? ねー?」
「なんでも……ねえって……! お、おい……勝手に腕……組むな……!」
「いいじゃん。けちー!」
いつも距離感が近い。
近すぎるのだ。
ついでに言えば、今自分の腕に当たっている桃月の胸も、大きすぎる気がする――少しだけ。
「俺は忙しーんだって……。つーか、モモこそアイドル目当てじゃなかったら、何してんだよ?」
「……ねー、ダッチ? ヒマなんだったら、あたしと一緒に、相性診断付き合ってくんない?」
「いっ! そ、そんなこと言われても……!」
突如閑散としはじめた校庭で、サッカー部のキャプテン、小山田は腹立ち紛れに吐き捨てた。
「俺はおめぇらに命令しておいたよな!? 後輩とか友だちとか、ヒマそうな奴はありったけ呼んで来い、って! なんで誰も来てねえんだよ!? おかしいじゃねえか! あぁん!?」
「よ、呼びました! 呼びました……けど……」
不幸にも小山田の怒りの標的にされてしまったその一年生は、助けを求めるように周りをきょろきょろと慌ただしく見回してから、怒りで顔を真っ赤に染めた小山田にこうこたえる。
「てか、なんかおかしくないッスか? ウチだけじゃなく、校庭で出し物やってるとこ、全部客がいなくなってますよ!? ほ、ほら! 見てください――って!!」
「………………何?」
小山田は胸倉を掴み引き寄せたその手をわずかにゆるめると、ナイフのように鋭くとがった眼でゆっくりと校庭の端から端までを観察する――確かにこいつの言うとおりかもしれない。
だが。
一箇所だけ異常なほどにぎわっている場所が目に入った。
幾重にも人の輪ができている。
(あ、あそこは――くそっ、あの野郎、何か仕掛けやがったな!?)
「おい! 俺はちょっと出かけてくる! その間に、あと五〇人集めておけよ! いいな!?」
そんな無茶な――消え入りそうな泣き言を背に、小山田は目指す場所へと怒りを連れて歩いていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふぅちゃーん! 写真一枚、お願いしまーす! こっちー! こっち目線くださーい!」
「でゅふでゅふ。まさか、こんなところでまた葉桜氏に会えるとは思わなかったですぞ……」
「なんか、キモいカメコのファンまで来てるじゃん……。っていうことは、マジのアイドル?」
「お、俺、さっき、目、合っちゃったよ! マジかわいい!」
ようやくたどり着いたそこは、昇降口脇に集まった人々の興奮と熱気でむせ返るようだった。生徒たちだけではない。誰かの父母か、ただの通りすがりか。小山田は苦々しげに舌打ちする。
「ち――っ」
テレビや雑誌に出ているアイドルはあまり好きではない。特にあの布面積の少ない衣装を見ると妙にイラつくし、ココロがざわざわしてたまらない。笑顔も嘘っぽいし、歌も下手糞だ。
どうにかかきわけて中にいる連中を追っ払おうとするも、輪の中に入り込むことすらできない。手近な奴から一発二発殴りつけてやろうかと、凶暴な感情の首輪に手をかけた矢先――。
「あれー、ダッチじゃん? こんなとこで何してんのー? もしかして……サボりって奴ー?」
「モ――モモか。ちげーよ、サボってるわけじゃねー。あと、ちげーからな? 俺ぁ、アイドルなんざ興味ねーし」
正直に言って、小山田徹はこの目の前にいる桃月天音という少女がニガテだった。
同い年のくせに、妙にオトナびて見えるかと思ったら、急に子どもっぽく見えたりもする。
こっちが考えていることは全部お見通しのようにも見えるし、まるで気づかない風でもある。
そして、なにより。
「なーにー? アイドルに興味なかったら、なんでここにいるのー? ねー? ねー?」
「なんでも……ねえって……! お、おい……勝手に腕……組むな……!」
「いいじゃん。けちー!」
いつも距離感が近い。
近すぎるのだ。
ついでに言えば、今自分の腕に当たっている桃月の胸も、大きすぎる気がする――少しだけ。
「俺は忙しーんだって……。つーか、モモこそアイドル目当てじゃなかったら、何してんだよ?」
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