228 / 539
第227話 『西中まつり』(14) at 1995/9/15
しおりを挟む
それまで校内にゆるやかに流れていた環境音楽風BGMが、ぴたり、と止まった。そして、落ち着いたトーンの上品な女性の声で、全校生徒向けのアナウンスが流れはじめた。
『――まもなく……視聴覚室そばの昇降口付近において……ミラクル☆キュートでボーイッシュ! 新人アイドル、葉桜ふぅの……デビュー直前……スペシャルライブがはじまります――』
澄んだ声が校内の隅々まで沁みわたると、どこからか生徒のいぶかしむような声が聴こえる。
「……えっ? 確か『西中まつり』の時って、放送部も休み……だったよな? 今の何だ?」
「それに、今の声って、放送部の連中の声じゃなかったな……? センセイ……とかかな?」
確かにさっきのは、今まで聞いたことのない、テレビのアナウンサーみたいな声だったのだ。
また別の場所では、少し興奮気味に話す女子生徒たちがいた。
「アイドル、って言ってたよね? それも、デビュー前ライブやるんだって! マジぃ!?」
「つか、ウチの中学校、アイドルとか呼べるほどお金ないんじゃないの? そもそも公立だし」
「行ってみようよ! もしホントだったら、すっごいラッキーじゃない? 視聴覚室、だっけ」
謎のアナウンスは三回繰り返し同じ内容を伝えたあと、環境音楽風BGMに戻ってしまった。だが、来訪客や生徒たちは、少しずつ視聴覚室のある方へと移動を開始しはじめるのだった。
ところかわって――。
男子テニス部の舞台『男だらけのロミオとジュリエット』は女子生徒たちに好評だ。なにしろ部員は二枚目揃いであり、なのに女装したり化粧したりしたあげく、ラブ・シーンまで演じるところがたまらない。
しかし、体育館でやるものと思いきや、普通の教室で行われていた。なんでも、少しでも多くの女の子に楽しんで欲しいからだという。次の公演で本日四回目だ。
「のりぴょん、もう何回目見るつもりよー? さっきもいたじゃーん」
「だってぇ、ロミオ役のムロ君、やっぱカッコよくない? それに、ジュリエット役の……」
「あー。一年の子でしょー? あの子マジで女の子みたいだよね。でも、男同士でとかさー」
「そこがいいんじゃないの!! れいちゃんはわかってない! モテる女はこれだから……!」
まだぶつぶつと愚痴をこぼす『のりぴょん』に、クラスの人気者『れいちゃん』は告げる。
「じゃあ……のりぴょんも実際に彼氏作ればいいんだよ。ほら、『電算論理研究部』のアレ、超オススメ! のりぴょんと相性バッチリな男子が、あっという間に見つかっちゃうんだって」
「えー。フツーの占い、なんでしょ? 当たるとは限んないじゃん」
「いやいや、マジな奴なんだってば! 結果を信じて告った子が、見事に成功したらしいよ?」
「人のハナシより、れいちゃんはどうだったのよ? さっき受けてきた、って言ってたじゃん」
「………………えと、うん(照)」
「よ……よぉおおおしっ! あたしも行ってくるっ!!」
そして、肝心の視聴覚室では――。
「ただいまっ! ハカセ、どこを手伝えばいいんだ!? もうだいぶ並びはじめちゃってる!」
「大部分は終わりましたよ。あとは、河東さんさえ準備できたら、僕ひとりで操作ができます」
「さすが、ハカセだ! スミちゃん、戻ってきてすぐで悪いんだけれど、スタンバイお願い!」
「う、うん!」
そこで純美子は体操着の上に羽織っていた緑のジャージを脱いだ。
が、少し不安そうな面持ちで、差し出した手でジャージを受け取るケンタを見つめて尋ねる。
「でも、ケンタ君……? 放送室に忍び込んで、あんな勝手なアナウンスしちゃって大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫! 誰もさっきの声がスミちゃんだ、なんて気づかないって。それにさ――」
「ん? それに?」
「い、いや! な、なんでもない、なんでもない……」
(さっき放送室で会った三年の部長が、隠れ純美子ファンだった、ってのは黙っておくか……)
おまけに、隣にいた冴えない底辺陰キャの僕が、なんと彼氏でした! なんて知られたら、それこそマズい。嫉妬のあまり、洗いざらい暴露されてしまうかもしれない。急がねば!
「あと……さっきね? なんだかかえでちゃんが、物凄く複雑そうな顔してたんだけど……」
「あー。………………あとで土下座して謝っておかないと」
『――まもなく……視聴覚室そばの昇降口付近において……ミラクル☆キュートでボーイッシュ! 新人アイドル、葉桜ふぅの……デビュー直前……スペシャルライブがはじまります――』
澄んだ声が校内の隅々まで沁みわたると、どこからか生徒のいぶかしむような声が聴こえる。
「……えっ? 確か『西中まつり』の時って、放送部も休み……だったよな? 今の何だ?」
「それに、今の声って、放送部の連中の声じゃなかったな……? センセイ……とかかな?」
確かにさっきのは、今まで聞いたことのない、テレビのアナウンサーみたいな声だったのだ。
また別の場所では、少し興奮気味に話す女子生徒たちがいた。
「アイドル、って言ってたよね? それも、デビュー前ライブやるんだって! マジぃ!?」
「つか、ウチの中学校、アイドルとか呼べるほどお金ないんじゃないの? そもそも公立だし」
「行ってみようよ! もしホントだったら、すっごいラッキーじゃない? 視聴覚室、だっけ」
謎のアナウンスは三回繰り返し同じ内容を伝えたあと、環境音楽風BGMに戻ってしまった。だが、来訪客や生徒たちは、少しずつ視聴覚室のある方へと移動を開始しはじめるのだった。
ところかわって――。
男子テニス部の舞台『男だらけのロミオとジュリエット』は女子生徒たちに好評だ。なにしろ部員は二枚目揃いであり、なのに女装したり化粧したりしたあげく、ラブ・シーンまで演じるところがたまらない。
しかし、体育館でやるものと思いきや、普通の教室で行われていた。なんでも、少しでも多くの女の子に楽しんで欲しいからだという。次の公演で本日四回目だ。
「のりぴょん、もう何回目見るつもりよー? さっきもいたじゃーん」
「だってぇ、ロミオ役のムロ君、やっぱカッコよくない? それに、ジュリエット役の……」
「あー。一年の子でしょー? あの子マジで女の子みたいだよね。でも、男同士でとかさー」
「そこがいいんじゃないの!! れいちゃんはわかってない! モテる女はこれだから……!」
まだぶつぶつと愚痴をこぼす『のりぴょん』に、クラスの人気者『れいちゃん』は告げる。
「じゃあ……のりぴょんも実際に彼氏作ればいいんだよ。ほら、『電算論理研究部』のアレ、超オススメ! のりぴょんと相性バッチリな男子が、あっという間に見つかっちゃうんだって」
「えー。フツーの占い、なんでしょ? 当たるとは限んないじゃん」
「いやいや、マジな奴なんだってば! 結果を信じて告った子が、見事に成功したらしいよ?」
「人のハナシより、れいちゃんはどうだったのよ? さっき受けてきた、って言ってたじゃん」
「………………えと、うん(照)」
「よ……よぉおおおしっ! あたしも行ってくるっ!!」
そして、肝心の視聴覚室では――。
「ただいまっ! ハカセ、どこを手伝えばいいんだ!? もうだいぶ並びはじめちゃってる!」
「大部分は終わりましたよ。あとは、河東さんさえ準備できたら、僕ひとりで操作ができます」
「さすが、ハカセだ! スミちゃん、戻ってきてすぐで悪いんだけれど、スタンバイお願い!」
「う、うん!」
そこで純美子は体操着の上に羽織っていた緑のジャージを脱いだ。
が、少し不安そうな面持ちで、差し出した手でジャージを受け取るケンタを見つめて尋ねる。
「でも、ケンタ君……? 放送室に忍び込んで、あんな勝手なアナウンスしちゃって大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫! 誰もさっきの声がスミちゃんだ、なんて気づかないって。それにさ――」
「ん? それに?」
「い、いや! な、なんでもない、なんでもない……」
(さっき放送室で会った三年の部長が、隠れ純美子ファンだった、ってのは黙っておくか……)
おまけに、隣にいた冴えない底辺陰キャの僕が、なんと彼氏でした! なんて知られたら、それこそマズい。嫉妬のあまり、洗いざらい暴露されてしまうかもしれない。急がねば!
「あと……さっきね? なんだかかえでちゃんが、物凄く複雑そうな顔してたんだけど……」
「あー。………………あとで土下座して謝っておかないと」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件
木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか?
■場所 関西のとある地方都市
■登場人物
●御堂雅樹
本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。
●御堂樹里
本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。
●田中真理
雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる