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第219話 『西中まつり』(6) at 1995/9/15
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「ほら! みんな! 吹奏楽部、演奏終わったよ!? 次だよ、次! ぐずぐずしてない!」
「「「はい!」」」
美術の授業中は落ち着いた少し低めのトーンで優しく語りかける山崎曜センセイも、顧問をつとめる体操部の、しかも舞台本番直前ともなると、般若か鬼女かと見間違うほどの怖ろしげな形相をみせるのだ。しかし、それにはもう慣れている体操部員たちは口を揃えてうなずいた。
「あ――広子! 広子、いる!?」
「はい! 上ノ原、います!」
「……ちょっと! 天音? 天音もこっちにきて!」
慌ただしい体育館の舞台袖で名を呼ばれた、レオタード姿のロコが駆け寄り、同じく桃月が一瞬ためらうような仕草をみせてその隣に立つ。その二人に向けて山崎センセイはこう告げた。
「ギリギリで申し訳ないけど……センターは広子に戻すからね。いい、広子? いい、天音?」
ロコはためらうことなくうなずいたが、
「ど! どうしてですか!? あたしがセンターに立つ、って決めたはずじゃないですか!?」
一方の桃月は、ぎり、と歯噛みをして、客席にも届きそうな声量で叫びをあげる。
「確かにそう言ったわ。でもね? 貴女の背では、全体が縮こまってみえてしまうの。だから、背の高い広子をセンターに戻す。上手い下手のハナシじゃない。舞台全体の調和を考えて、よ」
「だからって! あたし、納得できません!」
「納得してちょうだい。ダンスは貴女一人でするものじゃないの。全員のバランスで決まるの」
「で、でも! だってロコは――!」
そこでロコもはじめて引き結んでいた口をそっと開いた。
「あたしは……練習を休んでいました。センターの演技なら、モモの方が上です。だから――」
「確かに休んでいたかもしれないけれど、リハーサルの動きを見て私が問題ないと判断したの」
「……はい」
言いかけたセリフを遮られ、有無を言わさぬ毅然とした態度で告げられたら、ロコには返す言葉がない。表情にこそ出しはしないが、渋々うなずいた。だが、桃月はそうではなかった。
「あたしは……あたしは嫌です! 絶っ対に嫌! こんなのおかしいです! こんなのって!」
「……貴女には悪いと思っている。でも、私の指導に不満があるのなら舞台に出なくてもいい」
「……っ!!」
頑として譲る気配のない山崎センセイの厳しい一言に、思わず桃月の目に涙が浮かぶ。しかし、今にも飛び出しそうな言葉を、がり、とかみしめてうなずくしか桃月にはなかった。
「……わかりました」
「さあ! みんな準備して! センターは天音から広子に交代してもらったから、注意して!」
「「「はい!」」」
憎しみのこめられた刺すような桃月の視線と、とまどい、疑惑と不信感を隠そうともせずあらわにした他の体操部員たちの視線に囲まれながら、それでもただ前を向き、自分たちがこれから立つ舞台だけを、じっ、と静かに、一人きりになってしまったロコは見つめていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
物語の舞台を、ケンタたち『電算論理研究部』のいる視聴覚室に戻そう。
「な、なんだよ! 急に忙しくなってきちゃったじゃん! どーゆーことなの、モリケン!?」
「ええと……。たぶん、親切などこかの誰かが、代わりに宣伝してくれてるんじゃないかな?」
「にしたって! そろそろ交代して休まないと持たないよ!?」
確かに。
ただでさえ部員数の少ない『電算論理研究部』のメンバーはフル回転だ。そこで僕は壁にかけられた時計を見て、にやり、と口元に笑みを浮かべて言う。
「さーて……向こうはそろそろ終わった頃だよな。……みんな! もうじき、我らがヒーローが現れるはずだから、それまでもうひと踏ん張りだ! 『電算論理研究部』、ファイトぉー!」
「「「はい!」」」
美術の授業中は落ち着いた少し低めのトーンで優しく語りかける山崎曜センセイも、顧問をつとめる体操部の、しかも舞台本番直前ともなると、般若か鬼女かと見間違うほどの怖ろしげな形相をみせるのだ。しかし、それにはもう慣れている体操部員たちは口を揃えてうなずいた。
「あ――広子! 広子、いる!?」
「はい! 上ノ原、います!」
「……ちょっと! 天音? 天音もこっちにきて!」
慌ただしい体育館の舞台袖で名を呼ばれた、レオタード姿のロコが駆け寄り、同じく桃月が一瞬ためらうような仕草をみせてその隣に立つ。その二人に向けて山崎センセイはこう告げた。
「ギリギリで申し訳ないけど……センターは広子に戻すからね。いい、広子? いい、天音?」
ロコはためらうことなくうなずいたが、
「ど! どうしてですか!? あたしがセンターに立つ、って決めたはずじゃないですか!?」
一方の桃月は、ぎり、と歯噛みをして、客席にも届きそうな声量で叫びをあげる。
「確かにそう言ったわ。でもね? 貴女の背では、全体が縮こまってみえてしまうの。だから、背の高い広子をセンターに戻す。上手い下手のハナシじゃない。舞台全体の調和を考えて、よ」
「だからって! あたし、納得できません!」
「納得してちょうだい。ダンスは貴女一人でするものじゃないの。全員のバランスで決まるの」
「で、でも! だってロコは――!」
そこでロコもはじめて引き結んでいた口をそっと開いた。
「あたしは……練習を休んでいました。センターの演技なら、モモの方が上です。だから――」
「確かに休んでいたかもしれないけれど、リハーサルの動きを見て私が問題ないと判断したの」
「……はい」
言いかけたセリフを遮られ、有無を言わさぬ毅然とした態度で告げられたら、ロコには返す言葉がない。表情にこそ出しはしないが、渋々うなずいた。だが、桃月はそうではなかった。
「あたしは……あたしは嫌です! 絶っ対に嫌! こんなのおかしいです! こんなのって!」
「……貴女には悪いと思っている。でも、私の指導に不満があるのなら舞台に出なくてもいい」
「……っ!!」
頑として譲る気配のない山崎センセイの厳しい一言に、思わず桃月の目に涙が浮かぶ。しかし、今にも飛び出しそうな言葉を、がり、とかみしめてうなずくしか桃月にはなかった。
「……わかりました」
「さあ! みんな準備して! センターは天音から広子に交代してもらったから、注意して!」
「「「はい!」」」
憎しみのこめられた刺すような桃月の視線と、とまどい、疑惑と不信感を隠そうともせずあらわにした他の体操部員たちの視線に囲まれながら、それでもただ前を向き、自分たちがこれから立つ舞台だけを、じっ、と静かに、一人きりになってしまったロコは見つめていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
物語の舞台を、ケンタたち『電算論理研究部』のいる視聴覚室に戻そう。
「な、なんだよ! 急に忙しくなってきちゃったじゃん! どーゆーことなの、モリケン!?」
「ええと……。たぶん、親切などこかの誰かが、代わりに宣伝してくれてるんじゃないかな?」
「にしたって! そろそろ交代して休まないと持たないよ!?」
確かに。
ただでさえ部員数の少ない『電算論理研究部』のメンバーはフル回転だ。そこで僕は壁にかけられた時計を見て、にやり、と口元に笑みを浮かべて言う。
「さーて……向こうはそろそろ終わった頃だよな。……みんな! もうじき、我らがヒーローが現れるはずだから、それまでもうひと踏ん張りだ! 『電算論理研究部』、ファイトぉー!」
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