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第215話 『西中まつり』(2) at 1995/9/15
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準備万端の視聴覚室の引き戸を閉め、さていつ来るものかと受付台で待ちわびていた僕らの前に、まるでタイミングを見計らったかのように、最初にやってきたお客さんとは。
「いやぁ、やっぱり一番乗りじゃないと他の先生たちに自慢できないですからねぇ。ははは!」
すでにフラグ立ってたからなぁ。
やっぱり荻島センセイだったか。
「これ、絶対職員室から一番近いからよね……。ま、最終リハーサルのつもりでやりますか!」
「こらこら、野方さん。本気でお願いしますよ? 私、こう見えて評価は厳しめですからねぇ」
「もち! 荻セン相手だからって、手抜きなんてしませんよーだ!」
べー、と舌を出してみせる。荻島センセイ相手に軽口を叩くだなんて、咲都子にしては珍しい。これも『西中まつり』という年に一度のお祭りの日だからかもしれないな。さて――。
「よし! みんな、準備はいいか? 記念すべき初のお客さんだぞ! ……うん、オッケー!」
ばたばたと騒がしかった室内の音が、ぴたり、と止んだ頃合いを見計らって僕は息を吸った。
そして――ここで僕のセリフから物語ははじまる。
「僕ら『電算論理研究部』の部屋へようこそ! こちらでは『電脳空間からの脱出』というオリジナルストーリーを体験いただけます。頭をフル回転させて、難問をクリアしてください!」
「ほう。面白そうですね!」
「では、まずは目を閉じてください。僕が手を引いて案内しますから、決して開けないように」
荻島センセイは怪訝そうに片眉を吊り上げたが言うとおり目を閉じる。その手を僕が握った。ゆっくりと手を引いて、部屋の中へと進んで行く。そして、そっと僕はその場を離れた。
しばしの沈黙。やがて――。
『私の声が聴こえますか……? 目を……開けてください。私の名前は、アセンブリ・クロージャ。エンディアン王国の王女です。ここは貴方たちの世界よりほんの少し未来の世界――』
「おっと……これは一体……?」
荻島センセイがそろりと目を開けると、見たこともない風景だった。少なくとも見慣れた学校のどの風景でもない。ほのかに暗く、閉鎖的で、軽いモーター音のような響きが聴こえる。
どこからか呼びかけてくる謎の声――アセンブリ王女は続けて厳かにこう告げた。
『――王国に未知なる危機が迫っています。どうか貴方のチカラを貸してくれますか? 今から貴方のもとに手助けとなる者たちを送ります。道案内は彼らがしてくれるでしょう……!』
「ほら! 早く早く!」
「はいはい、今参りますよっと」
そんな声が荻島センセイの目の前にある細い通路の奥から聴こえてきた。やがて現れたのは、近未来を思わせる不思議な光沢を放つ素材と先進的なデザインのスーツを着込んだ二人だ。
「あたしは、サトーコ。で、こっちがシブーチ。王女様の遣いの者よ。あんたが勇者様?」
「いまさら勇者かどうかなんて関係ないね! もうこの世界に呼んじまったんだからな!」
背の高い女のセリフを、ずんぐりとした不機嫌そうな男の声が遮った。
「おい、そこのあんた! あんたがどう言おうが王国を救ってもらわなきゃいけねえ。頼むよ」
(ははぁ。野方さんと渋田君のようだ。しかし、なかなかどうして、堂に入った演技ですねぇ)
「はいはい、承知しましたよ。……では、私は何をしたらいいのでしょうねぇ?」
「最初はこっちよ」
誘われるまま荻島センセイは入り組んだ迷路のような小道へと進んで行く。ほどなく、目の前には風化してバラバラになってしまった機械の部品のようなものがいくつか置かれていた。ひとつ手にして見る――ははぁ、わら半紙を濡らして揉み崩し粘土のように使ったんですねぇ。
「これを組み立てて欲しいの。コン……ピューター……? っていう未来を切り開くチカラになる物よ――」
「いやぁ、やっぱり一番乗りじゃないと他の先生たちに自慢できないですからねぇ。ははは!」
すでにフラグ立ってたからなぁ。
やっぱり荻島センセイだったか。
「これ、絶対職員室から一番近いからよね……。ま、最終リハーサルのつもりでやりますか!」
「こらこら、野方さん。本気でお願いしますよ? 私、こう見えて評価は厳しめですからねぇ」
「もち! 荻セン相手だからって、手抜きなんてしませんよーだ!」
べー、と舌を出してみせる。荻島センセイ相手に軽口を叩くだなんて、咲都子にしては珍しい。これも『西中まつり』という年に一度のお祭りの日だからかもしれないな。さて――。
「よし! みんな、準備はいいか? 記念すべき初のお客さんだぞ! ……うん、オッケー!」
ばたばたと騒がしかった室内の音が、ぴたり、と止んだ頃合いを見計らって僕は息を吸った。
そして――ここで僕のセリフから物語ははじまる。
「僕ら『電算論理研究部』の部屋へようこそ! こちらでは『電脳空間からの脱出』というオリジナルストーリーを体験いただけます。頭をフル回転させて、難問をクリアしてください!」
「ほう。面白そうですね!」
「では、まずは目を閉じてください。僕が手を引いて案内しますから、決して開けないように」
荻島センセイは怪訝そうに片眉を吊り上げたが言うとおり目を閉じる。その手を僕が握った。ゆっくりと手を引いて、部屋の中へと進んで行く。そして、そっと僕はその場を離れた。
しばしの沈黙。やがて――。
『私の声が聴こえますか……? 目を……開けてください。私の名前は、アセンブリ・クロージャ。エンディアン王国の王女です。ここは貴方たちの世界よりほんの少し未来の世界――』
「おっと……これは一体……?」
荻島センセイがそろりと目を開けると、見たこともない風景だった。少なくとも見慣れた学校のどの風景でもない。ほのかに暗く、閉鎖的で、軽いモーター音のような響きが聴こえる。
どこからか呼びかけてくる謎の声――アセンブリ王女は続けて厳かにこう告げた。
『――王国に未知なる危機が迫っています。どうか貴方のチカラを貸してくれますか? 今から貴方のもとに手助けとなる者たちを送ります。道案内は彼らがしてくれるでしょう……!』
「ほら! 早く早く!」
「はいはい、今参りますよっと」
そんな声が荻島センセイの目の前にある細い通路の奥から聴こえてきた。やがて現れたのは、近未来を思わせる不思議な光沢を放つ素材と先進的なデザインのスーツを着込んだ二人だ。
「あたしは、サトーコ。で、こっちがシブーチ。王女様の遣いの者よ。あんたが勇者様?」
「いまさら勇者かどうかなんて関係ないね! もうこの世界に呼んじまったんだからな!」
背の高い女のセリフを、ずんぐりとした不機嫌そうな男の声が遮った。
「おい、そこのあんた! あんたがどう言おうが王国を救ってもらわなきゃいけねえ。頼むよ」
(ははぁ。野方さんと渋田君のようだ。しかし、なかなかどうして、堂に入った演技ですねぇ)
「はいはい、承知しましたよ。……では、私は何をしたらいいのでしょうねぇ?」
「最初はこっちよ」
誘われるまま荻島センセイは入り組んだ迷路のような小道へと進んで行く。ほどなく、目の前には風化してバラバラになってしまった機械の部品のようなものがいくつか置かれていた。ひとつ手にして見る――ははぁ、わら半紙を濡らして揉み崩し粘土のように使ったんですねぇ。
「これを組み立てて欲しいの。コン……ピューター……? っていう未来を切り開くチカラになる物よ――」
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