上 下
213 / 539

第212話 ヒーロー≠ヒロイン at 1995/9/13

しおりを挟む
「ふーっ! これで、ひとまずは一通りのリハーサルができたぞー! みんな、お疲れ様!」


 ぱちぱちぱちぱち――みんなの拍手が一斉に鳴り響いた。

 ようやく自分たちの作ってきた物が、ひとつのカタチになったのだ。その自分たちですらおぼろげにしか見えていなかった輪郭が、ようやく鮮明なイメージとなって姿を現したのだ。


「いやー、それにしても、なんだか凄いね! こういうのなんていうの? アトラクション?」

「ええと……、とかって言うんじゃないの? でしょ、ケンタ?」

「えっ……? う、うん、そうかもな、ロコ。で……体験してみたカンジ、どうだった?」

 いよいよあさってに迫った『西中まつり』。当日は体操部としてステージに立つロコには、あえて役割分担をせず、できる範囲で許す時間だけ協力してもらうことになっている。なので、この出し物の体験役としてはうってつけだったのだ。


「超楽しかった! 勉強にもなったしー。でさー、まず最初のナレーションのとこだけど――」


 早速ロコから全体通しての感想と、それぞれ個々に向けてのアドバイスが述べられた。少し言葉足らずで何度もつっかえているものの、そこはさすがのロコだ。的確にポイントを押さえ、どうすれば良くなると思うかをロコなりの視点で伝えていた。みんなも真剣に耳を傾けている。


「――ってカンジ? 今のままでも、すっごい楽しいけど、さっきのとこ気をつけると、もっともっと良くなると思うんだ! いちお、これでも? ダンスとか舞台では先輩だかんね?」

「さすがロコちゃんだー! もうちょっと声を張って、か……。先生にも言われたなー……」

「ん? 荻セン、来てたの?」

「ちっ!? 違うよ? こっちのハ・ナ・シ」


 すっかり感心した様子の純美子は、危うくロコに養成所に通っていることを漏らしそうになり、失言をかき消すように慌てて両手を振った。まさかそんなことになっていようとは知る由もないロコがとても不思議そうな顔付きで、ん? と僕を見てきた。やめろ、こっち見んな。


 でも、やっぱりロコは凄い奴だ。
 全体のバランスや、調和といった大きなくくりの『まとまり』を把握する能力に長けている。


 思えば小さな頃からそうだった。その『全体像』が見えているロコだからこそ、個々人それぞれに今何が足りないかを感じ取ることができるのだ。はっきりと、これ! とは言えなくても、足りないところ、弱いところがロコには見えているのだ。



 だからだ。
 だからロコは――。



(ダメだな……。やっぱり僕は、いつも肝心なところで頼っちゃうんだよな、ロコに)



 だからロコは――いつも弱い奴の味方、ヒーローだったのだ。

 だからロコは――いつもか弱い女の子、ヒロインになれない。



「あん? ちょっと? さっきから何にやにやして見てんのよ、ケンタ!?」

「に、にやにやはしてないからな!? つーか、なんで僕のことに関しては……まあ、いっか」


 またそういうハナシをするとスミちゃんが――必殺の一撃が来るか? と、とっさに身構えた僕だったが、なぜかというか拍子抜けというか、純美子は楽しそうに笑っているだけだった。


「ん? どうしたのかな?」

「い、いや……また脇腹に、ぶすっ! って来るかと……。し、しないの?」

「んー? して欲しいのカナー!?」

「いっ! いやいやいや! で、でもさ――」


 どう答えたらいいのかわからなくなった僕がしどろもどろになって言うと、純美子は笑った。


「だってー。んだもーん。ねー?」

「ふえっ!? へ、変なこと言わないでよ、スミっ!」


 そして、なぜかたちまち真っ赤な顔になったロコに半ば強引に腕をからませられ、妙ににこにこしたままの純美子はいずこかへと連れ去られていったのだった。

 なんだったんだ一体……?


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「わたしの異世界転生先はここ?」と記憶喪失になったクラスの美少女がいってるんだが、いったいどうした!?

中靍 水雲
青春
「わたしを召喚したのはあなた?」って…雛祭さん!!どういうことだよ!? 「雛祭ちかな(ひなまつりちかな)」は、おれのクラスのまじめ女子。 対して、おれ「鯉幟大知(こいのぼりだいち)」はクラスのモブ。ラノベ好きなオタクだ。 おれと雛祭さんは、同じクラスでもからむことのない、別世界の住人だった。 あの日までは———。 それは、校舎裏で、掃除をしていた時だった。 雛祭さんが、突然現れ何かをいおうとした瞬間、足を滑らせ、転んでしまったのだ。 幸い無傷だったようだが、ようすがおかしい。 「雛祭さん、大丈夫?」 「———わたしの転生先、ここですか?」 雛祭さんのそばに、おれが昨日読んでいた異世界転生ラノベが落ちている。 これはいったいどういうことだ? 病院の検査の結果、雛祭さんは「一過性全健忘」ということらしい。 だがこれは、直前まで読んでいた本の影響がもろに出ているのか? 医者によると症状は、最低でも二十四時間以内に治るとのことなので、一安心。 と、思ったら。 数日経ってもちっとも治らないじゃない上に、自分を「異世界から転生きた人間」だと信じて疑わない。 どんどんおれに絡んでくるようになってきてるし。 いつになったら異世界転生記憶喪失は治るんだよ!? 表紙 ノーコピーライトガールさま

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

M性に目覚めた若かりしころの思い出

なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...