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第211話 けだるくアンニュイな放課後 at 1995/9/11
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だが――。
「あー……」
「うー……」
なんとか少しでも磯島センセイの出したノルマに近づけようと、水泳経験者の僕と渋田は、途中脱落していった仲間たち――その中には、五十嵐君や佐倉君も含まれていた――の分まで追加して距離を泳ぎ、タイムもできる限り縮める努力をした。その反動か、カラダは重く鈍い。
「ねー? 大丈夫なの、部長に副部長さん? 今日はもう帰って休んだ方がいいんじゃん?」
「そういう訳には……いかないよ、サトチン。ただでさえ……僕らには時間がないんだから」
しょせんは他人事、と冷ややかな眼差しで咲都子は言ったものの、内心はとても心配そうだ。
「ほ、ほら! あんたもそこで居眠りしてるくらいなら、とっとと家で寝ちゃいなってばっ!」
「サトチンが膝まくらしてくれるなら、僕、ぐっすり眠れると思うんだ……むにゃむにゃ……」
「す、するか馬鹿っ!! そぉういっ! ……あ、ありゃ?」
僕も似たようなものだが、よほど疲れたらしい渋田は、咲都子の烈火のごとき一撃をまともに喰らっても、うめきうずくまるどころか幸せそうな笑みを口元に湛えていた。これはマズい。
「やれやれ……これはどうしたもんかねぇ。なんとかなんないの、ハカセ?」
「と、言われましても……」
いきなり話を振られた五十嵐君が慌てている。それも、自分たちが泳げない分まで泳いだせいだ、とあっては済まなそうに縮こまるのが精一杯らしい。それは隣の佐倉君も同じだった。
「ぼ、僕らの分まで頑張ってくれたんですもんね……。こっちは僕らだけでなんとかしないと」
「まー、そうするしかなさそうだわ……。ねー、ハカセ? あとまだ残ってる作業ってなに?」
「もう、それほど多くはありませんよ。大部分は準備が完了しています。しかし、ですね……」
そこでハカセが取り出した工程表を三人で確認する。
やがて、溜息がハーモニーを奏でた。
「「「そこかぁ……」」」
咲都子、佐倉君、五十嵐君の順に、振り返って僕を見るが――ちょっと気まずいので、ここはひとまず気がついていないフリをしておくとしよう。いやいや、やめて……見ないで……!
「完了していないのは……シナリオ、ですか……」
「で、でもですよ? 完了した! って誰が判断するんでしょうね?」
「少なくとも、あたしとシブチンには早いところ見せてもらいたいじゃんねー。だって、みんなの前で決められたセリフを喋ることになるガイド役なんだし。あとは……もちろん――」
――と。
そこまで咲都子が愚痴めいたセリフをこぼした矢先だった。
『私の声が聴こえますか……? 私の名前は、アセンブリ・クロージャ。エンディアン王国の王女です。ここは貴方たちの世界よりほんの少し未来の世界……チカラを貸してくれますか?』
「え……どこから聴こえるの、この声?」
「き、聞いたことない声、ですけど……」
しかし、ただ一人、五十嵐君だけはつるりとした顎を撫でて、ふむ、とうなずいてみせた。
「音の出元は、技術工作部からお借りしたスピーカーからです。こんなことができるのは……」
その鋭い視線を察知したのか、それまで一切会話に加わっていなかった水無月さんが、びくり、と肩を震わせた。恐る恐る振り返るその気弱そうな顔には、かすかな笑みが浮かんでいる。
「ゆ、弓之助君は騙せませんよね、やっぱり……。バ、バレちゃいましたよぅ、スミちゃん!」
「うまくいくと思ったんだけどねー。うーん、ハカセには気づかれちゃったかー」
ちょっぴり悔しそうに呟いて、ドアの向こうから姿を見せたのは――なんと純美子だった。
「い、いえ……! 音の出元は判別できましたが、まさか河東さんが喋っているなどとは……」
「ホント!? じゃあ、半分成功だね! ところで……みんながお探しの物は、これ、だよね?」
「あー……」
「うー……」
なんとか少しでも磯島センセイの出したノルマに近づけようと、水泳経験者の僕と渋田は、途中脱落していった仲間たち――その中には、五十嵐君や佐倉君も含まれていた――の分まで追加して距離を泳ぎ、タイムもできる限り縮める努力をした。その反動か、カラダは重く鈍い。
「ねー? 大丈夫なの、部長に副部長さん? 今日はもう帰って休んだ方がいいんじゃん?」
「そういう訳には……いかないよ、サトチン。ただでさえ……僕らには時間がないんだから」
しょせんは他人事、と冷ややかな眼差しで咲都子は言ったものの、内心はとても心配そうだ。
「ほ、ほら! あんたもそこで居眠りしてるくらいなら、とっとと家で寝ちゃいなってばっ!」
「サトチンが膝まくらしてくれるなら、僕、ぐっすり眠れると思うんだ……むにゃむにゃ……」
「す、するか馬鹿っ!! そぉういっ! ……あ、ありゃ?」
僕も似たようなものだが、よほど疲れたらしい渋田は、咲都子の烈火のごとき一撃をまともに喰らっても、うめきうずくまるどころか幸せそうな笑みを口元に湛えていた。これはマズい。
「やれやれ……これはどうしたもんかねぇ。なんとかなんないの、ハカセ?」
「と、言われましても……」
いきなり話を振られた五十嵐君が慌てている。それも、自分たちが泳げない分まで泳いだせいだ、とあっては済まなそうに縮こまるのが精一杯らしい。それは隣の佐倉君も同じだった。
「ぼ、僕らの分まで頑張ってくれたんですもんね……。こっちは僕らだけでなんとかしないと」
「まー、そうするしかなさそうだわ……。ねー、ハカセ? あとまだ残ってる作業ってなに?」
「もう、それほど多くはありませんよ。大部分は準備が完了しています。しかし、ですね……」
そこでハカセが取り出した工程表を三人で確認する。
やがて、溜息がハーモニーを奏でた。
「「「そこかぁ……」」」
咲都子、佐倉君、五十嵐君の順に、振り返って僕を見るが――ちょっと気まずいので、ここはひとまず気がついていないフリをしておくとしよう。いやいや、やめて……見ないで……!
「完了していないのは……シナリオ、ですか……」
「で、でもですよ? 完了した! って誰が判断するんでしょうね?」
「少なくとも、あたしとシブチンには早いところ見せてもらいたいじゃんねー。だって、みんなの前で決められたセリフを喋ることになるガイド役なんだし。あとは……もちろん――」
――と。
そこまで咲都子が愚痴めいたセリフをこぼした矢先だった。
『私の声が聴こえますか……? 私の名前は、アセンブリ・クロージャ。エンディアン王国の王女です。ここは貴方たちの世界よりほんの少し未来の世界……チカラを貸してくれますか?』
「え……どこから聴こえるの、この声?」
「き、聞いたことない声、ですけど……」
しかし、ただ一人、五十嵐君だけはつるりとした顎を撫でて、ふむ、とうなずいてみせた。
「音の出元は、技術工作部からお借りしたスピーカーからです。こんなことができるのは……」
その鋭い視線を察知したのか、それまで一切会話に加わっていなかった水無月さんが、びくり、と肩を震わせた。恐る恐る振り返るその気弱そうな顔には、かすかな笑みが浮かんでいる。
「ゆ、弓之助君は騙せませんよね、やっぱり……。バ、バレちゃいましたよぅ、スミちゃん!」
「うまくいくと思ったんだけどねー。うーん、ハカセには気づかれちゃったかー」
ちょっぴり悔しそうに呟いて、ドアの向こうから姿を見せたのは――なんと純美子だった。
「い、いえ……! 音の出元は判別できましたが、まさか河東さんが喋っているなどとは……」
「ホント!? じゃあ、半分成功だね! ところで……みんながお探しの物は、これ、だよね?」
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