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第206話 なにがなんでも at 1995/9/9
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「さすがだね、ハカセ……! これならギリギリ間に合いそうだ! 早速とりかかろうよ!」
土曜日の午後の部活時間に、昨日の今日なのにもかかわらず、夜遅くまでかけて見直しをしてきてくれた五十嵐君がレイアウトの変更案を提示すると、僕らはただただ感心してしまった。
これも、そもそも五十嵐君の作り上げた精巧で緻密な視聴覚室のミニチュアがあったおかげだ。これがなければ、最悪採寸からやり直していても不思議じゃなかった。改めて感謝だ。
何者かに壊されてしまった段ボール製の壁板の枚数は、全部で五枚。ただ、そのうちどうやっても修復不可能な物は二枚。見直し後に必要となった壁板の枚数は三枚。なら、修理で済む。
「ねー? 結局、犯人って誰だったのさ? モリケンは『もう片付いた』って言ってたけど?」
「さぁて。誰だったかなんて、もうどうでもいいだろ? それより、とっとと直しちゃおうぜ」
話をはぐらかされた渋田は見るからに不満そうだったが、僕は誰にも言うつもりはなかった。
約束したから――それもあるにはあったが、どうしても僕には、室生が単純な怒りや憎しみからあんな愚かな行為をしたとは思えなかったからだ。いまだ僕には室生の真意がわからなかったけれど、少なくとも、鍵になるのはロコだ、ということだけははっきりとしていた。
(ほら、ムロってロコのことが好きみたいだから、ちょっと気に入らなかったみたいだよ――)
(僕が勝ったら、ロコに男子テニス部のマネージャーになってもらうよ――)
鎌倉での校外学習の時といい、この前の『宣戦布告』の時といい、ロコのことが――昔も今も――好きな室生にとって、何かと邪魔をしてくる僕は実に厄介で面倒な存在であることは間違いないだろう。けれど、今までは真っ正面から敵対意志を示すことはしなかった。今回がはじめてだ。
そもそも室生は、この学校の誰もが認めるイケメングループのリーダーであり、学校階級的にも常に上位におかれる存在だ。
しかし、それを鼻にかけることもなく、誰でもわけへだてなく接する室生の人柄は、ある意味ロコとよく似ていた。小学校の頃に僕と同じクラスだった時も仲は良かったし、中学になってから僕が底辺陰キャコースまっしぐらに進もうとも、特段避けたり攻撃的になったりすることもなかった。常に小山田の『力による支配』とは違った『愛による融和』路線を貫いていた。
その室生をあんな暴挙に走らせた原因は、よほどのことがあったからとしか考えられない。
(なにがなんでも勝ってやる……そういうことなんだな、ムロ。でも……君らしくないぜ……)
「こ、古ノ森リーダー? それ……もらってもいいです? 直しちゃうので」
「あ――ああ、ごめんごめん、佐倉君。ちょっとぼーっとしてたみたいだね」
今は考えるのをよそう。
それこそ文化祭に間に合わなくなってしまう。
それから僕らは言葉少なく無心で段ボール製壁板三枚の修復を行った。なんとか完了したのは午後四時。まだ少し時間は残っていたものの、本来今日作業したかったことは進んでいない。
「でさー? これ、できた奴ってどうする? また理科準備室に持っていって壊されたら――」
「たぶん、もうやってこないと思う。こいつをしでかした犯人はね」
さすがにそこまで馬鹿ではないだろうし、そこまで執拗に仕掛けてくる可能性もないだろう。
「けれど、万が一ってこともあるからね。狭くなるけど、当日までここに置いておくしかない」
「うへぇ……ただでさえ狭いってのに……。もう物だらけなんだけど、モリケン?」
「確かにこの惨状は混沌の極みですが、少し窮屈な方が案外僕ららしいのかもしれませんよ?」
「な、なんか迷路みたいで面白いですよねっ!」
少々凹み気味の僕と文句ぶーぶーの渋田にとって、五十嵐君と佐倉君が発した超がつくほどのポジティブなセリフは、思わず苦笑いを浮かべてしまうほど頼もしく励まされる思いがした。
「ったく……部長と副部長よりしっかりしてるんだもん。形無しだよな」
「ホントホント。まあ、じゃあもうひと踏ん張りしちゃいますか!」
そして僕らは、荻島センセイに無理をいって、その日の夜遅くまで作業を続けることにした。
あとは来週、月曜からの四日間が本当に本当の、最後の勝負になる――。
土曜日の午後の部活時間に、昨日の今日なのにもかかわらず、夜遅くまでかけて見直しをしてきてくれた五十嵐君がレイアウトの変更案を提示すると、僕らはただただ感心してしまった。
これも、そもそも五十嵐君の作り上げた精巧で緻密な視聴覚室のミニチュアがあったおかげだ。これがなければ、最悪採寸からやり直していても不思議じゃなかった。改めて感謝だ。
何者かに壊されてしまった段ボール製の壁板の枚数は、全部で五枚。ただ、そのうちどうやっても修復不可能な物は二枚。見直し後に必要となった壁板の枚数は三枚。なら、修理で済む。
「ねー? 結局、犯人って誰だったのさ? モリケンは『もう片付いた』って言ってたけど?」
「さぁて。誰だったかなんて、もうどうでもいいだろ? それより、とっとと直しちゃおうぜ」
話をはぐらかされた渋田は見るからに不満そうだったが、僕は誰にも言うつもりはなかった。
約束したから――それもあるにはあったが、どうしても僕には、室生が単純な怒りや憎しみからあんな愚かな行為をしたとは思えなかったからだ。いまだ僕には室生の真意がわからなかったけれど、少なくとも、鍵になるのはロコだ、ということだけははっきりとしていた。
(ほら、ムロってロコのことが好きみたいだから、ちょっと気に入らなかったみたいだよ――)
(僕が勝ったら、ロコに男子テニス部のマネージャーになってもらうよ――)
鎌倉での校外学習の時といい、この前の『宣戦布告』の時といい、ロコのことが――昔も今も――好きな室生にとって、何かと邪魔をしてくる僕は実に厄介で面倒な存在であることは間違いないだろう。けれど、今までは真っ正面から敵対意志を示すことはしなかった。今回がはじめてだ。
そもそも室生は、この学校の誰もが認めるイケメングループのリーダーであり、学校階級的にも常に上位におかれる存在だ。
しかし、それを鼻にかけることもなく、誰でもわけへだてなく接する室生の人柄は、ある意味ロコとよく似ていた。小学校の頃に僕と同じクラスだった時も仲は良かったし、中学になってから僕が底辺陰キャコースまっしぐらに進もうとも、特段避けたり攻撃的になったりすることもなかった。常に小山田の『力による支配』とは違った『愛による融和』路線を貫いていた。
その室生をあんな暴挙に走らせた原因は、よほどのことがあったからとしか考えられない。
(なにがなんでも勝ってやる……そういうことなんだな、ムロ。でも……君らしくないぜ……)
「こ、古ノ森リーダー? それ……もらってもいいです? 直しちゃうので」
「あ――ああ、ごめんごめん、佐倉君。ちょっとぼーっとしてたみたいだね」
今は考えるのをよそう。
それこそ文化祭に間に合わなくなってしまう。
それから僕らは言葉少なく無心で段ボール製壁板三枚の修復を行った。なんとか完了したのは午後四時。まだ少し時間は残っていたものの、本来今日作業したかったことは進んでいない。
「でさー? これ、できた奴ってどうする? また理科準備室に持っていって壊されたら――」
「たぶん、もうやってこないと思う。こいつをしでかした犯人はね」
さすがにそこまで馬鹿ではないだろうし、そこまで執拗に仕掛けてくる可能性もないだろう。
「けれど、万が一ってこともあるからね。狭くなるけど、当日までここに置いておくしかない」
「うへぇ……ただでさえ狭いってのに……。もう物だらけなんだけど、モリケン?」
「確かにこの惨状は混沌の極みですが、少し窮屈な方が案外僕ららしいのかもしれませんよ?」
「な、なんか迷路みたいで面白いですよねっ!」
少々凹み気味の僕と文句ぶーぶーの渋田にとって、五十嵐君と佐倉君が発した超がつくほどのポジティブなセリフは、思わず苦笑いを浮かべてしまうほど頼もしく励まされる思いがした。
「ったく……部長と副部長よりしっかりしてるんだもん。形無しだよな」
「ホントホント。まあ、じゃあもうひと踏ん張りしちゃいますか!」
そして僕らは、荻島センセイに無理をいって、その日の夜遅くまで作業を続けることにした。
あとは来週、月曜からの四日間が本当に本当の、最後の勝負になる――。
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