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第204話 トラブル発生! at 1995/9/8
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「うわ……! な、なんだ、これ……?」
それが発覚したのは、文化祭のちょうど一週間前にあたる、金曜日の午後だった。
たまたま僕たち――僕、渋田、佐倉君、そして五十嵐君――は、残しておいた最後の段ボールを部室へ持ち帰ってしまおうと思い立ち、理科準備室へ足を一歩踏み入れたところだった。
「――っ」
あまりの惨状に声を失った。
最後の数枚の段ボールは、どれも真っ二つに切り裂かれ、狭い部室には置けずに仕方なく置かせてもらっていた通路を作るための段ボール製の壁板のど真ん中には、ちょうど足で踏みつけたような上履きの跡と大きな穴が空いてしまっていたのだ。偶然じゃない、意図的な行為だ。
「くそっ! 誰が一体こんなことを――」
「ストップ! 動かないでください!」
腹の虫がおさまらないまま、それでもなんとか修復できないものかと一歩足を踏みだそうとした刹那、五十嵐君が鋭い声で皆の足を止める。その隙をついて、五十嵐君は一人近づいた。
「ふぅむ……。ここに、壁板につけられているものと同じ靴跡がありますね。なるほど……壁板の色塗りが完全に乾いてはいなかったせいでしょう。そして、これは……? 鍵、ですか?」
確かに五十嵐君の言ったとおり、理科準備室のブロック状に組み合わされた床板の一枚には、くっきりと上履きの靴跡が残っていた。重ね合わせてみないと厳密には言えないけれど、恐らく壁板に残されている靴跡と同じものだ。
そして、ポケットから白いハンカチを取り出して五十嵐君が慎重に拾い上げたのは鍵――だが、家の鍵にしてはサイズが小さく形も違っている。
「これをやった犯人が落としていったのかな? どう思う、ハカセ?」
「ふうむ」
五十嵐君は再び低くうなると、ハンカチ越しに摘まんだ鍵をさまざまな角度から検分した。
――ちりん。
「これには無くさないよう鈴のキーホルダーがつけられています。恐らく、形状からして自転車の鍵でしょう。持ち手の部分には、かすれて消えかかっていますが、店名が書かれています」
「よ、読めるんです?」
「難しいですね……」
恐る恐る発した佐倉君の問いに、五十嵐君は細い目をさらに細め、眉根を寄せた。
「……しかし、近隣にある専門店は、商店街にある西山自転車店かサッカー場下にある渡辺自転車店です。そのどちらかでしょう。『アイワールド』や『ダイクマ』のような大型量販店では、店名入りキーホルダーなぞいただけないでしょうから。電話番号の下二桁は読めそうです」
「だったら! どっちかわかれば、あとは顧客名簿から車体番号で探し出してもらって――!」
「で……どうするのです、渋田サブリーダー?」
「え……?」
いきり立って追及しようとする渋田に対し、五十嵐君は至って冷静そのものだった。
「犯人がわかったとして、それでどうしようというのです?」
「そ、そんなのもちろん! 僕らでとっちめるか、センセイに訴え出て、代わりに叱って――」
「……御言葉ですが、残念ながら今の我々にはそれに費やす時間的余裕はありません」
「シブチン、ハカセの言うとおりだ。悔しいけれどね」
五十嵐君の判断は正しい。
僕は彼の言葉を後押しするようにうなずいてから続けた。
「犯人探しをして善悪を裁くには、それなりの時間と根気が必要だよ。でも、僕らはまず、この破壊された分の損失を早急に取り戻さないと。そうしなければ、文化祭には間に合わない」
「そ、それはそうなんだけどさ……くっそぉおおおおお!」
なすすべがないことを知らされて渋田が大声で吼える。
僕は五十嵐君と目くばせをした。
「ま、妨害工作があるかも、ってのは計算済みだからさ。……ハカセ、対策は?」
「仕方ありませんね……構造を今一度見直し、最小限の補填で済ませましょう。可能ですとも」
「それから……僕だって、ただ泣き寝入りするつもりはないぜ、シブチン? まあ、見てろよ――」
それが発覚したのは、文化祭のちょうど一週間前にあたる、金曜日の午後だった。
たまたま僕たち――僕、渋田、佐倉君、そして五十嵐君――は、残しておいた最後の段ボールを部室へ持ち帰ってしまおうと思い立ち、理科準備室へ足を一歩踏み入れたところだった。
「――っ」
あまりの惨状に声を失った。
最後の数枚の段ボールは、どれも真っ二つに切り裂かれ、狭い部室には置けずに仕方なく置かせてもらっていた通路を作るための段ボール製の壁板のど真ん中には、ちょうど足で踏みつけたような上履きの跡と大きな穴が空いてしまっていたのだ。偶然じゃない、意図的な行為だ。
「くそっ! 誰が一体こんなことを――」
「ストップ! 動かないでください!」
腹の虫がおさまらないまま、それでもなんとか修復できないものかと一歩足を踏みだそうとした刹那、五十嵐君が鋭い声で皆の足を止める。その隙をついて、五十嵐君は一人近づいた。
「ふぅむ……。ここに、壁板につけられているものと同じ靴跡がありますね。なるほど……壁板の色塗りが完全に乾いてはいなかったせいでしょう。そして、これは……? 鍵、ですか?」
確かに五十嵐君の言ったとおり、理科準備室のブロック状に組み合わされた床板の一枚には、くっきりと上履きの靴跡が残っていた。重ね合わせてみないと厳密には言えないけれど、恐らく壁板に残されている靴跡と同じものだ。
そして、ポケットから白いハンカチを取り出して五十嵐君が慎重に拾い上げたのは鍵――だが、家の鍵にしてはサイズが小さく形も違っている。
「これをやった犯人が落としていったのかな? どう思う、ハカセ?」
「ふうむ」
五十嵐君は再び低くうなると、ハンカチ越しに摘まんだ鍵をさまざまな角度から検分した。
――ちりん。
「これには無くさないよう鈴のキーホルダーがつけられています。恐らく、形状からして自転車の鍵でしょう。持ち手の部分には、かすれて消えかかっていますが、店名が書かれています」
「よ、読めるんです?」
「難しいですね……」
恐る恐る発した佐倉君の問いに、五十嵐君は細い目をさらに細め、眉根を寄せた。
「……しかし、近隣にある専門店は、商店街にある西山自転車店かサッカー場下にある渡辺自転車店です。そのどちらかでしょう。『アイワールド』や『ダイクマ』のような大型量販店では、店名入りキーホルダーなぞいただけないでしょうから。電話番号の下二桁は読めそうです」
「だったら! どっちかわかれば、あとは顧客名簿から車体番号で探し出してもらって――!」
「で……どうするのです、渋田サブリーダー?」
「え……?」
いきり立って追及しようとする渋田に対し、五十嵐君は至って冷静そのものだった。
「犯人がわかったとして、それでどうしようというのです?」
「そ、そんなのもちろん! 僕らでとっちめるか、センセイに訴え出て、代わりに叱って――」
「……御言葉ですが、残念ながら今の我々にはそれに費やす時間的余裕はありません」
「シブチン、ハカセの言うとおりだ。悔しいけれどね」
五十嵐君の判断は正しい。
僕は彼の言葉を後押しするようにうなずいてから続けた。
「犯人探しをして善悪を裁くには、それなりの時間と根気が必要だよ。でも、僕らはまず、この破壊された分の損失を早急に取り戻さないと。そうしなければ、文化祭には間に合わない」
「そ、それはそうなんだけどさ……くっそぉおおおおお!」
なすすべがないことを知らされて渋田が大声で吼える。
僕は五十嵐君と目くばせをした。
「ま、妨害工作があるかも、ってのは計算済みだからさ。……ハカセ、対策は?」
「仕方ありませんね……構造を今一度見直し、最小限の補填で済ませましょう。可能ですとも」
「それから……僕だって、ただ泣き寝入りするつもりはないぜ、シブチン? まあ、見てろよ――」
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