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第198話 その14「彼女の家へ迎えに行こう!」 at 1995/9/2
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――がちゃり。
「おはよ、ケンタ君。わざわざ迎えに来てくれるなんて……ちょっと、恥ずかしいかも……」
「そ、それは僕だって……。で、でも、こういう紳士的な態度が周囲の理解を得る一歩だと」
「うふふ、ざーんねんでした! 今日はパパもママもいないんだよ?」
「そっ! ……そう……なんだ。い、いや、むしろホッとしたっていうか……」
……ん?
それってもしかして、恋愛ハウツー本でよく見る、アレ的なサインなのかよおいまさか!?
そんな僕のチェリーピンクの淡い期待は見事に打ち砕かれ、すっかり身だしなみもコーディネートもおでかけモードに準備済みの純美子は、白いミュールにそっとつま先を差し入れた。だよなーそうだよなー。でも、靴を履く時にさりげなく僕の方に置かれた純美子の手にきゅんとする。
そして靴を履き終えた純美子は、僕に寄りかかるように耳元に顔を寄せて囁いた。
「……今度、あたしのお部屋にご招待するね! 誰もウチにいない時に……いいでしょ?」
ぎょっ、とした僕の表情があまりにもわかりやすかったのか、純美子はぺろりとピンク色の舌先を出して苦笑している。冗談なの? 本気なの? もー! 僕、わっかんないよー!!
ココロのうちの動揺を悟られないように、まじまじと覗き込んでくる視線から目を反らして、僕は純美子にもう一度念を押す意味で、確認の言葉を口に出した。
「で……。本当に行くつもりなの、スミちゃん?」
「もっちろんだよ。わざわざ来た道を戻るケンタ君には悪いんだけど、ね?」
「それくらい、別にいいんだけどさ……」
そう。純美子は直接ロコに会いにいって確かめたい、と言うのだった。
「で、でもさ? 前の時は、僕には来るな、って言ってたじゃん? なんで今日は一緒なの?」
「そ、それは……! あ、あの時とは違うんだもん! それに……もうあたしの彼氏なんだし」
慌てて口に出してしまってから、さっと頬を赤らめる純美子。
初々しいなー。って僕もか。
でも、僕はいまだにお盆休みの時に渋田たちが見かけたという、純美子とロコの口論の内容が気になっていた。一体なぜ? なんの話を? 何が二人をそうさせたというんだろう?
しかし、いくら無事彼氏の称号を得た僕であっても、聞けることと聞けないことはある。大体、そんなことがありながら、前より仲良しになっている純美子とロコの心境の変化がまるで理解できない。僕と渋田だって、短い間だとはいえ、あんなにギクシャクしたってのに……。
「なーに難しい顔してるのかなー? ほーら、早速行こうよ、彼氏のケンタ君!」
「あ。う、うん。行こっか」
昼間もうす暗い、エレベーターも付いていないコンクリート製の団地の階段を降りて九月の強い日差しを浴びると、まだ夏の名残りの暑さが、じり、と僕らの肌を焦がす。今日の最高気温は三〇度になるらしい。まだ午前中ということもあって、木曽根商店街には人影はまばらだ。
「ママの日傘、借りてきちゃった。……一緒に入る?」
「それはやめとくよ。せっかくの絵になる風景を、台無しにしたくないからね」
ん? と僕の言った意味がうまく伝わらなかったようで、純美子は真っ白なレース編みの日傘をくるりと回し、その陰から僕を眩しそうに見つめて微笑んでいた。飾り気のない純白のコットン・ワンピース姿の今日のファッションにもよく似合っている。とっても――キレイだ。
二人並んで歩いていく。ついつい、隣に目を奪われそうになりながらも、僕らはホー1号棟までのゆったりとした傾斜道を進んで行く。こんな日が来るだなんて、もう夢のようだ。
……ん?
今までもこの道を二人で歩いてたことあったろ、って?
確かに同じなのだけれど、やっぱり違うんだってば。
ただのお友だち?
部活の仲間?
仲の良い隣の席の子?
いいや。河東純美子という女の子は、もうそのどれでもなかった。
僕の彼女。
この世でたった一人の、決してもう二度と離したくない大切な女の子なんだ。
「おはよ、ケンタ君。わざわざ迎えに来てくれるなんて……ちょっと、恥ずかしいかも……」
「そ、それは僕だって……。で、でも、こういう紳士的な態度が周囲の理解を得る一歩だと」
「うふふ、ざーんねんでした! 今日はパパもママもいないんだよ?」
「そっ! ……そう……なんだ。い、いや、むしろホッとしたっていうか……」
……ん?
それってもしかして、恋愛ハウツー本でよく見る、アレ的なサインなのかよおいまさか!?
そんな僕のチェリーピンクの淡い期待は見事に打ち砕かれ、すっかり身だしなみもコーディネートもおでかけモードに準備済みの純美子は、白いミュールにそっとつま先を差し入れた。だよなーそうだよなー。でも、靴を履く時にさりげなく僕の方に置かれた純美子の手にきゅんとする。
そして靴を履き終えた純美子は、僕に寄りかかるように耳元に顔を寄せて囁いた。
「……今度、あたしのお部屋にご招待するね! 誰もウチにいない時に……いいでしょ?」
ぎょっ、とした僕の表情があまりにもわかりやすかったのか、純美子はぺろりとピンク色の舌先を出して苦笑している。冗談なの? 本気なの? もー! 僕、わっかんないよー!!
ココロのうちの動揺を悟られないように、まじまじと覗き込んでくる視線から目を反らして、僕は純美子にもう一度念を押す意味で、確認の言葉を口に出した。
「で……。本当に行くつもりなの、スミちゃん?」
「もっちろんだよ。わざわざ来た道を戻るケンタ君には悪いんだけど、ね?」
「それくらい、別にいいんだけどさ……」
そう。純美子は直接ロコに会いにいって確かめたい、と言うのだった。
「で、でもさ? 前の時は、僕には来るな、って言ってたじゃん? なんで今日は一緒なの?」
「そ、それは……! あ、あの時とは違うんだもん! それに……もうあたしの彼氏なんだし」
慌てて口に出してしまってから、さっと頬を赤らめる純美子。
初々しいなー。って僕もか。
でも、僕はいまだにお盆休みの時に渋田たちが見かけたという、純美子とロコの口論の内容が気になっていた。一体なぜ? なんの話を? 何が二人をそうさせたというんだろう?
しかし、いくら無事彼氏の称号を得た僕であっても、聞けることと聞けないことはある。大体、そんなことがありながら、前より仲良しになっている純美子とロコの心境の変化がまるで理解できない。僕と渋田だって、短い間だとはいえ、あんなにギクシャクしたってのに……。
「なーに難しい顔してるのかなー? ほーら、早速行こうよ、彼氏のケンタ君!」
「あ。う、うん。行こっか」
昼間もうす暗い、エレベーターも付いていないコンクリート製の団地の階段を降りて九月の強い日差しを浴びると、まだ夏の名残りの暑さが、じり、と僕らの肌を焦がす。今日の最高気温は三〇度になるらしい。まだ午前中ということもあって、木曽根商店街には人影はまばらだ。
「ママの日傘、借りてきちゃった。……一緒に入る?」
「それはやめとくよ。せっかくの絵になる風景を、台無しにしたくないからね」
ん? と僕の言った意味がうまく伝わらなかったようで、純美子は真っ白なレース編みの日傘をくるりと回し、その陰から僕を眩しそうに見つめて微笑んでいた。飾り気のない純白のコットン・ワンピース姿の今日のファッションにもよく似合っている。とっても――キレイだ。
二人並んで歩いていく。ついつい、隣に目を奪われそうになりながらも、僕らはホー1号棟までのゆったりとした傾斜道を進んで行く。こんな日が来るだなんて、もう夢のようだ。
……ん?
今までもこの道を二人で歩いてたことあったろ、って?
確かに同じなのだけれど、やっぱり違うんだってば。
ただのお友だち?
部活の仲間?
仲の良い隣の席の子?
いいや。河東純美子という女の子は、もうそのどれでもなかった。
僕の彼女。
この世でたった一人の、決してもう二度と離したくない大切な女の子なんだ。
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