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第192話 夏の、祭の夜に(1) at 1995/8/27
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「……どうしたのさ、モリケン? もうじき来るって。落ち着きなよ」
「あ――ああ。そ、そうだよな、うん」
僕ら『電算論理研究部』の男子部員四名は、団地内の道路に面した『中央公園』の正面入り口からは少し離れた場所に、ひっそりと集まっていた。
なぜかと言えば答えは単純で、祭の日の正面入り口は、小山田や吉川のようなちょっぴりワルを気取った連中が誰彼構わずガンを飛ばすのに夢中だったり、室生や荒山のようなクラスのアイドル的男子たちが他校の生徒を含めた女子たちからちやほやされていたりと、とてもとてもしょせんは底辺陰キャでしかないモブ勢の僕らでは、そこに立つことすら難しかったからだ。
「……にしても、遅いなー。ロコちゃんの家で浴衣に着替えてから来る、って言ってたけど」
ついさっき僕に『落ち着け』と言った渋田がそんなことをぶつぶつとこぼす。
ブーメランか。
まあ、落ち着かない気持ちになるのはよくわかる。なにせ、底辺陰キャ・教室のモブがお似合いの僕ら四人が、浴衣が良く似合う女子たちと『団地祭』に参加するというのだ。嬉しい気持ちはもちろんありまくりなのだけれど、浮かれ気分にどっぷり浸れない心配なところもある。
冷やかされる程度ならまだいい。
不幸にも巻き込まれることになってしまう女の子側に立って言えば、それだって決して良くはないのだろうけど、しょせん僕らはモブである。そんなウワサは大して長続きしないはずだ。
けれどそれより、どう見たって弱キャラ、カモもいいとこの僕らに目をつけて、絡んでくる連中がいないとも限らない。いやいや、今まで培った経験で言うならば、高確率で来るのだ。
「あ! 来た来た! おーい、こっちこっちー!」
おい馬鹿大声出すな目立つだろ、と焦りつつ、もうじきロコがここに来てしまうと考えたら余計に手に汗がじっとりと湧き出した。しかし――近づいてくる人影は二つしか見当たらない。
「やほー。お待たせー」
「あ、あの……お待たせしました……。あたし、慣れてないから……手間取っちゃって……」
咲都子と水無月さんはまだ少し慣れていないのか、下駄履きの足元がおぼつかない様子だ。その、精一杯おしゃれを気取りながらも、よちよち歩いている姿が逆に初々しくてかわいい。
二人とも身にまとっているのは夏合宿の時と同じ浴衣だった。けれど、場所とシチュエーションが違うとこんなに魅力的に見えるものかと、男子部員全員がまたもや見入ってしまった。
と、咲都子は急に眉をしかめ、いぶかしげな顔付きをするとこう言った。
「……ん? あれ? スミとノハラさんは?」
「ほ、本当だ……ね。さ、先に行ってるって……言ってたのに……」
「い――いや、ここには来てないぞ? 二人より先に出たのか?」
「そうそう」
咲都子はまだかすかに夕暮れ色が残る夜空を見上げるようにして手にした団扇であおぐ。
「『あたしとロコちゃんはちょっと用事があるから先に行くね』って。あたしとツッキーの着付けは、ノハラさんのママがやってくれたから困んなかったけど……マジで来てないの?」
「うーん、見なかったけどなぁ。……モリケンは?」
「見て……ないな……」
純美子が口にした『用事がある』ってのは、一体なんのことだ?
僕らより先に約束があったとか?
いや、僕らと一緒に行く約束をしておいて、そんなことをするような二人じゃない。
じゃあどうして――どこに?
出口のない迷路に迷い込んだように、ぐるぐるループする思考の中で答えを追い求めていた。
その時だ。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(時巫女・セツナからの着信じゃない! そのはずがない! ということは、まさか――!!)
「あ――ああ。そ、そうだよな、うん」
僕ら『電算論理研究部』の男子部員四名は、団地内の道路に面した『中央公園』の正面入り口からは少し離れた場所に、ひっそりと集まっていた。
なぜかと言えば答えは単純で、祭の日の正面入り口は、小山田や吉川のようなちょっぴりワルを気取った連中が誰彼構わずガンを飛ばすのに夢中だったり、室生や荒山のようなクラスのアイドル的男子たちが他校の生徒を含めた女子たちからちやほやされていたりと、とてもとてもしょせんは底辺陰キャでしかないモブ勢の僕らでは、そこに立つことすら難しかったからだ。
「……にしても、遅いなー。ロコちゃんの家で浴衣に着替えてから来る、って言ってたけど」
ついさっき僕に『落ち着け』と言った渋田がそんなことをぶつぶつとこぼす。
ブーメランか。
まあ、落ち着かない気持ちになるのはよくわかる。なにせ、底辺陰キャ・教室のモブがお似合いの僕ら四人が、浴衣が良く似合う女子たちと『団地祭』に参加するというのだ。嬉しい気持ちはもちろんありまくりなのだけれど、浮かれ気分にどっぷり浸れない心配なところもある。
冷やかされる程度ならまだいい。
不幸にも巻き込まれることになってしまう女の子側に立って言えば、それだって決して良くはないのだろうけど、しょせん僕らはモブである。そんなウワサは大して長続きしないはずだ。
けれどそれより、どう見たって弱キャラ、カモもいいとこの僕らに目をつけて、絡んでくる連中がいないとも限らない。いやいや、今まで培った経験で言うならば、高確率で来るのだ。
「あ! 来た来た! おーい、こっちこっちー!」
おい馬鹿大声出すな目立つだろ、と焦りつつ、もうじきロコがここに来てしまうと考えたら余計に手に汗がじっとりと湧き出した。しかし――近づいてくる人影は二つしか見当たらない。
「やほー。お待たせー」
「あ、あの……お待たせしました……。あたし、慣れてないから……手間取っちゃって……」
咲都子と水無月さんはまだ少し慣れていないのか、下駄履きの足元がおぼつかない様子だ。その、精一杯おしゃれを気取りながらも、よちよち歩いている姿が逆に初々しくてかわいい。
二人とも身にまとっているのは夏合宿の時と同じ浴衣だった。けれど、場所とシチュエーションが違うとこんなに魅力的に見えるものかと、男子部員全員がまたもや見入ってしまった。
と、咲都子は急に眉をしかめ、いぶかしげな顔付きをするとこう言った。
「……ん? あれ? スミとノハラさんは?」
「ほ、本当だ……ね。さ、先に行ってるって……言ってたのに……」
「い――いや、ここには来てないぞ? 二人より先に出たのか?」
「そうそう」
咲都子はまだかすかに夕暮れ色が残る夜空を見上げるようにして手にした団扇であおぐ。
「『あたしとロコちゃんはちょっと用事があるから先に行くね』って。あたしとツッキーの着付けは、ノハラさんのママがやってくれたから困んなかったけど……マジで来てないの?」
「うーん、見なかったけどなぁ。……モリケンは?」
「見て……ないな……」
純美子が口にした『用事がある』ってのは、一体なんのことだ?
僕らより先に約束があったとか?
いや、僕らと一緒に行く約束をしておいて、そんなことをするような二人じゃない。
じゃあどうして――どこに?
出口のない迷路に迷い込んだように、ぐるぐるループする思考の中で答えを追い求めていた。
その時だ。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(時巫女・セツナからの着信じゃない! そのはずがない! ということは、まさか――!!)
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