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第156話 僕らの『がっしゅく!』三日目(ちょっと寄り道(往路)) at 1995/7/29
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「忍野八海」は、文字どおり八つの池で構成されている。
新・旧富士火山の透水層を流れている地下水が、八つの湧水、つまり湧き水となって湧き出たものなのだそうだ。国の天然記念物、名水百選、県の新富嶽百景にも選ばれていると、そう手元のガイドマップにも書かれている。
「ほら、見なさいよ、ケンタ! すっごく青くて、すっごく透明じゃない? キレイ……!」
なんだよ、さっきまでぶんむくれて怒ってたくせに……そう思わずにはいられない僕だったけれど、ロコが夢中になって見つめている一際大きな池――『涌池』というそうだ――を隣に並んで覗き込んでみると……。確かに凄い……! 透明度が高すぎるから青く見えるんだなー。
「へぇ……これ、凄いね……! って! うわぁあああああ!? 馬鹿! 押すなよ、ロコ!」
「へっへー。冗談だってば。そんなに強く押してないでしょ? ケンタ、あ・わ・て・す・ぎ」
まったくもう……。
さっきまでのはなんだったんだよ……。
今のロコは、とても上機嫌に見えた。澄み渡った青空から降る日差しと、鏡のように滑らかな水面に反射した光が、ロコの陶器のようにすべすべとした顔の輪郭を際立たせていた。ホットパンツから伸びるすらりとした足も、心地よい風に揺れるポニーテールも、なにもかもがだ。
「……あのさ? ケンタ?」
「ん?」
ロコはうっすらと笑みを浮かべ、きらきらと宝石のごとく輝く湖面を見つめたまま言った。
「あんた、怒らないの? スミのこと」
「え……? どうしてさ?」
「告白……断ったんでしょ、スミ? 嫌いに……ならないの?」
ロコが知っていたという驚きより、僕はあまりに穏やかで優しげなロコの口調にしばし黙る。
「ははは……馬鹿、みたいだろ、僕? どうしても嫌いにはなれないんだよな。それにさ――」
「あ、あー! い、いいって! そーゆーもんみたいだし、『誰かを好きになる』ってことは」
ロコはそう言うと、慌てたように顔の前でぶんぶんと手を振って、困ったような笑顔になる。
「……がんばんなさいよ、ケンタ。あたしがいる限り、あんたの物語は絶対ハッピーエンド!」
「サンキュー、ロコ。がんばってみるよ、僕」
とたん僕らの間にあった見えない壁のようなものがすっと消え、心から笑顔を交わし合った。
それから僕たちは、子どもの頃のように手と手をつなぎ合い、園内をゆっくり見学して回った。なにも手はつながなくても……と僕がおよび腰になって言うとロコは、『恋人同士ってフリしとかないとバレちゃうでしょ?』と悪戯っぽく言い、抱きつく真似までして楽しんでいた。
「ね? ケンタ? あたし、思うんだけどさ――」
涌池の前にある土産物屋を冷やかし、再び池に戻って飽くことなく眺めていたロコが言った。
「ココロもさ、こんなふうに透明で、透けて見えちゃえばいいのにな、って思ったりしない?」
「うーん。僕は……嫌、かな」
「なんでよ? いいと思うんだけどなー?」
僕の返答に、ロコはぷぅっと頬をふくらませる。
が、すぐににやにやと笑い始めた。
「ははぁーん……。さては、えっちなこと考えてるの、バレちゃうからでしょ。図星でしょ?」
「は、はぁ!? 僕はエロガエ……いやいや、吉川じゃないんだから! いたって真面目だし」
その時だ。
せかせかと慌てて園内に駈け込んで来たのは――あれ? あのバスガイドさんだ。
「『富士絶景巡り』ご参加の方で、まだバスにお戻りでないお客様ぁー? まもなく発車でぇーす!」
「ま、まずいぞ、ロコ! って……うわぁあああああ!?」
どうやらロコの方がいち早くガイドさんの姿に気づいたらしい。
ちょうど僕たちとガイドさんとの間に建っていた水車小屋の方へと――ぐいっ――僕の腕を掴んで思いっきり引き寄せた。不意をつかれてたたらを踏んだ僕のカラダは、そのイキオイのままロコに抱き止められて――。
「……しーっ! 静かにしてなさい。こうしてればバレないから、きっと。ほら、もっと――」
新・旧富士火山の透水層を流れている地下水が、八つの湧水、つまり湧き水となって湧き出たものなのだそうだ。国の天然記念物、名水百選、県の新富嶽百景にも選ばれていると、そう手元のガイドマップにも書かれている。
「ほら、見なさいよ、ケンタ! すっごく青くて、すっごく透明じゃない? キレイ……!」
なんだよ、さっきまでぶんむくれて怒ってたくせに……そう思わずにはいられない僕だったけれど、ロコが夢中になって見つめている一際大きな池――『涌池』というそうだ――を隣に並んで覗き込んでみると……。確かに凄い……! 透明度が高すぎるから青く見えるんだなー。
「へぇ……これ、凄いね……! って! うわぁあああああ!? 馬鹿! 押すなよ、ロコ!」
「へっへー。冗談だってば。そんなに強く押してないでしょ? ケンタ、あ・わ・て・す・ぎ」
まったくもう……。
さっきまでのはなんだったんだよ……。
今のロコは、とても上機嫌に見えた。澄み渡った青空から降る日差しと、鏡のように滑らかな水面に反射した光が、ロコの陶器のようにすべすべとした顔の輪郭を際立たせていた。ホットパンツから伸びるすらりとした足も、心地よい風に揺れるポニーテールも、なにもかもがだ。
「……あのさ? ケンタ?」
「ん?」
ロコはうっすらと笑みを浮かべ、きらきらと宝石のごとく輝く湖面を見つめたまま言った。
「あんた、怒らないの? スミのこと」
「え……? どうしてさ?」
「告白……断ったんでしょ、スミ? 嫌いに……ならないの?」
ロコが知っていたという驚きより、僕はあまりに穏やかで優しげなロコの口調にしばし黙る。
「ははは……馬鹿、みたいだろ、僕? どうしても嫌いにはなれないんだよな。それにさ――」
「あ、あー! い、いいって! そーゆーもんみたいだし、『誰かを好きになる』ってことは」
ロコはそう言うと、慌てたように顔の前でぶんぶんと手を振って、困ったような笑顔になる。
「……がんばんなさいよ、ケンタ。あたしがいる限り、あんたの物語は絶対ハッピーエンド!」
「サンキュー、ロコ。がんばってみるよ、僕」
とたん僕らの間にあった見えない壁のようなものがすっと消え、心から笑顔を交わし合った。
それから僕たちは、子どもの頃のように手と手をつなぎ合い、園内をゆっくり見学して回った。なにも手はつながなくても……と僕がおよび腰になって言うとロコは、『恋人同士ってフリしとかないとバレちゃうでしょ?』と悪戯っぽく言い、抱きつく真似までして楽しんでいた。
「ね? ケンタ? あたし、思うんだけどさ――」
涌池の前にある土産物屋を冷やかし、再び池に戻って飽くことなく眺めていたロコが言った。
「ココロもさ、こんなふうに透明で、透けて見えちゃえばいいのにな、って思ったりしない?」
「うーん。僕は……嫌、かな」
「なんでよ? いいと思うんだけどなー?」
僕の返答に、ロコはぷぅっと頬をふくらませる。
が、すぐににやにやと笑い始めた。
「ははぁーん……。さては、えっちなこと考えてるの、バレちゃうからでしょ。図星でしょ?」
「は、はぁ!? 僕はエロガエ……いやいや、吉川じゃないんだから! いたって真面目だし」
その時だ。
せかせかと慌てて園内に駈け込んで来たのは――あれ? あのバスガイドさんだ。
「『富士絶景巡り』ご参加の方で、まだバスにお戻りでないお客様ぁー? まもなく発車でぇーす!」
「ま、まずいぞ、ロコ! って……うわぁあああああ!?」
どうやらロコの方がいち早くガイドさんの姿に気づいたらしい。
ちょうど僕たちとガイドさんとの間に建っていた水車小屋の方へと――ぐいっ――僕の腕を掴んで思いっきり引き寄せた。不意をつかれてたたらを踏んだ僕のカラダは、そのイキオイのままロコに抱き止められて――。
「……しーっ! 静かにしてなさい。こうしてればバレないから、きっと。ほら、もっと――」
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