上 下
135 / 539

第134話 夏休み初日だもん気分はハッピー! at 1995/7/22

しおりを挟む
 はりきって朝八時には登校し、部室で頭を突き合わせて考えをまとめていた僕と渋田に遅れること二時間、我らが『ハカセ』こと五十嵐君が登校してきた。今は部室の電話で通話中だ。


「――はい。そうですね――それで結構です。こちらは何を準備しておけばいいでしょうか? ええ。ええ。そうしていただければ助かります。いえいえ――わかっていますよ。それでは」


 ――ぷっ。


「ということです、古ノ森リーダー」

「……説明PLZプリーズ


 スピーカー機能すらない最小限構成のコードレスフォンで通話していたのだ、五十嵐君以外には誰にも聴こえてない。僕はクソがつくほど超真面目な顔付きをしている五十嵐君に頼んだ。


「では。こちらのホワイトボードをお借りして、概要を整理させていただきます」


 きゅ――ぽん。
 きゅきゅ――きゅっ。


「まず、これははじめにもお伝えしましたが、今回の夏期合宿における宿泊施設の手配の一切は、この不肖、五十嵐弓之助ゆみのすけめに一任いただきたく。よろしいですよね、古ノ森リーダー?」

(へー。下の名前、弓之助っていうんだ……知らなかったなー)

(感心しとる場合か)


 天然物かそうでないか不明なクセの強い跳ね髪をしている、マッドが付く方の博士役が適任な超真面目メガネ男子にしては、かなりゴツい名前だ。普通なら、戦士か侍を想像するだろう。


「う、うん、任せるよ、ハカセ。というか、僕らには願ったり叶ったりっていう話だから」

「謹んで拝命しました。では、早速ですが、先程の電話での内容をこちらに――」


 きゅきゅ――きゅっ。


「ご用意させていただく宿泊施設は、山梨県・山中湖村にあるコテージになります。収容人数的には一〇名まで対応可能ですので問題ないでしょう。食事は基本的に自炊となっています」

「す、凄いね。コテージなんてはじめてだ。……ところで、宿泊費の方はどうなるのかな?」


 当然気になるポイントだ。
 しかし、五十嵐君は少し迷うような素振りを見せると首を振った。


「不要です」

「………………へ?」

「ですから、不要です。このコテージはあくまで個人所有の物で、民間宿泊施設などでは――」

「い――いやいやいや!」


 慌てて手を振る僕とわずかに小首を傾げて不思議そうな表情をしている五十嵐君は対照的だ。


「にしたってさ、人様からお借りするんだから、せめて、光熱費とか管理費とか最低限の額は」

「うーん。そういう……ものなのでしょうか?」

「ハカセんちの持ち物ってわけじゃないんでしょ? だったらお気持ち程度でも御礼しないと」

「なるほど。では、そのようにいたしましょう」


 成績優秀で、知識も豊富ではあるものの、ときおりこういった社会常識、慣習のようなものにうとい面を見せる五十嵐君。まだあまりに落ちた様子はなかったものの、うなずき返した。


「日程に関しては、部員全員が揃った日に改めて調整する、ということでよろしいですよね?」

「だね。なにしろ急な話だったし、スミちゃんやロコはあっちの部活でも合宿があるから――」


 と、そこまで言いかけたところで、部室のドアの向こう側から騒がしいとまではいかないもののなにやら小競り合いをしているような音が聴こえてきた。やがて顔を出したのはロコである。


「おー、いたいた! 誰もいなかったらどうしよっかーって話してたんだよねー! ちょっ!」


 誰とだよ、とツッコむスキも与えず、別の誰かの白い手がにょきりと伸びてきてロコの肘のあたりを掴むと引っ張った。しかし、そのチカラは弱っちくて、とてもロコには敵わない。


「ほーらっ、観念して出てくるの。みんなに見てもらって、イメチェンの成果を見せる時よ!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...