113 / 539
第113話 頼れる師匠 at 1995/7/13
しおりを挟む
「ふわぁあああ……」
結局、いつ眠りについたのか覚えていない。朝から寝不足だ。
なにげなく隣を見る。
純美子の姿は、まだ、ない。
その次の瞬間だった。
パシィイン!!
窓から差し込む初夏の日差しに照らされ、けだるげにまどろんでいた俺――僕の背中を渾身のチカラで平手打ちしてくる奴が突如現れたのだった。
「痛――っ!?」
たちまち仰天して吊り上げられた魚のように椅子の上から跳ね起きる。
と、振り返った先にあったのは、にやにや笑いを浮かべたロコの日に焼けた浅黒い顔だった。
「――にすんだよっ! いきなり平手打ちとか――!!」
「ガラにもないことしてるからだってば。モリケンのくせに」
「ガ、ガラにもないって……い、いいだろ! 僕にだって悩みのひとつやふたつあるんだよ!」
「それがガラにもない、って言ってんの。頭はいい癖に、こういう時はまるで馬鹿なんだから」
僕がさすがにカチンときて言い返そうとする前に、ロコは肩から下げた学生カバンをぼとりと床に落とし、さっきまで僕がふて寝していた机の上に遠慮のかけらもない態度で腰かける。
「か、勝手に座んなって!」
「こうでもしないと、また、ぐでー、ってやるでしょ? あんたのやることくらい、師匠のあたしにはまるっとお見通しだってーの。あ、パンツ見えるかも、とかの期待は無駄だかんね」
「ちょ――!? パ、パンツとか! ばっかじゃねーの!?」
とはいうものの、僕の目の前には短めのスカートに包まれたロコのお尻と太ももが鎮座しており、足をクロスさせて組んだその微妙な空き具合の三角形の隙間からは何かが見えそうで。
「……どーこ見てるのかなー? んー?」
「みっ! 見てないっ! ……つーの」
「なら、よろしい」
ロコは腕を組み、むふー! と息を吐いて満足げにうなずいた。胸が強調されて、実に目の毒である。
「で……なんだよ? 何か用かよ?」
「あんた、シブチンと喧嘩でもしたの?」
「………………なんでそんなこと聞くんだ?」
我ながらあきれた大馬鹿野郎である。そんな聞き方しようものなら、自ら認めているようなモンだ。案の定、ロコは大袈裟に肩をすくめてこれ見よがしに溜息をひとつついてみせた。
「いつも朝からイチャイチャしてる男子二人が、今日に限って口もきかない、だなんて、なんかありましたーって言ってるようなものじゃない? お馬鹿なあたしにだってわかるっつーの」
「……喧嘩してない。シブチンから喝入れられて、ぐうの音も出ないだけだよ」
あまりに図星すぎて、僕はむっつりとふてくされるのが精一杯だ。くすくすとロコは笑った。
「あんた、馬鹿なの? ケンタのくせに。あいつが意地悪で言ったんじゃないってことくらいとっくにわかってるでしょ? ぐうの音も出ない、って言いながら、どこか納得してないからそうやっていつまでもぐずぐずしてるんだよ。もっとカンタンに考えなきゃダメなんだって」
「でも……どうすりゃいい? どうしたらいいんだ?」
と、突然ロコは身を屈め、僕の耳元にすっと唇を近づける。
「弟子の不始末は、師匠の不始末。あたしがチカラになったげる。いーい?」
「え……!? それって――」
聞き返そうとした時にはもうロコの姿は消えており、入れ替わるように純美子が教室に入ってきたのだった。
結局、いつ眠りについたのか覚えていない。朝から寝不足だ。
なにげなく隣を見る。
純美子の姿は、まだ、ない。
その次の瞬間だった。
パシィイン!!
窓から差し込む初夏の日差しに照らされ、けだるげにまどろんでいた俺――僕の背中を渾身のチカラで平手打ちしてくる奴が突如現れたのだった。
「痛――っ!?」
たちまち仰天して吊り上げられた魚のように椅子の上から跳ね起きる。
と、振り返った先にあったのは、にやにや笑いを浮かべたロコの日に焼けた浅黒い顔だった。
「――にすんだよっ! いきなり平手打ちとか――!!」
「ガラにもないことしてるからだってば。モリケンのくせに」
「ガ、ガラにもないって……い、いいだろ! 僕にだって悩みのひとつやふたつあるんだよ!」
「それがガラにもない、って言ってんの。頭はいい癖に、こういう時はまるで馬鹿なんだから」
僕がさすがにカチンときて言い返そうとする前に、ロコは肩から下げた学生カバンをぼとりと床に落とし、さっきまで僕がふて寝していた机の上に遠慮のかけらもない態度で腰かける。
「か、勝手に座んなって!」
「こうでもしないと、また、ぐでー、ってやるでしょ? あんたのやることくらい、師匠のあたしにはまるっとお見通しだってーの。あ、パンツ見えるかも、とかの期待は無駄だかんね」
「ちょ――!? パ、パンツとか! ばっかじゃねーの!?」
とはいうものの、僕の目の前には短めのスカートに包まれたロコのお尻と太ももが鎮座しており、足をクロスさせて組んだその微妙な空き具合の三角形の隙間からは何かが見えそうで。
「……どーこ見てるのかなー? んー?」
「みっ! 見てないっ! ……つーの」
「なら、よろしい」
ロコは腕を組み、むふー! と息を吐いて満足げにうなずいた。胸が強調されて、実に目の毒である。
「で……なんだよ? 何か用かよ?」
「あんた、シブチンと喧嘩でもしたの?」
「………………なんでそんなこと聞くんだ?」
我ながらあきれた大馬鹿野郎である。そんな聞き方しようものなら、自ら認めているようなモンだ。案の定、ロコは大袈裟に肩をすくめてこれ見よがしに溜息をひとつついてみせた。
「いつも朝からイチャイチャしてる男子二人が、今日に限って口もきかない、だなんて、なんかありましたーって言ってるようなものじゃない? お馬鹿なあたしにだってわかるっつーの」
「……喧嘩してない。シブチンから喝入れられて、ぐうの音も出ないだけだよ」
あまりに図星すぎて、僕はむっつりとふてくされるのが精一杯だ。くすくすとロコは笑った。
「あんた、馬鹿なの? ケンタのくせに。あいつが意地悪で言ったんじゃないってことくらいとっくにわかってるでしょ? ぐうの音も出ない、って言いながら、どこか納得してないからそうやっていつまでもぐずぐずしてるんだよ。もっとカンタンに考えなきゃダメなんだって」
「でも……どうすりゃいい? どうしたらいいんだ?」
と、突然ロコは身を屈め、僕の耳元にすっと唇を近づける。
「弟子の不始末は、師匠の不始末。あたしがチカラになったげる。いーい?」
「え……!? それって――」
聞き返そうとした時にはもうロコの姿は消えており、入れ替わるように純美子が教室に入ってきたのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
拝啓、お姉さまへ
一華
青春
この春再婚したお母さんによって出来た、新しい家族
いつもにこにこのオトウサン
驚くくらいキレイなお姉さんの志奈さん
志奈さんは、突然妹になった私を本当に可愛がってくれるんだけど
私「柚鈴」は、一般的平均的なんです。
そんなに可愛がられるのは、想定外なんですが…?
「再婚」には正直戸惑い気味の私は
寮付きの高校に進学して
家族とは距離を置き、ゆっくり気持ちを整理するつもりだった。
なのに姉になる志奈さんはとっても「姉妹」したがる人で…
入学した高校は、都内屈指の進学校だけど、歴史ある女子校だからか
おかしな風習があった。
それは助言者制度。以前は姉妹制度と呼ばれていたそうで、上級生と下級生が一対一の関係での指導制度。
学園側に認められた助言者が、メンティと呼ばれる相手をペアを組む、柚鈴にとっては馴染みのない話。
そもそも義姉になる志奈さんは、そこの卒業生で
しかもなにやら有名人…?
どうやら想像していた高校生活とは少し違うものになりそうで、先々が思いやられるのだけど…
そんなこんなで、不器用な女の子が、毎日を自分なりに一生懸命過ごすお話しです
11月下旬より、小説家になろう、の方でも更新開始予定です
アルファポリスでの方が先行更新になります
トラウマ持ち青年の変な日常
保冷剤コーヒー
青春
過去に様々ありトラウマ持ちの青年 不知火 聖
学校の廊下で偶然出逢った美少女 蓬莱 沙夜
少しばかり特殊な学校で、面倒くさいけれど愉快な日常を送る……はず
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」
まほりろ
恋愛
【完結しました】
アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。
だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。
気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。
「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」
アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。
敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。
アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。
前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。
☆
※ざまぁ有り(死ネタ有り)
※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。
※ヒロインのパパは味方です。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。
※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。
2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!
リトル・リーベ
*ドジャP*
青春
──リーベ。
それは小さな町の小さな花屋。
最近のようなオシャレな花屋ではないけれども、なんだか寄りたくなってしまう、そんな花屋。
色々な想いが集まる花屋です。
【短編集】
定番のほっこり感動する話をまったりのんびり書こうと思っているので、ちょっと感動したいときに読んでいただけると嬉しいです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる