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第111話 信じてたんだ、僕は at 1995/7/12
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「――と、いうわけなんだ」
一大決心して僕は男子部員三人に事の次第と、僕の一大決心を伝えたのだった。
が――。
「……ふー。えーっと。じゃあ、今日は何しよっか?」
「例のプログラムの続きですかね? そこは渋田サブリーダーの進めやすい方で」
「ぼ、僕も早くタイピング上達したいですから、手伝います!」
『PC―9801UX』が置いてある文机を囲むように座っていた三人が動きを止めたのはほんの一瞬で、なんのリアクションもなんの言葉も返さないうちに元していた作業にスムーズに復帰していたのである。さすがの僕でもこれには、かちん、ときた。だ、大体、僕は部長だぞ!?
「………………なんでみんな揃ってスルーするんだよぉおおおおお!」
ひとりだけ立ったままの僕が、狭く生活感の残る部室中に響き渡る声で叫ぶと、渋田はいかにも面倒臭そうにこちらを振り返ってこう告げる。
「何をいまさら言い出すのやら……って思っただけ。スルー云々ってより、呆れてたんだよ」
隣を見ると、あの五十嵐君まで真面目を絵に描いた表情のまま、うんうん、と何度もうなずいている。その隣の佐倉君は――照れたように、あはは……、と頭を掻きつつ笑っていた。
「前にもかえでちゃんに言われたでしょ? 『とっくに付き合ってるものだと思ってた』って」
「……確かに言われた」
「あのねぇ? みんながみんな、モリケンみたいに一途なわけじゃないよ? 人の心は変わるものなんだよ? それをいつまでもいつまでも……早いとこ、さっさと決めちゃいなって!」
人の心は変わるもの――そうだ、そのとおりだ。
この僕は、それを知っている。思い知っている。思い知らされた。
僕は自分でも気づかぬうちに、ぐっ、と拳をきつく握り締めていた。そしてもう一度言った。
「……頼む。頼むよ。僕は自分に自信がないんだ……今も、この先の未来も。ここで変わらなけりゃ、僕は一生後悔するんだ。この後悔を引きずったまま、同窓会で哀れな思いをするんだ」
「そ、そんな……大袈裟ですってば」
「そうですよ。リーダーらしくない」
佐倉君、五十嵐君が続けていったが、渋田だけは愛想笑いすらせずに、静かにこう言った。
「……かもしれないね。モリケンならいかにもやりそうだよ。勝手に舞い上がって勝手に自滅して。そんで、振られたショックで学校にも来なくなったりしてね。誰とも会わなくなってさ」
僕はあぜんとして言葉を失った。
そんな僕に今一度向き直って、渋田は真正面から僕に続く言葉を叩きつける。
「誰だって、はじめて何かをするのは怖いよ。でも、それを教えてくれて、僕らを勇気づけて背中を押してくれたのはモリケンだったはずじゃない? あのナプキン事件の時だってそうだった。校外活動の班決めの時だってそうさ。僕がサトチンに告白しようって決めたのも、モリケンの言葉があったからだよ。この『電算論理研究部』っていう新しい部を創る話だってそう。今回のツッキーの件だって、絶対にモリケンが助けに来てくれる、そう信じてたんだ、僕は」
「それは……」
僕は渋田の心のうちをはじめて知った気持ちでただ驚くばかりだった。
と同時に、もやもやとした掴みどころのない感情が心の片隅で産声を上げたのを聴いた。
「自信がない? それは嘘だよ。っていうか、そもそも自信なんているの? 誰かに気持ちを伝えるのに、自信なんていらないんじゃない? どうやったってモリケンはモリケンでしょ? それなのに、自分を変えてまで自信を身に着けたって、それってもうモリケンじゃないじゃん」
「……じゃあ、どうすればいいと思う、シブチン?」
「ん? カンタンなことだよ」
渋田はぎこちない意味深な微笑みを浮かべ、深呼吸をひとつしてからこう告げた。
「相手と同じくらい、モリケンがモリケンを好きになること。モリケンは自分が嫌いなんだよ」
一大決心して僕は男子部員三人に事の次第と、僕の一大決心を伝えたのだった。
が――。
「……ふー。えーっと。じゃあ、今日は何しよっか?」
「例のプログラムの続きですかね? そこは渋田サブリーダーの進めやすい方で」
「ぼ、僕も早くタイピング上達したいですから、手伝います!」
『PC―9801UX』が置いてある文机を囲むように座っていた三人が動きを止めたのはほんの一瞬で、なんのリアクションもなんの言葉も返さないうちに元していた作業にスムーズに復帰していたのである。さすがの僕でもこれには、かちん、ときた。だ、大体、僕は部長だぞ!?
「………………なんでみんな揃ってスルーするんだよぉおおおおお!」
ひとりだけ立ったままの僕が、狭く生活感の残る部室中に響き渡る声で叫ぶと、渋田はいかにも面倒臭そうにこちらを振り返ってこう告げる。
「何をいまさら言い出すのやら……って思っただけ。スルー云々ってより、呆れてたんだよ」
隣を見ると、あの五十嵐君まで真面目を絵に描いた表情のまま、うんうん、と何度もうなずいている。その隣の佐倉君は――照れたように、あはは……、と頭を掻きつつ笑っていた。
「前にもかえでちゃんに言われたでしょ? 『とっくに付き合ってるものだと思ってた』って」
「……確かに言われた」
「あのねぇ? みんながみんな、モリケンみたいに一途なわけじゃないよ? 人の心は変わるものなんだよ? それをいつまでもいつまでも……早いとこ、さっさと決めちゃいなって!」
人の心は変わるもの――そうだ、そのとおりだ。
この僕は、それを知っている。思い知っている。思い知らされた。
僕は自分でも気づかぬうちに、ぐっ、と拳をきつく握り締めていた。そしてもう一度言った。
「……頼む。頼むよ。僕は自分に自信がないんだ……今も、この先の未来も。ここで変わらなけりゃ、僕は一生後悔するんだ。この後悔を引きずったまま、同窓会で哀れな思いをするんだ」
「そ、そんな……大袈裟ですってば」
「そうですよ。リーダーらしくない」
佐倉君、五十嵐君が続けていったが、渋田だけは愛想笑いすらせずに、静かにこう言った。
「……かもしれないね。モリケンならいかにもやりそうだよ。勝手に舞い上がって勝手に自滅して。そんで、振られたショックで学校にも来なくなったりしてね。誰とも会わなくなってさ」
僕はあぜんとして言葉を失った。
そんな僕に今一度向き直って、渋田は真正面から僕に続く言葉を叩きつける。
「誰だって、はじめて何かをするのは怖いよ。でも、それを教えてくれて、僕らを勇気づけて背中を押してくれたのはモリケンだったはずじゃない? あのナプキン事件の時だってそうだった。校外活動の班決めの時だってそうさ。僕がサトチンに告白しようって決めたのも、モリケンの言葉があったからだよ。この『電算論理研究部』っていう新しい部を創る話だってそう。今回のツッキーの件だって、絶対にモリケンが助けに来てくれる、そう信じてたんだ、僕は」
「それは……」
僕は渋田の心のうちをはじめて知った気持ちでただ驚くばかりだった。
と同時に、もやもやとした掴みどころのない感情が心の片隅で産声を上げたのを聴いた。
「自信がない? それは嘘だよ。っていうか、そもそも自信なんているの? 誰かに気持ちを伝えるのに、自信なんていらないんじゃない? どうやったってモリケンはモリケンでしょ? それなのに、自分を変えてまで自信を身に着けたって、それってもうモリケンじゃないじゃん」
「……じゃあ、どうすればいいと思う、シブチン?」
「ん? カンタンなことだよ」
渋田はぎこちない意味深な微笑みを浮かべ、深呼吸をひとつしてからこう告げた。
「相手と同じくらい、モリケンがモリケンを好きになること。モリケンは自分が嫌いなんだよ」
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