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第76話 その9「好きな子と鎌倉の町を散策しよう」(9) at 1995/5/31
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「いやあ、散々なランチだった……。休憩のつもりだったのに、逆に疲れちゃったよ……」
僕らは、カフェ『HO!JOE!』をあとにし、今は建長寺へと足並み揃えて進んでいた。
「なーんかっ! お楽しみだったよーでっ! よかったですよねーっ!!」
「ふんっ、デレデレしちゃってさ……。そーゆー奴だとは思わなかったよねー」
……訂正。
一部メンバーの足並みは揃ってはいなかったけれど、それでも気持ちを新たに前進していた。
「結局っ! 何してたのかはちっとも教えてくれないしっ!」
「あー! きっと言えないコト、しちゃってたんじゃないのー!」
……さらに訂正。
完っ全に、メンバーからの信頼度はダダ下がりだったけれど、それでもなんとか歯を食いしばるようにして僕は前に、ただ前にと進んでいた。もう……帰りたいよう……くすんくすん。
それにしてもアレだ。
カフェ『HO!JOE!』での一件は、僕にとってもかなりショッキングで、一刻も早く忘れたい出来事として心に深く刻み込まれた。特に恥ずかしかったのは、ブリーフ姿を桃月に見られたこと。この当時はまだ、ボクサータイプやらトランクスなんて知らなかったんだよぉ。
桃月の言語化不能な叫びを聞きつけ、店員やらクラスメイトやらが慌ててすっ飛んできたが、間一髪のところで僕はスラックスを元通りに引き上げることだけには成功していたのだった。
「お、お客様! どうかなされましたか!? 一体何が……?」
「お、おいっ、ナプキン王子っ! てめぇ……モモに何しやがったんだ、おぉう!?」
「な、何も……ないです……! と、突然、桃月さんが気絶しちゃって……!」
「そ、それはそれは。本日は暑いですからね、もしかすると日射病かもしれませんね」
「何もしねえで気絶することはねえだろうが、あぁ!? てめぇ……まさか……!」
「ほ、本当だってば! 僕が桃月さんに何かするわけないだろ? お、落ち着いてくれよ!」
確かに、僕から何かしたわけではない。むしろ、僕がされたことで結果として勝手に気絶しちゃっただけなのだが、そこまで説明する必要はないだろうし、したところでこじれるだけだ。
「おい、大丈夫か、モモ!」
「うーん……白……白い……」
白い……なんだ?
それ以上、変なことを口走られるとヤバそうだ。まずい……!
「お、お客様! 無理に動かしたら危険です! 奥の座敷を空けますから、そこに寝かせて身体を冷やしましょう。この時期の鎌倉は暑いですからね、多いんですよ、熱中症になる方って」
「あ、ありがとうございます! ほら、ダッチ! 桃月を運ぶのを手伝ってくれよ、早く!」
「ダ、ダッチ……だと……てめぇ……!? くっ……わ、わかったよ、俺が頭の方を支える!」
小山田も桃月のこととなると優先度が上がるようで、多少のことには目をつむることにしたらしい。力の抜けた桃月のカラダは小柄な割にずいぶんと重く感じる。二人でようやくだった。
「……てめぇらは先に行け。あとアレだ……。運ぶの手伝ってくれた礼だけは言っとく」
さすがにいくばくかの責任を感じた僕が、桃月が目を覚ますまで残ろうかと心配そうな彼の背中に向けて声をかけると、小山田は振り返らずにそう言って僕たちを送り出したのだった。
「にしても……。あんなに必死で真剣な顔したダッチ、はじめて見たかも」
「よ、よっぽど心配だったんでしょうね。ち、ちょっとイメージが変わったかも……」
ロコのセリフに佐倉君がおどおどと応じた。
純美子や五十嵐君もそれに同意しているようだ。
でも僕は、そこまで驚きはしなかった。
この僕は、四〇歳から『リトライ』でやってきた二周目の僕は、知っているからだ。本来の小山田徹という男は、人を惹き付けるリーダーシップを持っていて、仲間思いで、何をするにも全力で、一生懸命に挑む奴だということを。負ける戦いであっても、決して挫けないことを。
ただし、それはもう少し後になってからわかることだ。小山田が『変わった』後の話だ。
……待てよ?
小山田が『変わった』きっかけって一体なんだ?
なぜか思い出せない……。
僕らは、カフェ『HO!JOE!』をあとにし、今は建長寺へと足並み揃えて進んでいた。
「なーんかっ! お楽しみだったよーでっ! よかったですよねーっ!!」
「ふんっ、デレデレしちゃってさ……。そーゆー奴だとは思わなかったよねー」
……訂正。
一部メンバーの足並みは揃ってはいなかったけれど、それでも気持ちを新たに前進していた。
「結局っ! 何してたのかはちっとも教えてくれないしっ!」
「あー! きっと言えないコト、しちゃってたんじゃないのー!」
……さらに訂正。
完っ全に、メンバーからの信頼度はダダ下がりだったけれど、それでもなんとか歯を食いしばるようにして僕は前に、ただ前にと進んでいた。もう……帰りたいよう……くすんくすん。
それにしてもアレだ。
カフェ『HO!JOE!』での一件は、僕にとってもかなりショッキングで、一刻も早く忘れたい出来事として心に深く刻み込まれた。特に恥ずかしかったのは、ブリーフ姿を桃月に見られたこと。この当時はまだ、ボクサータイプやらトランクスなんて知らなかったんだよぉ。
桃月の言語化不能な叫びを聞きつけ、店員やらクラスメイトやらが慌ててすっ飛んできたが、間一髪のところで僕はスラックスを元通りに引き上げることだけには成功していたのだった。
「お、お客様! どうかなされましたか!? 一体何が……?」
「お、おいっ、ナプキン王子っ! てめぇ……モモに何しやがったんだ、おぉう!?」
「な、何も……ないです……! と、突然、桃月さんが気絶しちゃって……!」
「そ、それはそれは。本日は暑いですからね、もしかすると日射病かもしれませんね」
「何もしねえで気絶することはねえだろうが、あぁ!? てめぇ……まさか……!」
「ほ、本当だってば! 僕が桃月さんに何かするわけないだろ? お、落ち着いてくれよ!」
確かに、僕から何かしたわけではない。むしろ、僕がされたことで結果として勝手に気絶しちゃっただけなのだが、そこまで説明する必要はないだろうし、したところでこじれるだけだ。
「おい、大丈夫か、モモ!」
「うーん……白……白い……」
白い……なんだ?
それ以上、変なことを口走られるとヤバそうだ。まずい……!
「お、お客様! 無理に動かしたら危険です! 奥の座敷を空けますから、そこに寝かせて身体を冷やしましょう。この時期の鎌倉は暑いですからね、多いんですよ、熱中症になる方って」
「あ、ありがとうございます! ほら、ダッチ! 桃月を運ぶのを手伝ってくれよ、早く!」
「ダ、ダッチ……だと……てめぇ……!? くっ……わ、わかったよ、俺が頭の方を支える!」
小山田も桃月のこととなると優先度が上がるようで、多少のことには目をつむることにしたらしい。力の抜けた桃月のカラダは小柄な割にずいぶんと重く感じる。二人でようやくだった。
「……てめぇらは先に行け。あとアレだ……。運ぶの手伝ってくれた礼だけは言っとく」
さすがにいくばくかの責任を感じた僕が、桃月が目を覚ますまで残ろうかと心配そうな彼の背中に向けて声をかけると、小山田は振り返らずにそう言って僕たちを送り出したのだった。
「にしても……。あんなに必死で真剣な顔したダッチ、はじめて見たかも」
「よ、よっぽど心配だったんでしょうね。ち、ちょっとイメージが変わったかも……」
ロコのセリフに佐倉君がおどおどと応じた。
純美子や五十嵐君もそれに同意しているようだ。
でも僕は、そこまで驚きはしなかった。
この僕は、四〇歳から『リトライ』でやってきた二周目の僕は、知っているからだ。本来の小山田徹という男は、人を惹き付けるリーダーシップを持っていて、仲間思いで、何をするにも全力で、一生懸命に挑む奴だということを。負ける戦いであっても、決して挫けないことを。
ただし、それはもう少し後になってからわかることだ。小山田が『変わった』後の話だ。
……待てよ?
小山田が『変わった』きっかけって一体なんだ?
なぜか思い出せない……。
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