上 下
58 / 539

第58話 両手に花と言われても at 1995/5/13

しおりを挟む
「で? どうなの、そっちは?」


 土曜日の午前授業もつつがなく終わり、さて帰るか、と思ったところに渋田がやってきて、遊びにきなよ、と誘われた僕。肩を並べて歩いていると、渋田がそんな問いを投げてきた。


「ん? 校外活動の件?」

「そそ」


 何度もうなずいては、話の続きをせがんでいる。お前は、待て! の出来ない犬か。


「いやあ、みんなで相談したのもギリギリの木曜日でさ、結局昨日の放課後に、部活がなくって用事がなかった僕と佐倉君の二人だけ居残って、なんとか行動予定表を作って提出したんだ」

「そぉーうぉーじゃあーなくってぇーさぁー」

「な、なんだよ、いつもに増してうっとうしいな……」

「いつも!?」


 僕の素っ気ないセリフにショックを受けた表情を浮かべた渋田は、芝居がかった仕草でのけぞってみせた。それからニヤニヤと気色の悪い満面の笑みを浮かべつつ、僕の脇腹を肘で突く。


「なんたって、清純派文学少女として隠れファン急増中の河東さんと、学年トップクラスの人気を誇るあの・・ノハラさんが一緒なんだよー? まさに両手に花! このー! このこのっ!」

「はぁー? ノ、ノハラさん!? ……あー、なんだ、ロコのことか」


 上ノ原、だから、ノハラさん、ってわけか。はじめて知ったぞ。

 っていうか、純美子にも結構ファンがついてるだなんて、今まで全然知らなかったな……。これはうかうかしてられない。

 と、僕がぽろっと口にした昔からの呼び名に渋田は喰いつき、あわあわと口をわななかせる。


「ロ、ロコだって!? まーっ! もうそんなカンケイにまで……!!」

「そんなカンケイってなんだよ? 昔からの知り合い、幼馴染みなんだって」

「いいですねぇー、お・さ・な・な・じ・み!」

「からむなぁ」


 いやん! いやん! とか言いつつ、団地の階段を登りながらしきりにくねくね身をよじる渋田。正直気持ち悪い。その気持ち悪いついでに、渋田はとうとうこんなことまで言い始めた。


「し・か・も、ですよ? あの・・佐倉君まで一緒じゃないですかー!?」

「………………はぁ?」


 すると、うひひ、と渋田は下品な笑みを浮かべてみせた。こいつ、ワザとやってるな……。


「佐倉君、いや、佐倉かえでちゃんも結構コアなファンが多くってですね――」

「かえでちゃん、って……。おい、アイツ、男だぞ?」

「ノンノンノーン! 本当は女の子なんだってウワサがあるくらいなんですよー」

「……アホか。いいから上がれって。狭い階段でギャアギャア騒いでると近所迷惑だろ?」

「って、僕んちなんだけど!?」


 そんなしょうもないコントを繰り広げつつ、今日も今日とてお邪魔します、っと。

 にしても、佐倉君にまで手を出そうだなんて、ウチの男子マジで終わっとる。確かに佐倉君の顔立ちや仕草、声のトーンは女の子っぽいところがあるけれど。いい匂いもするし。あれ?

 ごほん、と咳払いをひとつして、慌てて馬鹿げた妄想をかき消すと、僕は麦茶とコップを持ってきた渋田に逆に尋ねてみることにした。こっちもやられっぱなしじゃ面白くないしな。


「そ、そっちこそどうなんだよ? サトチン・・・・とは? ん?」

「もっちろん、仲良しだよ!」


 ……聞いて損した。
 そうだった、こういう奴だったっけ。

 嫌味とかまるで通じないんだよなぁ。そこがこいつのいいところでもあるんだけど。


「はぁ……。まあ、いいや。それよりも……ほら、早速続きやるぞー」

「えええ……。もう少し現実逃避したかったなー」

「自分たちのためにやってることだろ? 文句言わない。じゃまずは、先攻、僕から行くぞ」



 カタカタタタタ――。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...