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第55話 ゴールデン・ウィークはキーボードの音色とともに at 1995/5/3~1995/5/7

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 待ちに待ったゴールデン・ウィークの到来だ。

 とはいったものの、僕の家庭には少々事情があって、旅行に出かける予定は一切なかった。幸運にもというか偶然にもというか、渋田家もまた両親の仕事の都合で出かける予定はゼロだということだったので、連休中は渋田家に転がり込んでコンピューターとゲーム三昧の日々を過ごすことになった。



 カタカタタタタ――。



「そういやあ、なんだか悪かったな。シブチンと咲都子に迷惑かけちゃったし」

「……ぷっ。何珍しく気なんかつかってんのさ」


 なんだか申し訳気まずくて、CRTモニターを見つめてキーボードを叩きながら僕がくらい声を出した途端、渋田はことさら明るい声で笑いながらそう言った。


「心配ないよ。結局ダッチたちとは一緒の班じゃなくなったし、組んでくれた佐々山君とか大武君とかも意外と面白い奴だったからね。女の子たちもサトチンと仲良くなれそうだから」

「でも、本当にすまん」

「……そりゃあね?」


 渋田はまだ笑い返す気になんてなれない僕を見ると、呆れたように溜息をついてみせた。


「そりゃあ正直に言えば、モリケンや河東さんと一緒に行きたかったよ、ホントは。でも、モリケンが選んだ選択肢でしょ? いいかげんな気持ちや適当に選んだわけじゃないでしょ?」


 渋田の口から飛び出した『選択肢』という単語を耳にして、しばらくぶりにここが『リトライ』の世界なのだという『事実』を思い出した。

 この僕自身がかつて経験してきた『過去』とは微妙に異なる『リトライ』の世界。
 その変化を生み出す要因は、ほかならぬ僕自身の言動・行動なのだ。



 ――タタタ。



「……真剣に考えて、悩んで悩んで悩みまくった上で、僕はああするしかない、と思ったんだ」

「そっか」


 そうぽつりと言ったきり、静かになってしまった渋田の様子をいぶかしんで視線を横に向けると、満足げに微笑んでいる顔があった。そして、僕と視線が交差すると、うん、とひとつうなずく。


「だったら許す。けど、これで一個貸しだからね?」

「うん。ありがとうな、シブチン」


 さすが、親友、か――。
 突然、激しい感情の波が押し寄せてきて、僕の胸を苦しいほど絞めつけ、目頭が熱くなった。

 それをごまかすように、CRTモニターに背を向け、目元のコリをほぐすように右手で顔を拭う仕草をする。そうでもしなければ、きっと僕は渋田の前で号泣してしまっていただろう。


「ふーっ」


 渋田所有のコンピューター『HB―F1XV』は、選択したスクリーンタイプにもよるけれど、最大色数は19,268色である。こう聞くと一瞬凄いように思えるけれど、現在主流のPC用モニターは『24ビットフルカラー』と表現されることが多い。これは『光の三原色』である『赤・青・緑』それぞれで8ビット、256段階もの表現ができるという意味で、そのかけ合わせで256の3乗、つまり16,777,216色なのだ。実に八六〇倍にもなる。

 その逆も真なりというやつで、ひさびさにレトロなコンピューターをいじると目が疲れて凝るというのもあながち嘘ではなかった。少し休むとしよう。弱々しく渋田の手にタッチする。


「よーし。交代ね。……今どのへんまで進んでる?」

「大体半分くらいかな。っていうか、僕の『PC―9801UX』で組んだ方が速そうだぜ?」

「うーん……確かに、部室にあるのも『PC―9801UX』だったもんね……。組み直す?」

「それは……さすがに……」


 二人揃って、はぁ、と溜息をつく。

 遊ぶためには、まず打ち込まなければならない。
 この時代のコンピューターあるあるである。


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