上 下
39 / 539

第39話 囲碁将棋部の幽霊部員 at 1995/4/24

しおりを挟む
 新しい週のはじまり、月曜日の朝であった。


「おはよう、モリケン」

「おはよう、古ノ森君」

「うん、おはよー。早いね、二人とも」


 登校したての僕に声をかけてきたのは純美子と咲都子だ。僕はカバンを机のフックに吊り下げながら、あれ? 純美子はともかく、咲都子ってこんなに早く来たっけ? と疑問に思う。


「それがさー? あたし、転部しようかと思ってて」

「へー。……なんでまた? っていうか、何部だったっけ?」

「バスケ部。でもねー、なんか向いてないっていうか、なんとなくこれじゃないっていうか」


 ご存知のとおり、咲都子は校内でもトップクラスの高身長女子だ。運動神経もそこそこ良かったはずだから、辞められたら女子バスケ部としては手痛い損失となるに違いない。


「で? どこか入りたい部活でもあるの?」

「それがねー。特にこれっていうのがあるわけじゃないんだなー」

「……なんだそりゃ」


 本末転倒な答えに半ば呆れて隣に座って話を聞いている純美子を見ると、やはり困ったように眉を八の字にして弱々しく微笑んでいた。すると、そうだ! と僕に尋ねてきた。


「古ノ森君って何部に入ってるの?」

「ええと、僕は――」


 あ、あれ? 何部だったっけ?
 思い出せ……思い出せ、僕!


「あー……。そ、そうそう! 囲碁将棋部だ! ……いや、です、はい」

「忘れるとかあり得ないでしょ……馬鹿なの?」

「ハハハー! ソウデスネー!」


 くっ、咲都子め……覚えてろよ。


 ただこれだけは言わせて欲しい。

 元々バレーボールクラブに入っていた僕は、中学入学時に迷うことなくバレーボール部に入部しようとした。だがしかし、当時男子バレー部は、二年先輩の牧君という巷でも名の知れた不良が仕切る悪の巣窟だったのである。その惨状を目の当たりにして、それでも入部したい、と申し出る勇気はなかった。結果、入りたくもない定員割れの囲碁将棋部に入部することになり、以降一度も顔を出さない幽霊部員に成り下がったのだ。

 過去の歴史どおりであれば、このまま僕は形だけの囲碁将棋部員として終わることになる。



 ……待てよ?



 どうせだったら、アレにチャレンジしてみてもいいんじゃないか? ラノベやアニメでよくありがちなアレ。そう、『やりたいことリスト』にも書いたアレを実行してみるチャンスだ。


「あ、あのさ、二人とも聞いてくれるかな? 実は僕、新しい部を作ろうと思ってるんだ」

「はぁ!? 新しい部活ぅ!?」

「す、すごいじゃない、古ノ森君! ……で、どういう活動をする部なの?」

「それはだな……。あ! 楽衛門センセイ! 折いってご相談があります!」


 まだ始業の時間ではないが、偶然通りかかった白衣の荻島センセイを見つけた俺は、慌ててあだ名の方で呼んでしまったことをお詫びしつつ――なんだか妙に嬉しそうだったけれど――廊下のはしっこで口早に新部活設立のアイディアを伝えてみた。


「――が――でして! それで――を――という。――あ、はい――そうですそうです!」


 なにしろ今さっき思いついたばかりなので、言いたいことがまだまとまっていなかったけれど、荻島センセイはむっつりと眉をしかめ、歌舞伎役者のように目を見開いて耳を傾けていた。


「ふむ……なるほど、ね。それはそれは面白そうですねえ。それに、新しい。未来があります」

「ありがとうございます! できれば、今日のLHRのあとにでもお時間をいただきたく――」

「はいはい。わかりましたよ、古ノ森君。そうしましょう」

「お願いします! お忙しいところありがとうございました!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...