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第37話 ギリギリセーフ? at 1995/4/21
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「ふわぁ……眠い」
ゆうべはおたのしみでしたね――いやいや、そんなことない。いつもと変わらなかったし。
正直、昨日の健康診断ではひどい目にあった。誰かに知られたら、そんなシチュエーションで『ひどい目』だとう! どの口が言っとるんじゃあああああ! と激昂する奴もいるだろう。だがしかし、実際そうだったのだから仕方がない。
『いやあ、無理言ってごめんねー。おかげで助かっちゃったわ、古ノ森君』
『お役に立ったら良かったですけど……って、なんで僕の身体を撫でまわしてるんですか!?』
『あー。疑ってるわけじゃないのよ? でもね? 女子の測定記録とかメモされてると困るし』
『してませんって……僕をなんだと思ってるんですか!』
『うーん、そうだよねー。じゃあ、そこでパンツ一丁になってもらって』
『ぜんぜん信用ねえ!?』
『……あら? あらあらあら? どうして前かがみになってそこを必死に隠してるのかな?』
『目を血走らせた変態保険医に脱衣を強要されたら、誰だってこの姿勢になりますってば!』
『まあまあ。いいから先生に全部任せて。ね?』
『謹んでお断りします帰ります帰らせてくださいいいいい!』
そんな不毛なやりとりを保険室の鈴白センセイと繰り広げつつ、なんとか脱衣抜きで無罪を証明することに成功した僕は、クラスのみんなに遅れること五分、LHR真っ最中の我が教室へと帰還することができたのだった。
「――というわけでね、部活に新たに入る人、転部する人がいたら、来週中に決めてください」
遅れて入ってきた僕に視線を向けつつ、荻島センセイが告げたそんなセリフが最後の記憶だ。
そのあとのことは……正直思い出せない。
珍しく渋田の家にも寄らずに、まっすぐ帰った……んだと思う。あまり自信はないけど。
「ふわぁ……」
「二度目」
気が緩んでいるところに急に声をかけられたので、むがむぐ言いながらあくびを飲み込んだ。
「お、脅かさないでよ、河東さん……」
「うふふふ。そんなつもりはなかったんだよ? ね、凄く疲れてるみたいだけど……大丈夫?」
純美子は控えめに笑うと、急に心配そうな顔をして左手で僕のひたいに触れようとする。その上半身をひねるような動作で、きっちりと生真面目にボタンが止められたブレザーの襟がゆるみ、緑色のリボンタイとワイシャツを押し上げている胸元が僕の目に飛び込んできた。
ナナジュウキュウテンゴ……ナナジュウキュウテンゴセンチ………………プシュー!!
「熱……ありそうだよ……?」
「うわびっくりしただだだだいじょうぶだって!!」
純美子のひんやりとした手が僕のひたいに触れている。至近距離で見る大きな瞳は宝石のようだ。でも僕は、それに見とれている余裕なんてまるでゼロで、もう身じろぎひとつすることすらできなくなってしまった。語彙力なんてとっくに消え失せた。このまま眠りにつきたい……。
「だったらいいけど……。ところで、古ノ森君? 昨日の健康診断でのウワサ、知ってる?」
「ウワサ? どんな?」
「あたしたち女子の健康診断の時にね? 保健室に忍び込んでた男子がいたらしいんだって」
「ぶっ!!」
目ぇ、覚めた!
完っ全覚醒したっ!!
「だ、大丈夫!?」
「ぶはっ!! げほげほっ……! ダ、ダイジョウブダヨーヘーキヘーキ」
「……? それでね? 緑の上履きだったらしくって、絶対二年生だー、って桃月さんが」
「ヘー! ヘー! ソウナンダー!」
「上履きに書いてあった名前まではしっかり読めなかったらしいけど……ホントに大丈夫?」
もしかして、鉛筆を拾いに行ったあの時か……!
僕は足元の滲んだマジックの文字を見る。
ゆうべはおたのしみでしたね――いやいや、そんなことない。いつもと変わらなかったし。
正直、昨日の健康診断ではひどい目にあった。誰かに知られたら、そんなシチュエーションで『ひどい目』だとう! どの口が言っとるんじゃあああああ! と激昂する奴もいるだろう。だがしかし、実際そうだったのだから仕方がない。
『いやあ、無理言ってごめんねー。おかげで助かっちゃったわ、古ノ森君』
『お役に立ったら良かったですけど……って、なんで僕の身体を撫でまわしてるんですか!?』
『あー。疑ってるわけじゃないのよ? でもね? 女子の測定記録とかメモされてると困るし』
『してませんって……僕をなんだと思ってるんですか!』
『うーん、そうだよねー。じゃあ、そこでパンツ一丁になってもらって』
『ぜんぜん信用ねえ!?』
『……あら? あらあらあら? どうして前かがみになってそこを必死に隠してるのかな?』
『目を血走らせた変態保険医に脱衣を強要されたら、誰だってこの姿勢になりますってば!』
『まあまあ。いいから先生に全部任せて。ね?』
『謹んでお断りします帰ります帰らせてくださいいいいい!』
そんな不毛なやりとりを保険室の鈴白センセイと繰り広げつつ、なんとか脱衣抜きで無罪を証明することに成功した僕は、クラスのみんなに遅れること五分、LHR真っ最中の我が教室へと帰還することができたのだった。
「――というわけでね、部活に新たに入る人、転部する人がいたら、来週中に決めてください」
遅れて入ってきた僕に視線を向けつつ、荻島センセイが告げたそんなセリフが最後の記憶だ。
そのあとのことは……正直思い出せない。
珍しく渋田の家にも寄らずに、まっすぐ帰った……んだと思う。あまり自信はないけど。
「ふわぁ……」
「二度目」
気が緩んでいるところに急に声をかけられたので、むがむぐ言いながらあくびを飲み込んだ。
「お、脅かさないでよ、河東さん……」
「うふふふ。そんなつもりはなかったんだよ? ね、凄く疲れてるみたいだけど……大丈夫?」
純美子は控えめに笑うと、急に心配そうな顔をして左手で僕のひたいに触れようとする。その上半身をひねるような動作で、きっちりと生真面目にボタンが止められたブレザーの襟がゆるみ、緑色のリボンタイとワイシャツを押し上げている胸元が僕の目に飛び込んできた。
ナナジュウキュウテンゴ……ナナジュウキュウテンゴセンチ………………プシュー!!
「熱……ありそうだよ……?」
「うわびっくりしただだだだいじょうぶだって!!」
純美子のひんやりとした手が僕のひたいに触れている。至近距離で見る大きな瞳は宝石のようだ。でも僕は、それに見とれている余裕なんてまるでゼロで、もう身じろぎひとつすることすらできなくなってしまった。語彙力なんてとっくに消え失せた。このまま眠りにつきたい……。
「だったらいいけど……。ところで、古ノ森君? 昨日の健康診断でのウワサ、知ってる?」
「ウワサ? どんな?」
「あたしたち女子の健康診断の時にね? 保健室に忍び込んでた男子がいたらしいんだって」
「ぶっ!!」
目ぇ、覚めた!
完っ全覚醒したっ!!
「だ、大丈夫!?」
「ぶはっ!! げほげほっ……! ダ、ダイジョウブダヨーヘーキヘーキ」
「……? それでね? 緑の上履きだったらしくって、絶対二年生だー、って桃月さんが」
「ヘー! ヘー! ソウナンダー!」
「上履きに書いてあった名前まではしっかり読めなかったらしいけど……ホントに大丈夫?」
もしかして、鉛筆を拾いに行ったあの時か……!
僕は足元の滲んだマジックの文字を見る。
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