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第27話 ご機嫌なアイツ at 1995/4/17
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日曜日の昨日、僕は今まで届いていた『DRR』の通知を一つ残らず確認してみた。
意外だったのは、一番大きい変化を生み出したのが、『四〇歳の僕がリトライした』だったことだ。いや、これは言い方が良くないか。驚いたのはその事実ではなく、その変動率である。
――わずか8パーセント。
歴史の流れの中ではかなり大きな変化――現実との違いのはずだと思ったのだが、それでも10パーセントにすら届いていないのだ。おかしい。どう考えても腑に落ちない。何か、ある。
ともあれ、また新しい週のはじまり、月曜日の朝だ。
「おはよう、モリケン」
「あ、おっす」
うーむ、と頭を悩ませていると、登校したての渋田が声をかけてきた。そのまま僕の前の席を借りて腰を下ろす。が、なんだか妙にニコニコしてご機嫌の様子である。少し気味が悪い。
「どした、シブチン? なんかいいことでもあったのか?」
「今日はですねー。なんと! 野方が休みなんですよねー」
……まだやってんのかよ。
すると、隣の純美子がそれに気づき、心配そうな顔付きで会話に参加してきた。
「もう、渋田君ったら! ……朝、連絡があったんだけど、咲都子ちゃん、風邪みたいなの」
「ぶほっ! 風邪!? あんな馬鹿でも風邪引くんですねえ、ウケるwww」
「おいおい、やめろっつーに。どうしてアイツのことになるといちいち突っかかるんだよ?」
「べ……別にー? 突っかかってなんかいませんけどー?」
腹立つなあ、コイツ。
渋田の丸々と福福しい顔が、いっそう輝きを増してテカテカしている。
それを見た純美子は、溜息をこぼしつつ、少し哀しそうな表情を浮かべて渋田を見つめた。
「ねえ、渋田君? そんなに咲都子ちゃんのこと、嫌い?」
「え――? べ……別に、嫌いとかそういうんじゃあ……なくて……。あのう……」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「そ、それは――」
純美子と僕からまっすぐな視線を向けられると、渋田はたちまち落ち着きを失くして視線を泳がせ始めた。が、タイミングが悪いことに、僕の前の席の主、工藤が登校してきたのをめざとく見つけ、渋田は言葉を濁したまま教室の前の、自分の席へと戻っていってしまった。
「ね? ね? 古ノ森君?」
「うん?」
「どうして渋田君が咲都子ちゃんを目の仇にしてるのか、知ってたりする?」
「それが……何度か聞いてみたんだけどさ、そのたびにああやってごまかされちゃうんだよね」
「そっか……」
純美子はなにやら思いつめたような表情を浮かべて考え込んでいる。
咲都子と純美子は、中学一年の時にはじめて同じクラスになり、それ以来、仲の良い一番の親友となった。
やがて、僕と渋田を含めたこの四人は、同じ高校――町田中央高等学校へと揃って進学することになる。
そして卒業式前日のあの日、河東純美子の一世一代の告白を手助けするために、夕暮れの西日差し込む空き教室へと僕を呼び出したのが、渋田と咲都子なのだった。ならば、ここで二人の関係が悪くなりでもしたら、未来は大きく変わってしまうに違いない。
制服のポケットの中に隠した僕の『リトライアイテム』スマホの通知設定は、昨日きちんと変えておいた。まだ変更後に一度も『DRR』からの通知はなかったけれど、もし未来を変える可能性のある『分岐点』にさしかかれば、そのタイミングで何かしらの警告が届くはずだ。
(自分のことより、まずは渋田と咲都子が抱えている問題を解決しないと……)
やがて本鈴が鳴り、一時間目の授業がはじまった。
ふと、隣の席から白くて細い手がこっそり伸びてきて、小さく折りたたまれた手紙が机の右隅にちょこりと控えめに置かれた。え? これってもしや――! と期待を胸に開けてみる。
『今日の放課後、渋田君も誘って、咲都子ちゃんのお見舞いに行ってみない? 純美子より』
意外だったのは、一番大きい変化を生み出したのが、『四〇歳の僕がリトライした』だったことだ。いや、これは言い方が良くないか。驚いたのはその事実ではなく、その変動率である。
――わずか8パーセント。
歴史の流れの中ではかなり大きな変化――現実との違いのはずだと思ったのだが、それでも10パーセントにすら届いていないのだ。おかしい。どう考えても腑に落ちない。何か、ある。
ともあれ、また新しい週のはじまり、月曜日の朝だ。
「おはよう、モリケン」
「あ、おっす」
うーむ、と頭を悩ませていると、登校したての渋田が声をかけてきた。そのまま僕の前の席を借りて腰を下ろす。が、なんだか妙にニコニコしてご機嫌の様子である。少し気味が悪い。
「どした、シブチン? なんかいいことでもあったのか?」
「今日はですねー。なんと! 野方が休みなんですよねー」
……まだやってんのかよ。
すると、隣の純美子がそれに気づき、心配そうな顔付きで会話に参加してきた。
「もう、渋田君ったら! ……朝、連絡があったんだけど、咲都子ちゃん、風邪みたいなの」
「ぶほっ! 風邪!? あんな馬鹿でも風邪引くんですねえ、ウケるwww」
「おいおい、やめろっつーに。どうしてアイツのことになるといちいち突っかかるんだよ?」
「べ……別にー? 突っかかってなんかいませんけどー?」
腹立つなあ、コイツ。
渋田の丸々と福福しい顔が、いっそう輝きを増してテカテカしている。
それを見た純美子は、溜息をこぼしつつ、少し哀しそうな表情を浮かべて渋田を見つめた。
「ねえ、渋田君? そんなに咲都子ちゃんのこと、嫌い?」
「え――? べ……別に、嫌いとかそういうんじゃあ……なくて……。あのう……」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「そ、それは――」
純美子と僕からまっすぐな視線を向けられると、渋田はたちまち落ち着きを失くして視線を泳がせ始めた。が、タイミングが悪いことに、僕の前の席の主、工藤が登校してきたのをめざとく見つけ、渋田は言葉を濁したまま教室の前の、自分の席へと戻っていってしまった。
「ね? ね? 古ノ森君?」
「うん?」
「どうして渋田君が咲都子ちゃんを目の仇にしてるのか、知ってたりする?」
「それが……何度か聞いてみたんだけどさ、そのたびにああやってごまかされちゃうんだよね」
「そっか……」
純美子はなにやら思いつめたような表情を浮かべて考え込んでいる。
咲都子と純美子は、中学一年の時にはじめて同じクラスになり、それ以来、仲の良い一番の親友となった。
やがて、僕と渋田を含めたこの四人は、同じ高校――町田中央高等学校へと揃って進学することになる。
そして卒業式前日のあの日、河東純美子の一世一代の告白を手助けするために、夕暮れの西日差し込む空き教室へと僕を呼び出したのが、渋田と咲都子なのだった。ならば、ここで二人の関係が悪くなりでもしたら、未来は大きく変わってしまうに違いない。
制服のポケットの中に隠した僕の『リトライアイテム』スマホの通知設定は、昨日きちんと変えておいた。まだ変更後に一度も『DRR』からの通知はなかったけれど、もし未来を変える可能性のある『分岐点』にさしかかれば、そのタイミングで何かしらの警告が届くはずだ。
(自分のことより、まずは渋田と咲都子が抱えている問題を解決しないと……)
やがて本鈴が鳴り、一時間目の授業がはじまった。
ふと、隣の席から白くて細い手がこっそり伸びてきて、小さく折りたたまれた手紙が机の右隅にちょこりと控えめに置かれた。え? これってもしや――! と期待を胸に開けてみる。
『今日の放課後、渋田君も誘って、咲都子ちゃんのお見舞いに行ってみない? 純美子より』
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