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第19話 楽園につながる窓 at 1995/4/10
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校門を出て横断歩道を渡ると、すぐ目の前に建っているのが渋田たち家族の暮らすトー8号棟だ。お邪魔させてもらうんだし、何か手土産を、と思ったが、中学生の僕には資金がない。
「気にしない気にしない。また遊びに来た時にでもおごってよ」
「なんだか悪いな……じゃあ、お邪魔します」
玄関で靴を脱ぎ、すぐ左手にあるのが渋田の部屋だったはずだ。思わず勝手知ったる何とやらで扉を開けそうになったが、案内してくれるまで待つ。中に入ると途端に記憶が蘇った。
「適当にそのへん座っててね。今、麦茶持ってくるから」
「うん。ありがとう」
しばし渋田の姿が見えなくなると、つい何となくでレースのカーテンがかかった窓の近くへ足が動いた。そして、そっとカーテンの陰から学校の方を見る。ほほう、やっぱりそうだ。
「探したら、クッキーがあったよ。……って! な、な、な、何してるの、モリケン!?」
「いいや、何も? ……おやおや、僕がこの窓から外を眺めたら、何かまずいのかなぁ?」
「ま――まずくはないんだけど、さ……。あ、あの……そのう……」
渋田はあきらかに動揺している様子である。
まだ純情な中学生男子だ。
しかし、純情ではあるが、それなりに好奇心旺盛な年頃でもある。
「……すみません、ここに懺悔します。そこから、ウチの女子運動部の更衣室が覗けるのです」
「ほう?」
「ま、毎日は覗いてません! たまたまっ! たまたま見えちゃった時だけ見てたりします!」
こいつ、別にキリスト教徒でもなんでもなかったはずなんだけど。懺悔ってなんだよ。
「ふむ……いや、別に悪いことではないのじゃないかね、少年? それにだ……覗く者が悪いのではなく、覗けるようになってしまっている更衣室が悪いのだし、覗かれてもいいかのようにカーテンも閉めずに着替えて誘惑する、あの女子連中こそが悪いのだ。そうは思わんかね?」
「なる……ほど……! た、確かにおっしゃるとおりですね……!!」
なに、なんなのこの茶番。
二人とも糞真面目にノリノリなので、もはやコントである。
僕はもう一度カーテンの陰から体育館二階にある女子更衣室に視線を向け、バスケ部らしき女子たちが練習用ウェアに着替えている光景をそっと静かに、息をひそめて見守りつつ呟いた。
「しかしだ……このことは我らだけの秘密にしておいた方がいい。いいね? そしてだ……双眼鏡や望遠鏡――そういったものがあれば、ここから見える景色は一層素晴らしくなるだろう」
「そちらは現在計画進行中です。しかし……まだわずかに資金が足りず」
「計画実現のためならば、私も出資する準備がある。ぜひ協力させて欲しい」
「はっ。ありがたき幸せ」
もー馬鹿だなあ、僕たちお年頃の男子って。
大体着替えったって、ほとんどの運動部の女子があらかじめスカートの下にブルマーを履いてるわけで、さらにはワイシャツの下にも部活用のTシャツを重ね着してるわけで。要するに制服を一、二枚脱ぎ捨てて部活姿に変身するだけという見どころ皆無の光景でしかないのに。
でもね、意外とそれだけで満足しちゃうのよ。
なにせピュアな中学生男子なんですもん。
「とまあ、小芝居はこれくらいにして、と。実はさ、シブチン。僕には好きな子がいるんだ」
「えええ!? もう!? って! 誰ぇ!?」
リアクション王か。ま、お前にとっては、新しいクラスになってまだ二日目なんだっけな。
でも、こっちにしたら、もう二〇数年は余裕でこじらせてる想いなんだよ。
「僕の隣の席の子――河東純美子」
渋田は片方の眉を引き上げると、腕を組み天井を睨みつけてしばし考え込んだ。
無理もないだろう。自分の隣の席にいる女子の顔と名前すら、まだうろ覚えに違いない。
「へ、へー……。も、もしかして……相談したい、って、そのことと関係あったりするの?」
「ああ。僕はこの一年間のうちに、彼女への告白を成功させたい。手伝ってくれるだろ?」
「気にしない気にしない。また遊びに来た時にでもおごってよ」
「なんだか悪いな……じゃあ、お邪魔します」
玄関で靴を脱ぎ、すぐ左手にあるのが渋田の部屋だったはずだ。思わず勝手知ったる何とやらで扉を開けそうになったが、案内してくれるまで待つ。中に入ると途端に記憶が蘇った。
「適当にそのへん座っててね。今、麦茶持ってくるから」
「うん。ありがとう」
しばし渋田の姿が見えなくなると、つい何となくでレースのカーテンがかかった窓の近くへ足が動いた。そして、そっとカーテンの陰から学校の方を見る。ほほう、やっぱりそうだ。
「探したら、クッキーがあったよ。……って! な、な、な、何してるの、モリケン!?」
「いいや、何も? ……おやおや、僕がこの窓から外を眺めたら、何かまずいのかなぁ?」
「ま――まずくはないんだけど、さ……。あ、あの……そのう……」
渋田はあきらかに動揺している様子である。
まだ純情な中学生男子だ。
しかし、純情ではあるが、それなりに好奇心旺盛な年頃でもある。
「……すみません、ここに懺悔します。そこから、ウチの女子運動部の更衣室が覗けるのです」
「ほう?」
「ま、毎日は覗いてません! たまたまっ! たまたま見えちゃった時だけ見てたりします!」
こいつ、別にキリスト教徒でもなんでもなかったはずなんだけど。懺悔ってなんだよ。
「ふむ……いや、別に悪いことではないのじゃないかね、少年? それにだ……覗く者が悪いのではなく、覗けるようになってしまっている更衣室が悪いのだし、覗かれてもいいかのようにカーテンも閉めずに着替えて誘惑する、あの女子連中こそが悪いのだ。そうは思わんかね?」
「なる……ほど……! た、確かにおっしゃるとおりですね……!!」
なに、なんなのこの茶番。
二人とも糞真面目にノリノリなので、もはやコントである。
僕はもう一度カーテンの陰から体育館二階にある女子更衣室に視線を向け、バスケ部らしき女子たちが練習用ウェアに着替えている光景をそっと静かに、息をひそめて見守りつつ呟いた。
「しかしだ……このことは我らだけの秘密にしておいた方がいい。いいね? そしてだ……双眼鏡や望遠鏡――そういったものがあれば、ここから見える景色は一層素晴らしくなるだろう」
「そちらは現在計画進行中です。しかし……まだわずかに資金が足りず」
「計画実現のためならば、私も出資する準備がある。ぜひ協力させて欲しい」
「はっ。ありがたき幸せ」
もー馬鹿だなあ、僕たちお年頃の男子って。
大体着替えったって、ほとんどの運動部の女子があらかじめスカートの下にブルマーを履いてるわけで、さらにはワイシャツの下にも部活用のTシャツを重ね着してるわけで。要するに制服を一、二枚脱ぎ捨てて部活姿に変身するだけという見どころ皆無の光景でしかないのに。
でもね、意外とそれだけで満足しちゃうのよ。
なにせピュアな中学生男子なんですもん。
「とまあ、小芝居はこれくらいにして、と。実はさ、シブチン。僕には好きな子がいるんだ」
「えええ!? もう!? って! 誰ぇ!?」
リアクション王か。ま、お前にとっては、新しいクラスになってまだ二日目なんだっけな。
でも、こっちにしたら、もう二〇数年は余裕でこじらせてる想いなんだよ。
「僕の隣の席の子――河東純美子」
渋田は片方の眉を引き上げると、腕を組み天井を睨みつけてしばし考え込んだ。
無理もないだろう。自分の隣の席にいる女子の顔と名前すら、まだうろ覚えに違いない。
「へ、へー……。も、もしかして……相談したい、って、そのことと関係あったりするの?」
「ああ。僕はこの一年間のうちに、彼女への告白を成功させたい。手伝ってくれるだろ?」
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