18 / 539
第18話 よろしくな、相棒 at 1995/4/10
しおりを挟む
「えええ!? 凄いよ、モリケン君! それ、マイコンBASICマガジンに出してみたら?」
「しっ! 声が大きいって、渋田!」
まだどこかぎくしゃくとしている教室の中で、突如響き渡った悲鳴に似たその叫び声はたちまちクラスの注目を集めてしまい、興奮しまくりで鼻息を荒くする渋田の口を強引に塞いだ僕。
「モ、モガ……ッ!? ……ぶふぅ。ご、ごめん、モリケン君。あまりにも驚いちゃったから」
「い、いや、いいって」
渋田がこれほどまでに驚いたその訳は――なんのことはない、ただ僕が今まで作り上げてきたゲームやソフトについて軽く話しただけだ。しかし、頭の中の知識と技術を駆使して、ただ一人のチカラで開発したということが、渋田にはとてつもない偉業か何かに思えたのだろう。
にしても『マイコンBASICマガジン』か。
通称『ベーマガ』。涙が出るほど懐かしい。
「それより『モリケン君』ってのは無しだぞ? ただの『モリケン』でいいんだからな」
「そ、そっか。ご、ごめんね、モリケン。僕の方も『シブチン』って呼び捨てでいいよ」
「オッケー。これからよろしくな、シブチン」
当時渋田は、SONY社製MSX2+規格コンピューター『HB―F1XV』を持っていた。
……と書かれても大部分の連中から見ればなんのことやらだろうから少し解説しておく。
そもそも『MSX』というのは、一九八三年にマイクロソフトとアスキーが提唱したパソコンの共通規格の名称だ。そして一九九〇年には、その販売総台数は全世界累計で四〇〇万台を突破する。いわば『一時代を築き上げた』どえらいパソコンなのだ。
これでもわかりづらければ、今でいうWindowsとかMacみたいなモンの一つくらいに思っておけばいい。その『MSX』の中にもさらに複数の規格があって、その中の一つが『MSX2+』だ、ということなのだ。
「でもさ、モリケン。『PC―9801UX』持ってるって言ってたけど、あれって完全オトナ向けのビジネスモデルだから、本体だけでも三〇万円近くするよね!? それに、カラーCRTモニターなんて二〇万は軽くするじゃんか。その叔父さん、よくタダでくれたねー?」
「発売当時は三五万くらいしたんだ、って叔父さん、言ってたな」
泰之叔父さん――お袋の親違いの弟で、僕のことを弟のように可愛がってくれた。あの人がいなかったら僕はきっとコンピューターと出会うことはなかった。だが――今はもういない。
「千葉で農業やってる人なんだけど、これからの時代は農家もコンピューターを使いこなして研究・分析しないと生き残れない、ってのが持論でさ。長年使ってたんだけど、ちょうど五年経ってWindows3.1が出たろ? それで、乗り替えることにしたからお前に譲るって」
「そっかー。……でも、見る目あるよねー、その叔父さん」
――そうだった。
僕は渋田のそのセリフを耳にしたとたん、過去に経験した一シーンを追体験することになる。
「モリケンならきっと『98』をもっとうまく使いこなせるはず、って思ったんだよ、きっと」
そうだった――瞬間的にそうこたえた渋田の感性に、ひがんだりうらやんだりすることなく、まだ会って間もないこの僕と、ただ一方的に話を聞かされただけの見ず知らずの僕の叔父のことまでをある種盲目的に信じてくれて、率直に公正な評価を下してくれた、その渋田の飾り気のない素直な言葉から、彼の魂の本質を感じとったのだ。だからだ。
だからこいつは、僕にとってかけがえのないただ一人の『相棒』なんだ。
「……ありがとな」
「え? え? なんか言った?」
「い、言ってないって、なにも。それよりさ――」
くっそ。
こちとら中身は四〇歳で、歳相応に涙もろいんだって。ふざけんなよ、もう。
「お前んち、親ふたりとも共働きで昼間はいないんだろ? さっそく遊びに行ってもいいか」
「いいよ! もちろん! もっと話したいしね」
よし、とうなずき、僕たちは帰り支度を始める。僕は一足先に準備を終えて鞄を担いだ。
「これから長い付き合いになるお前に、相談したいことがあってさ。頼りにしてるぜ、相棒」
「しっ! 声が大きいって、渋田!」
まだどこかぎくしゃくとしている教室の中で、突如響き渡った悲鳴に似たその叫び声はたちまちクラスの注目を集めてしまい、興奮しまくりで鼻息を荒くする渋田の口を強引に塞いだ僕。
「モ、モガ……ッ!? ……ぶふぅ。ご、ごめん、モリケン君。あまりにも驚いちゃったから」
「い、いや、いいって」
渋田がこれほどまでに驚いたその訳は――なんのことはない、ただ僕が今まで作り上げてきたゲームやソフトについて軽く話しただけだ。しかし、頭の中の知識と技術を駆使して、ただ一人のチカラで開発したということが、渋田にはとてつもない偉業か何かに思えたのだろう。
にしても『マイコンBASICマガジン』か。
通称『ベーマガ』。涙が出るほど懐かしい。
「それより『モリケン君』ってのは無しだぞ? ただの『モリケン』でいいんだからな」
「そ、そっか。ご、ごめんね、モリケン。僕の方も『シブチン』って呼び捨てでいいよ」
「オッケー。これからよろしくな、シブチン」
当時渋田は、SONY社製MSX2+規格コンピューター『HB―F1XV』を持っていた。
……と書かれても大部分の連中から見ればなんのことやらだろうから少し解説しておく。
そもそも『MSX』というのは、一九八三年にマイクロソフトとアスキーが提唱したパソコンの共通規格の名称だ。そして一九九〇年には、その販売総台数は全世界累計で四〇〇万台を突破する。いわば『一時代を築き上げた』どえらいパソコンなのだ。
これでもわかりづらければ、今でいうWindowsとかMacみたいなモンの一つくらいに思っておけばいい。その『MSX』の中にもさらに複数の規格があって、その中の一つが『MSX2+』だ、ということなのだ。
「でもさ、モリケン。『PC―9801UX』持ってるって言ってたけど、あれって完全オトナ向けのビジネスモデルだから、本体だけでも三〇万円近くするよね!? それに、カラーCRTモニターなんて二〇万は軽くするじゃんか。その叔父さん、よくタダでくれたねー?」
「発売当時は三五万くらいしたんだ、って叔父さん、言ってたな」
泰之叔父さん――お袋の親違いの弟で、僕のことを弟のように可愛がってくれた。あの人がいなかったら僕はきっとコンピューターと出会うことはなかった。だが――今はもういない。
「千葉で農業やってる人なんだけど、これからの時代は農家もコンピューターを使いこなして研究・分析しないと生き残れない、ってのが持論でさ。長年使ってたんだけど、ちょうど五年経ってWindows3.1が出たろ? それで、乗り替えることにしたからお前に譲るって」
「そっかー。……でも、見る目あるよねー、その叔父さん」
――そうだった。
僕は渋田のそのセリフを耳にしたとたん、過去に経験した一シーンを追体験することになる。
「モリケンならきっと『98』をもっとうまく使いこなせるはず、って思ったんだよ、きっと」
そうだった――瞬間的にそうこたえた渋田の感性に、ひがんだりうらやんだりすることなく、まだ会って間もないこの僕と、ただ一方的に話を聞かされただけの見ず知らずの僕の叔父のことまでをある種盲目的に信じてくれて、率直に公正な評価を下してくれた、その渋田の飾り気のない素直な言葉から、彼の魂の本質を感じとったのだ。だからだ。
だからこいつは、僕にとってかけがえのないただ一人の『相棒』なんだ。
「……ありがとな」
「え? え? なんか言った?」
「い、言ってないって、なにも。それよりさ――」
くっそ。
こちとら中身は四〇歳で、歳相応に涙もろいんだって。ふざけんなよ、もう。
「お前んち、親ふたりとも共働きで昼間はいないんだろ? さっそく遊びに行ってもいいか」
「いいよ! もちろん! もっと話したいしね」
よし、とうなずき、僕たちは帰り支度を始める。僕は一足先に準備を終えて鞄を担いだ。
「これから長い付き合いになるお前に、相談したいことがあってさ。頼りにしてるぜ、相棒」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件
木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか?
■場所 関西のとある地方都市
■登場人物
●御堂雅樹
本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。
●御堂樹里
本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。
●田中真理
雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる