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第18話 よろしくな、相棒 at 1995/4/10

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「えええ!? 凄いよ、モリケン君! それ、マイコンBASICベーシックマガジンに出してみたら?」

「しっ! 声が大きいって、渋田!」


 まだどこかぎくしゃくとしている教室の中で、突如響き渡った悲鳴に似たその叫び声はたちまちクラスの注目を集めてしまい、興奮しまくりで鼻息を荒くする渋田の口を強引にふさいだ僕。


「モ、モガ……ッ!? ……ぶふぅ。ご、ごめん、モリケン君。あまりにも驚いちゃったから」

「い、いや、いいって」


 渋田がこれほどまでに驚いたその訳は――なんのことはない、ただ僕が今まで作り上げてきたゲームやソフトについて軽く話しただけだ。しかし、頭の中の知識と技術を駆使して、ただ一人のチカラで開発したということが、渋田にはとてつもない偉業か何かに思えたのだろう。

 にしても『マイコンBASICマガジン』か。
 通称『ベーマガ』。涙が出るほど懐かしい。


「それより『モリケン君』ってのは無しだぞ? ただの『モリケン』でいいんだからな」

「そ、そっか。ご、ごめんね、モリケン。僕の方も『シブチン』って呼び捨てでいいよ」

「オッケー。これからよろしくな、シブチン」


 当時渋田は、SONY社製MSX2+規格コンピューター『HB―F1XV』を持っていた。


 ……と書かれても大部分の連中から見ればなんのことやらだろうから少し解説しておく。


 そもそも『MSX』というのは、一九八三年にマイクロソフトとアスキーが提唱したパソコンの共通規格の名称だ。そして一九九〇年には、その販売総台数は全世界累計で四〇〇万台を突破する。いわば『一時代を築き上げた』どえらいパソコンなのだ。

 これでもわかりづらければ、今でいうWindowsとかMacみたいなモンの一つくらいに思っておけばいい。その『MSX』の中にもさらに複数の規格があって、その中の一つが『MSX2+』だ、ということなのだ。


「でもさ、モリケン。『PC―9801UX』持ってるって言ってたけど、あれって完全オトナ向けのビジネスモデルだから、本体だけでも三〇万円近くするよね!? それに、カラーCRTモニターなんて二〇万は軽くするじゃんか。その叔父さん、よくタダでくれたねー?」

「発売当時は三五万くらいしたんだ、って叔父さん、言ってたな」


 泰之やすゆき叔父さん――お袋の親違いの弟で、僕のことを弟のように可愛がってくれた。あの人がいなかったら僕はきっとコンピューターと出会うことはなかった。だが――今はもういない。


「千葉で農業やってる人なんだけど、これからの時代は農家もコンピューターを使いこなして研究・分析しないと生き残れない、ってのが持論でさ。長年使ってたんだけど、ちょうど五年経ってWindows3.1が出たろ? それで、乗り替えることにしたからお前に譲るって」

「そっかー。……でも、見る目あるよねー、その叔父さん」


 ――そうだった。
 僕は渋田のそのセリフを耳にしたとたん、過去に経験した一シーンを追体験することになる。


「モリケンならきっと『98』をもっとうまく使いこなせるはず、って思ったんだよ、きっと」


 そうだった――瞬間的にそうこたえた渋田の感性に、ひがんだりうらやんだりすることなく、まだ会って間もないこの僕と、ただ一方的に話を聞かされただけの見ず知らずの僕の叔父のことまでをある種盲目的に信じてくれて、率直に公正な評価を下してくれた、その渋田の飾り気のない素直な言葉から、彼の魂の本質を感じとったのだ。だからだ。

 だからこいつは、僕にとってかけがえのないただ一人の『相棒』なんだ。


「……ありがとな」

「え? え? なんか言った?」

「い、言ってないって、なにも。それよりさ――」


 くっそ。
 こちとら中身は四〇歳で、歳相応に涙もろいんだって。ふざけんなよ、もう。


「お前んち、親ふたりとも共働きで昼間はいないんだろ? さっそく遊びに行ってもいいか」

「いいよ! もちろん! もっと話したいしね」


 よし、とうなずき、僕たちは帰り支度を始める。僕は一足先に準備を終えてかばんを担いだ。


「これから長い・・付き合い・・・・になるお前に、相談したいことがあってさ。頼りにしてるぜ、相棒」


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