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第14話 帰省に限りなく近い帰宅 at 1995/4/7

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「はぁあああ……。中学生ってこんなに疲れるモンだったっけ……?」


 やっとのことで実家――いや、自宅へと帰ってきた僕は、制服姿のまま、部屋の隅に重ねてあった座布団の山に身を任せるように、どぶり、と倒れこんだ。

正 直、大したことはしていない。けれど、神経をとがらせたまま安ぐヒマもないっていうのは疲労感とストレスがケタ違いだ。昇降口に貼り出されたクラスごとに集まり体育館へと移動して、校長先生のありがたーいお話を拝聴したあと再び教室に戻ると、一年間お世話になる担任から軽めのトークをちょうだいし、全員に今年度新たに使用することになる教材を配布されたところで晴れて釈放、ようやく下校の時刻と相成った。いやいや、意外と拘束時間長かった。

 しかし、校長先生からのありがたいお話っていう奴は、どうしてこうも長ったらしくて要領を得ないのか。無理して時事ネタとか盛り込まなくたっていいのに、と思わずにいられない。


 確かにこの『一九九五年』という年は、のちの人々の記憶に深く刻まれた一年だった。


 一月十七日には、六四三四人が死亡・約四四〇〇〇人の負傷者を記録した未曽有みぞうの大災害、阪神・淡路大震災が起こった。そして三月二〇日には、それまで『関わらない方が良さそうな怪しげな連中』程度の認識にすぎなかった宗教団体・オウム真理教による化学兵器を用いた同時多発テロ『地下鉄サリン事件』が起こり、十三人が死亡。約六〇〇〇人が重軽傷を負った。

 しかしだ。

 たかが駆け出しの中学生に、これら悲劇を将来の教訓、かてとしなさい、と言って聞かせたところでどこまで響くものか。そもそも『対岸の火事』のごとくでまるきり他人事ひとごとだと思っている連中なわけで、『俺だったらワンパンだし』とイキるのがせいぜいだろう。

 なぜそんなにも僕が緊張感を漂わせていたのかといえば、四十二→四十三となったクラスメイトたちの、懐かしくも苦々しい思い出残る顔ぶれの中から『見慣れない』ひとりを探し出すのに必死だったのだ。が……改めて、人の記憶ってアテにならんものだと思い知らされた。

 男子くらいわかるだろ余裕w、とたかをくくっていたのだけど、それでも顔と名前が一致したのは特に印象に残っていた七、八名だけ。女子に至ってはさらに減って四、五名という有様。つまり総勢四十三名のうち、確かにこいつはこの学年で同じクラスだったと断定できたのは、三分の一以下だったわけだ。かえすがえすも卒アルをチェックしなかったことが悔やまれる。


「でも……やっぱいるんだよなあ……」


 当然といえば当然だが、あの河東純美子もその『断定できた』中に含まれていたわけだ。しかも、よりによって僕の隣の席にいるのである。まあ知ってたけど。なお、出席番号順の賜物だ。思えばまだこの当時は『隣の席の物静かな文学少女』という認識でしかなかったっけ。


 ……いかんいかん。
 一旦忘れよう。


「つーか、教科書ってこんなにあったっけ? これ、多すぎるだろ……重いし、かさばるし」


 最近は何をするにもデジタルデータで済ませてきた僕は、HRホームルーム後に配布された教材の数とその重さに辟易していた。そもそも紙だし、十三冊もある。しかも、一年の時の教科書や副読本のうち十二冊は継続して使うらしい。すべて合わせれば、計二十五冊ときた。図書館かよ。


「ま、これはいいや。とりあえずこの土日のうちに、きちんと作戦を立てておかないとな」


 金曜日の昼なので親父もお袋も仕事で留守だ。ひとりごとを呟こうが、怪しまれも病院に連れて行かれもしない。ようやく一人になれたのでホッとするあまりぶつぶつ言いっ放しだ。それは一九九五年にタイムリープしたのだという現実感に欠ける実状と、一年後には元の時間に戻れる、どう好きなようにふるまおうが歴史の変革は起こらない、という謎の女――時巫女・セツナの信憑性に欠けたセリフのせいで、もうぐっちゃぐちゃに混乱していたからでもある。


 ――そう、ついさっきまでは。


「ふン。だったらこっちも好き勝手にやらしてもらうからな。あの頃できなかったこと全部」


 すでに『僕がここにいること』そのものが過去と乖離かいりしているというのであれば、記憶をたぐってひとつひとつ正確に、ていねいになぞるだとか、考えるだけで馬鹿々々しいし無駄だ。


(あの頃からやりなおせれば絶対にうまくやれる、もう一度、あの頃から――)


 ああ、やってやる。
 二周目は勝ち組になって、甘酸っぱいアオハルを精一杯謳歌してやる。


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