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第二十四話 公認
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「次はどちらに参りましょうか、麻央様――」
「あの……ちょっといいですか、ルュカさん」
さえぎるように突き出されたあたしの手を、ルュカさんは少し驚いたような表情で見つめた。
ちなみに、このルュカさんだけはあたしのことを『お嬢』ではなく『麻央様』と呼んでくれる。
ありがたいんだけれど……。
やっぱそれもちょっと違う気がするんだよね。
「何かお気にさわったことでもありましたか?」
「そうじゃないんです。そうじゃなくて――」
気持ちをうまく言葉にできるか分からなかったけど、考えに考え抜いてから言葉を口に出した。
「あのですね。あたし、ちょっと思ってたのと違うなーって思ってるんです。今の自分」
「と、おっしゃいますと?」
「今のあたし……完全にお客様扱いされてる気がするんですけど。違いますか?」
「そ、それは――」
ルュカさんはいつもの冷静そのものの仮面を端正な顔に張り付かせていたものの、一瞬だけ反らされた視線があたしの指摘が正しいことを証明してしまっていた。あたしは答えに迷うルュカさんをさらに問い質した。
「あたし、これでも真剣ですよ? これからの《悪の掟》をどうしたら良いか、みんなが楽しく幸せに過ごせるようにするには何をしたらいいか、あたしなりに真面目に考えてるつもりなんです。だってあたしは、二代目アーク・ダイオーンなんですから」
思わず止めた息をルュカさんは、ふうっ、とつき、ことさらていねいにあたしに向けて会釈をした。
「……とんだご無礼をいたしました、麻央様。いえ、アーク・ダイオーン様」
「わわわ! 分かってもらえたらいいんですっ!」
そこまでされると逆に気をつかう。慌ててルュカさんの両肩を掴むと、苦痛に満ちた上目遣いに、ね?と小首を傾げるようにうなずいてあげた。
「あたし、ちゃんと教えて欲しいんです。今の財政状況とか、皆さんの活動状況の進捗とかも」
「承知しました。ご意思のままに」
「あと、この前の、し、襲名披露? の後、八名の構成員さんたちの姿が見当たりませんよね? ルュカさんは、彼らがどこに行ったのか知っているんですか?」
ルュカさんが息を呑んだのが分かる。
そして、あきらめと溜息とともに答えが返ってきた。
「そこまで御存知だったとは、本当に私は参謀失格ですね。……アーク・ダイオーン様のおっしゃるとおり、ゴールデン・タウロを筆頭にした八名の構成員が施設を無断で出て行きました。行方は目下捜索中です」
「何としても見つけてください。お願いします」
「承知いたしました」
ルュカさんはうやうやしく一礼したが、
「あの……ひとつ、よろしいでしょうか?」
「はい?」
苦虫を噛み潰したよう、とはこの表情だろう。
物凄く言いづらそうに、ルュカさんはこう告げた。
「あのですね……やはりそのように愛らしいお姿をされていては、なかなか皆もアーク・ダイオーン様とお呼びづらいと思うのです。執務の際には、例の指輪をお使いになられた方がよろしいかと進言します」
「ソ、ソウデスカ」
意外な提案に腰が引けつつも、それはあたし自身も感じていたかすかな違和感の正体だった。
うん、とうなずくあたし。
「じゃあ、こうしましょう。アバター姿の時には、あたしのことをアーク・ダイオーンと呼んでください。あたし自身のままの姿の時は……ええと……お嬢、とかでしたっけ?」
「ええ。それがよろしいかと」
ルュカさんは相好を崩して満足気に微笑んだ。
結果的に公認しちゃったけど、ま、いっかー……。
「あの……ちょっといいですか、ルュカさん」
さえぎるように突き出されたあたしの手を、ルュカさんは少し驚いたような表情で見つめた。
ちなみに、このルュカさんだけはあたしのことを『お嬢』ではなく『麻央様』と呼んでくれる。
ありがたいんだけれど……。
やっぱそれもちょっと違う気がするんだよね。
「何かお気にさわったことでもありましたか?」
「そうじゃないんです。そうじゃなくて――」
気持ちをうまく言葉にできるか分からなかったけど、考えに考え抜いてから言葉を口に出した。
「あのですね。あたし、ちょっと思ってたのと違うなーって思ってるんです。今の自分」
「と、おっしゃいますと?」
「今のあたし……完全にお客様扱いされてる気がするんですけど。違いますか?」
「そ、それは――」
ルュカさんはいつもの冷静そのものの仮面を端正な顔に張り付かせていたものの、一瞬だけ反らされた視線があたしの指摘が正しいことを証明してしまっていた。あたしは答えに迷うルュカさんをさらに問い質した。
「あたし、これでも真剣ですよ? これからの《悪の掟》をどうしたら良いか、みんなが楽しく幸せに過ごせるようにするには何をしたらいいか、あたしなりに真面目に考えてるつもりなんです。だってあたしは、二代目アーク・ダイオーンなんですから」
思わず止めた息をルュカさんは、ふうっ、とつき、ことさらていねいにあたしに向けて会釈をした。
「……とんだご無礼をいたしました、麻央様。いえ、アーク・ダイオーン様」
「わわわ! 分かってもらえたらいいんですっ!」
そこまでされると逆に気をつかう。慌ててルュカさんの両肩を掴むと、苦痛に満ちた上目遣いに、ね?と小首を傾げるようにうなずいてあげた。
「あたし、ちゃんと教えて欲しいんです。今の財政状況とか、皆さんの活動状況の進捗とかも」
「承知しました。ご意思のままに」
「あと、この前の、し、襲名披露? の後、八名の構成員さんたちの姿が見当たりませんよね? ルュカさんは、彼らがどこに行ったのか知っているんですか?」
ルュカさんが息を呑んだのが分かる。
そして、あきらめと溜息とともに答えが返ってきた。
「そこまで御存知だったとは、本当に私は参謀失格ですね。……アーク・ダイオーン様のおっしゃるとおり、ゴールデン・タウロを筆頭にした八名の構成員が施設を無断で出て行きました。行方は目下捜索中です」
「何としても見つけてください。お願いします」
「承知いたしました」
ルュカさんはうやうやしく一礼したが、
「あの……ひとつ、よろしいでしょうか?」
「はい?」
苦虫を噛み潰したよう、とはこの表情だろう。
物凄く言いづらそうに、ルュカさんはこう告げた。
「あのですね……やはりそのように愛らしいお姿をされていては、なかなか皆もアーク・ダイオーン様とお呼びづらいと思うのです。執務の際には、例の指輪をお使いになられた方がよろしいかと進言します」
「ソ、ソウデスカ」
意外な提案に腰が引けつつも、それはあたし自身も感じていたかすかな違和感の正体だった。
うん、とうなずくあたし。
「じゃあ、こうしましょう。アバター姿の時には、あたしのことをアーク・ダイオーンと呼んでください。あたし自身のままの姿の時は……ええと……お嬢、とかでしたっけ?」
「ええ。それがよろしいかと」
ルュカさんは相好を崩して満足気に微笑んだ。
結果的に公認しちゃったけど、ま、いっかー……。
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