22 / 45
第二十二話 二代目襲名
しおりを挟む
「うぇええええええええええええええええっ!?」
「え……えっと……」
耳を聾する悲鳴に似た叫びにかき消されそうなか細い声で、あたしははじめてあたし自身の声で皆に語りかけた。
「こ、これがあたし、真野麻央と言います」
「じ、JSじゃないッスか!」
ち、ちょっとっ!
そりゃあいろいろと足りない部分あるけどさ!
「ち、中学二年生ですっ! 失礼ですよ、抜丸さんってばっ!」
「す、すんません……い、いやいや! でも……!」
みんなの視線があたしに集まり、じろじろと穴の開くほど見つめられているのが嫌でもわかった。気恥ずかしくなり真っ赤になってもじもじと身をよじっていると、隣から助けの声がかかった。
「なるほど。しかし先程、私は私で、かつての私ではない、とおっしゃられていたかと思いますが、それは一体……?」
「はい」
あたしはルュカさんの変わらない優しい声にうなずき返した。
「みなさんが知っていたアーク・ダイオーンは、あたしのおじいちゃん――真野銀次郎だったみたいなんです。あのですね……この前……死んじゃいました。九十六歳で」
「そう……だったのですね」
僅かに言葉を詰まらせたルュカさんは中腰になってあたしの目線まで姿勢を低くすると、悲しそうにこう言った。
「それは……本当に残念です。麻央様も、さぞやお辛かったことでしょう」
「はい。大好きなおじいちゃんでしたから」
あたしは思わず涙ぐみそうになりながらも、まずはみんなに向けて説明を続けることにした。
「このVRゴーグルと指輪は、アーク・ダイオーンになるために必要な物だったみたいなんです。最後に銀じいは、あたしにこれを残していきました。すきにしな――そんなメッセージを添えて。あたしは銀じいの残してくれたこれが何なのかを知りたくて、偶然にも皆さんの前に姿を見せることになって、あの日、調子に乗ってあんな大それた演説までしてしまって……」
「ふむ」
ルュカさんはうなずいたものの、まだ半信半疑のようだった。
とたんに、ざわざわ、と大広間が騒がしくなった。
「た、確かに、最初は興味本位のところもありましたよ? それは否定しませんけど――!」
あたしは慌てたようにわたわたと必死で訴えた。
「で、でもっ! 皆さんをからかおうだとか騙してやろうだなんて一度も思ってませんから! その場限りの嘘なんて言ったつもりはありません、全部、あたしの本当の気持ちです! だって、みなさんは良い人たちばっかりじゃないですか! それなのに……可哀想です! よっぽど裁かれるべきなのは、正義のフリをした悪の方なのに! 全くわかってない!」
ふるふる、と首を何度も振って続ける。
「あの官房長官だって大悪党だったじゃないですか! 自業自得です! いい気味! この前もあたしの親――友達がこう言い出してきて、もう頭に来ちゃって絶賛喧嘩中なんです! だって、正義は必ず正しくて、悪はどこまで行っても悪だって言ったんですよ!? ちっともわかってないんだから! 馬っ鹿みたい!」
思い出したらとたんに言葉がすらすらと飛び出してきた。
「悪いことするから悪? そんな訳ない! 悪は誰かが決めることじゃないもん! 自分が悪だと心に決めたら悪なんですっ! そう強く思う意志と志でしょ!? なのに、誰かが言ったから、大人が言ったから悪だって決めつけるだなんて、そんなの思考停止です! それこそ悪のすることですっ!」
しん、と静まり返った後、
「うわっはっはっはっは――!!」
大広間は弾けたように笑いと歓声に包まれた。
「あ、あれ……? みなさん、どうしたんです?」
ぜいぜいと肩で息をつぎながら、隣で身を折るようにしてくすくすと笑い続けているルュカさんに尋ねると、息も絶え絶えにこう答えてくれた。
「ああ、おかしい! いや、いかにもあの方のお孫さんだなと思いまして……くくく……!」
「そ……そうなんです?」
「いや、まさにアーク・ダイオーン様の名を継ぐ者にふさわしい御言葉だと思いましたよ!」
息を整えてから冷静さを取り戻して大広間に集まった皆の顔を一人一人観察すると、どれもこれも楽しそうで、少なくとも怒ったり気分を損ねている訳ではないように思えた。ちょっぴりホッとするあたし。
徐々に静まりゆく大広間を見つめていたあたしは、改めてみんなに向けてこう尋ねた。
「あの……あたし、どうしたらいいんでしょう?」
なかなか答えは返ってこない。
隣同士で顔を見合わせ、無言で首をひねっている。
そこで突然、誰かがこう叫ぶのが聴こえた。
「よっ、二代目! これからもお願いするッス!」
ぬ、抜丸さん……?
チャラくないですか、それぇえええ!
「二代目……」
「それは良いかもしれんな」
やだやだっ!
このままだと決まっちゃう!
次々と広がっていく声を阻止しなければ!
「に、二代目って、ヤクザみたいで嫌ですっ!」
「では……お嬢、というのはいかがか?」
き、鬼人武者さん……?
それ、あんま変わんないですぅううう!
「お嬢! いいッスね、それ! 決まりッス!」
決まってない!
「お嬢、可愛い……! そして、可憐だ……!」
決まってません!
悪い気はしないけど、駄目ぇえええ!
「お・嬢! はいっ!」
「お・嬢! はいっ!」
「お・嬢! はいっ!」
あー……これ、決まった流れだわー……。
大広間を揺るがす「お嬢」コールの中、あたしは曖昧に微笑んで手を振ることしかもうできなかった。
こうしてあたしは正式に、二代目アーク・ダイオーンになったのだった。
そして――。
「ち――。俺は認めねえ……認めねえかンな……」
少しばかり浮かれていたあたしは、そうつぶいて大広間を後にする彼らの姿を完璧に見落としていたのだった。
「え……えっと……」
耳を聾する悲鳴に似た叫びにかき消されそうなか細い声で、あたしははじめてあたし自身の声で皆に語りかけた。
「こ、これがあたし、真野麻央と言います」
「じ、JSじゃないッスか!」
ち、ちょっとっ!
そりゃあいろいろと足りない部分あるけどさ!
「ち、中学二年生ですっ! 失礼ですよ、抜丸さんってばっ!」
「す、すんません……い、いやいや! でも……!」
みんなの視線があたしに集まり、じろじろと穴の開くほど見つめられているのが嫌でもわかった。気恥ずかしくなり真っ赤になってもじもじと身をよじっていると、隣から助けの声がかかった。
「なるほど。しかし先程、私は私で、かつての私ではない、とおっしゃられていたかと思いますが、それは一体……?」
「はい」
あたしはルュカさんの変わらない優しい声にうなずき返した。
「みなさんが知っていたアーク・ダイオーンは、あたしのおじいちゃん――真野銀次郎だったみたいなんです。あのですね……この前……死んじゃいました。九十六歳で」
「そう……だったのですね」
僅かに言葉を詰まらせたルュカさんは中腰になってあたしの目線まで姿勢を低くすると、悲しそうにこう言った。
「それは……本当に残念です。麻央様も、さぞやお辛かったことでしょう」
「はい。大好きなおじいちゃんでしたから」
あたしは思わず涙ぐみそうになりながらも、まずはみんなに向けて説明を続けることにした。
「このVRゴーグルと指輪は、アーク・ダイオーンになるために必要な物だったみたいなんです。最後に銀じいは、あたしにこれを残していきました。すきにしな――そんなメッセージを添えて。あたしは銀じいの残してくれたこれが何なのかを知りたくて、偶然にも皆さんの前に姿を見せることになって、あの日、調子に乗ってあんな大それた演説までしてしまって……」
「ふむ」
ルュカさんはうなずいたものの、まだ半信半疑のようだった。
とたんに、ざわざわ、と大広間が騒がしくなった。
「た、確かに、最初は興味本位のところもありましたよ? それは否定しませんけど――!」
あたしは慌てたようにわたわたと必死で訴えた。
「で、でもっ! 皆さんをからかおうだとか騙してやろうだなんて一度も思ってませんから! その場限りの嘘なんて言ったつもりはありません、全部、あたしの本当の気持ちです! だって、みなさんは良い人たちばっかりじゃないですか! それなのに……可哀想です! よっぽど裁かれるべきなのは、正義のフリをした悪の方なのに! 全くわかってない!」
ふるふる、と首を何度も振って続ける。
「あの官房長官だって大悪党だったじゃないですか! 自業自得です! いい気味! この前もあたしの親――友達がこう言い出してきて、もう頭に来ちゃって絶賛喧嘩中なんです! だって、正義は必ず正しくて、悪はどこまで行っても悪だって言ったんですよ!? ちっともわかってないんだから! 馬っ鹿みたい!」
思い出したらとたんに言葉がすらすらと飛び出してきた。
「悪いことするから悪? そんな訳ない! 悪は誰かが決めることじゃないもん! 自分が悪だと心に決めたら悪なんですっ! そう強く思う意志と志でしょ!? なのに、誰かが言ったから、大人が言ったから悪だって決めつけるだなんて、そんなの思考停止です! それこそ悪のすることですっ!」
しん、と静まり返った後、
「うわっはっはっはっは――!!」
大広間は弾けたように笑いと歓声に包まれた。
「あ、あれ……? みなさん、どうしたんです?」
ぜいぜいと肩で息をつぎながら、隣で身を折るようにしてくすくすと笑い続けているルュカさんに尋ねると、息も絶え絶えにこう答えてくれた。
「ああ、おかしい! いや、いかにもあの方のお孫さんだなと思いまして……くくく……!」
「そ……そうなんです?」
「いや、まさにアーク・ダイオーン様の名を継ぐ者にふさわしい御言葉だと思いましたよ!」
息を整えてから冷静さを取り戻して大広間に集まった皆の顔を一人一人観察すると、どれもこれも楽しそうで、少なくとも怒ったり気分を損ねている訳ではないように思えた。ちょっぴりホッとするあたし。
徐々に静まりゆく大広間を見つめていたあたしは、改めてみんなに向けてこう尋ねた。
「あの……あたし、どうしたらいいんでしょう?」
なかなか答えは返ってこない。
隣同士で顔を見合わせ、無言で首をひねっている。
そこで突然、誰かがこう叫ぶのが聴こえた。
「よっ、二代目! これからもお願いするッス!」
ぬ、抜丸さん……?
チャラくないですか、それぇえええ!
「二代目……」
「それは良いかもしれんな」
やだやだっ!
このままだと決まっちゃう!
次々と広がっていく声を阻止しなければ!
「に、二代目って、ヤクザみたいで嫌ですっ!」
「では……お嬢、というのはいかがか?」
き、鬼人武者さん……?
それ、あんま変わんないですぅううう!
「お嬢! いいッスね、それ! 決まりッス!」
決まってない!
「お嬢、可愛い……! そして、可憐だ……!」
決まってません!
悪い気はしないけど、駄目ぇえええ!
「お・嬢! はいっ!」
「お・嬢! はいっ!」
「お・嬢! はいっ!」
あー……これ、決まった流れだわー……。
大広間を揺るがす「お嬢」コールの中、あたしは曖昧に微笑んで手を振ることしかもうできなかった。
こうしてあたしは正式に、二代目アーク・ダイオーンになったのだった。
そして――。
「ち――。俺は認めねえ……認めねえかンな……」
少しばかり浮かれていたあたしは、そうつぶいて大広間を後にする彼らの姿を完璧に見落としていたのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
【完結】ホウケンオプティミズム
高城蓉理
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞ありがとうございました】
天沢桃佳は不純な動機で知的財産権管理技能士を目指す法学部の2年生。桃佳は日々一人で黙々と勉強をしていたのだが、ある日学内で【ホウケン、部員募集】のビラを手にする。
【ホウケン】を法曹研究会と拡大解釈した桃佳は、ホウケン顧問の大森先生に入部を直談判。しかし大森先生が桃佳を連れて行った部室は、まさかのホウケン違いの【放送研究会】だった!!
全国大会で上位入賞を果たしたら、大森先生と知財法のマンツーマン授業というエサに釣られ、桃佳はことの成り行きで放研へ入部することに。
果たして桃佳は12月の本選に進むことは叶うのか?桃佳の努力の日々が始まる!
【主な登場人物】
天沢 桃佳(19)
知的財産権の大森先生に淡い恋心を寄せている、S大学法学部の2年生。
不純な理由ではあるが、本気で将来は知的財産管理技能士を目指している。
法曹研究会と間違えて、放送研究会の門を叩いてしまった。全国放送コンテストに朗読部門でエントリーすることになる。
大森先生
S大法学部専任講師で放研OBで顧問
専門は知的財産法全般、著作権法、意匠法
桃佳を唆した張本人。
高輪先輩(20)
S大学理工学部の3年生
映像制作の腕はプロ並み。
蒲田 有紗(18)
S大理工学部の1年生
将来の夢はアナウンサーでダンス部と掛け持ちしている。
田町先輩(20)
S大学法学部の3年生
桃佳にノートを借りるフル単と縁のない男。実は高校時代にアナウンスコンテストを総ナメにしていた。
※イラスト いーりす様@studio_iris
※改題し小説家になろうにも投稿しています
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】マスクの下が知りたくて。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
青春
「邪魔だよなぁー……」
大学の講義中、たった一枚の布に対して俺はそんな言葉を呟いた。
これは高値の花・アオイにじれったくも強く惹かれる、とある青年の『出会い』と『始まり』の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
願いの物語シリーズ【立花光佑】
とーふ(代理カナタ)
青春
後の世に伝説として語り継がれる試合があった。
『立花光佑』と『大野晄弘』
親友として、ライバルとして、二人の天才はそれぞれの道を歩んだ。
この物語は妹に甘く、家族を何よりも大切にする少年。
『立花光佑』の視点で、彼らの軌跡を描く。
全10話 完結済み
3日に1話更新予定(12時頃投稿予定)
☆☆本作は願いシリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。☆☆
その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる